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ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~  作者: 王様もしくは仁家
地下迷宮の死霊と復活の古代魔法兵器・2
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第九十八話 溶融点 -メルティングポイント-

公開が予定より少し早いですが、お盆休みということで。

 ハティとハイネスの二人は、坑道を慎重な足取りで進んでいた。

 坑道は緩やかな下り坂となっていて、しばらく歩いていると前方に明かりが見えてきたので、二人は小走りになってその明かりを目指した。

 すると坑道の先に広がっていたのは、ドーム状の空間だった。

 そして明かりの正体は、壁のあちこちに設置されている貯光石の照明だ。

 しかしハティとハイネスが言葉を詰まらせて呆然と立ち尽くしていたのは、目の前に広がる異様な光景が原因だった。


「ハ、ハイネス、ここは一体なんなのじゃ……? 彼らはここで何をしておるんじゃ……?」


「姉御、俺にもさっぱりだ……。しかしどうやらここはリザードマン族のコロニーみたいだが、見るからに様子がおかしい……」


 二人の前に広がっていたのは、リザードマン族と思われる五百人近い集団が綺麗に整列している姿だった。

 しかしこれだけの大人数が居るにも関わらず、誰も私語をすることなく無言のままうな垂れている。

 その様はまさに糸の切れた操り人形のようだ。

 ハティとハイネスは、恐る恐るリザードマンの集団に近付いてみる。

 皆焦点の合っていない虚ろな目つきをしていて、二人が接近しても何の反応も見せなかった。

 そして何よりも二人を困惑させたのは、全員が二メルテ近い巨躯を誇り、頭から水牛を連想させるような太くて逞しい二本の角を生やしていたことだった。

 更にはまるで今から戦地へ赴かんばかりに、全員が胸当てと剣や盾を装備しているのだ。


「ハイネスよ、この国のリザードマン族は昔からこのような姿なのか……? 妾はこんなリザードマン族はこれまで見たことも聞いたこともないぞ……」


「姉御、俺だっていま目の前の光景が信じられないんだ……。なんてたって俺の知ってるリザードマン族よりも体格はでかいし、何よりも頭から見たこともない角が生えているんだ? 一体どうなってるんだよ、これは……」


「一旦ここから離れた方が良さそうじゃな……」


 ハティは野生の勘とも言うべき、得体の知れない恐怖を感じて後退りをしていた。

 それにつられてハイネスも息を殺して、その場からそろりと立ち去ろうとする。

 しかし突然ホール中に誰かの声が響き渡った。

 それは悲鳴に近いヒステリックな叫び声で、言語にもなっていない野生動物に近い叫び声だった。

 そしてその声に反応するかのように、今まで立ったまま眠っていた五百名近いリザードマンが一斉に顔を上げた。


「な、なんじゃ!? どうしたのじゃいきなり――!?」


 ハティは戸惑いながらも声がした方に視線を向けると、二人が通ってきた坑道とは別の坑道に、いつの間にか一人のリザードマンが立っていた。

 そのリザードマンは二人の方を指差して、短い悲鳴に似た叫び声を数度発した。

 すると一斉に目の前のリザードマン軍団が、双眸を怒りの色に滲ませて二人に襲い掛かってくるではないか。


「もしかして操られておるのか――!?」


 ハティは戸惑いつつも縦横無尽に襲いかかってくる斬撃を、血族旗(ユニオントライブ)を巧みに操って上手く捌いていく。

 その横ではハイネスも自身の剣と軽い身のこなしで無数の太刀を受け止め、或いは交わして懸命にリザードマンたちに呼びかけていた。


「待て! 俺はアルテオン王子の側近の者だ! お前たちリザードマン族は元よりルード家の臣民だろ!? 俺たちが争う理由はない! どうか剣を収めてくれないかっ……!」


「どう見ても話が通じる状態ではないぞ! ハイネス、戦うのか逃げるのかお主が決めてくれ! 妾はそう気が長くないからの! 妾の拳が我慢しているうちに早く――!」


「姉御、こいつらと剣を交える謂れがない! しかし我らの蜂起が目前の状態で、この尋常じゃないリザードマンを放っておく訳にもいかねえ! せめて彼らがこうなった原因を探らないと……。もしもこれがヴォルティスの仕業だとしたら、早く殿下や仲間たちに知らせないと――ぐはっ……!」


 一撃を交わし損ねて、左腕を斬りつけられるハイネス。

 怯んだ彼の元へ四方八方から無数の剣が襲い掛かるが、ハティが電光石火の身のこなしでリザードマンたちの間をすり抜けてハイネスを掻っ攫っていく。

 

「す、すまねえ、姉御……!」


「戦ってはダメと言うのならば、さっさと逃げるが勝ちじゃ! このまま最初の坑道に逃げるぞ! 原因を探るにも、まずは態勢を整えてからじゃ――!」


 ハティはハイネスを抱きかかえたまま、ホバークラフトのように地面を滑っていく。

 ハティが履いている皮ブーツの底には魔方陣が刻まれており、魔力を込めれば瞬時に魔法が発動する仕掛けがあって、それは魔力量を調整することで地面を滑るように移動することも、大木の枝に飛び上がることも可能だった。

 そしてそのままあと少しで坑道へ差し掛かろうとした時、ハティの腕の中でハイネスが悲痛な声を上げた。

 その声に振り向いたハティの両目が見開かれた。

 何故ならばリザードマンたちが複数のグループに分かれていて、その各集団の頭上には巨大な火球(ボーライド)雷球(ハイプラズム)が浮かんでいたからだ。

 ざっと数えただけで五つから六つはある。


「あんな大勢で広範囲攻撃魔法じゃと!? しかもこんな閉鎖空間で! 正気か!?」


 ハティは前傾姿勢でさらに速度を上げた。

 そして坑道へ滑り込むと同時に、背後から強烈な光と衝撃と熱風が襲い掛かるのを感じた。

 地面が激しく揺れて、坑道の天井が轟音を立てて崩壊し、二人の影は土埃の中へと消えた。




 ヴォルティスは執務室のソファに深く体を沈めて、従者たちの報告に静かに耳を傾けていた。

 特に上機嫌でもなくかと言って不機嫌でもない。ただ鉄仮面のように無表情のまま、三白眼で従者の顔を睨んでいるだけだ。

 その張り詰めた空気に、自然と従者の声も上擦っていく。


「……ルード家兵舎の制圧と武装解除は一部を除いて成功しております。現在市内を逃走している兵士の数は約二百名ほどで、先導しているのはアルテオン王子の従者と言うところまでは確認できておりますが、以前王子本人の消息は不明でございます……」


「ここまで来れば安泰と思いたいところだが、追い詰められた鼠は猫に歯向かうとも言う。現に耄碌した老人と違って、この俺に向かって牙を剥きやがった。アトレオンをただの温室育ちのお坊ちゃんと侮れば、足元を掬われる可能性も万に一つはあると思った方がよいということか……。そう言えば、地下牢に潜り込んだという鼠はどうなった?」


「獣魔兵の第一陣を撃退した後で、旧水路を市街地に向かって進んだと思われ、現在獣魔兵を含む捜索隊を編成して事に当たらせております」


「先々代の時に、市街地の下水路から旧水路へ続く道は全て塞いである筈だから、地下からこの城への潜入も脱出も不可能と言うのが、この城を統べる者に伝わる常識。さてはて、その常識を鵜呑みにしていいものか……。確か鼠はアルテオンの従者と、もう一人はステラヘイムの者と言っておったな……?」


「はい。はっきりとした素性まではわかっておりませんが、ユリアナと行動を共にしていたことは確認が取れております」


「アルテオンの従者とステラヘイムの者が一緒に行動か……。そして消息不明のアルテオン……。ならば遅かれ早かれ、ステラヘイムが介入してくるのは間違いなしと言う事か。ふん、小賢しいな……!」


 ヴォルティスが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。


「いかがなさいましょう。ルード軍とステラヘイム軍の共闘になられては、さすがに我らも苦戦を強いられるでしょう。更に奴らが所有するとされる魔法戦艦を持ち出されれば、尚更に……」


「魔法戦艦か、確かに厄介ではある……。そう言えば、その後ゾフィから連絡はあったか? 古代遺跡の地下に眠っていたのは古代魔法兵器と言うところまでは連絡を受けたが、それ以降の進捗具合が途絶えている。もしかしたら早速その魔法兵器を投入できるやも知れん。早急にゾフィに使いの者を送れ」


「かしこまりました」


「それからステラヘイムに伝書蝶を飛ばせ。内容はこうだ。ユリアナをルード王暗殺犯として捕らえて処刑間近である。但し、そちらの態度次第で取り引きに応じる準備もある、と――」


「では、明日のユリアナの処刑は見送るということで?」


 その従者の問いかけに、ヴォルティスは唇を歪めた。それが笑みとして色があるとするならば黒色だ。それも闇よりも濃いどす黒い笑み。


「ふふっ、もちろん予定通り行うにきまっておろう。伝書はあくまで攪乱にすぎん。ステラヘイムがアルテオンの口車に乗せられるのを少しでも遅らせるだけでいい。どの道ユリアナが処刑されたと知れば、ステラヘイムが牙を剥くのは必至。それまでに国中の貴族たちをまとめ上げて、俺の体制を磐石にしておきたい」


 ヴォルティスは一歩一歩踏みしめて歩くかのように、一語一語に力を込めて慎重に、思案しながら力強く、自分自身に、従者に、運命に言い聞かせるように力強く呟いた。

 その後ですぐに何かを思いついたように、こう付け加えた。


「――あと現在完成している魔導兵と魔導兵器も全て投入して構わん」


「宜しいので? ステラヘイムとの戦争はもう少し先を想定しておりましたので、まだ魔導兵は三十体ほどしか完成しておりませんが?」


「魔導兵一体で百人力、三十体なら三千人の兵力だ。それでもこの難局を乗り切るには心もとない数字だ。しかし俺は乗り切ってみせるぞ……!」


 ヴォルティスは空を睨みつけ、拳を握りしめて武者震いをする。

 すると、突き上げるような衝撃と轟音が遠くから聞こえてきて、執務室が微かに揺れた。


「一体何事だ――!」


「陛下、庭園に異変が!」


「庭園だと……!?」


 バルコニーから従者の慌てる声が聞こえてきたので、ヴォルティスもバルコニーへ飛び出した。

 そこでヴォルティスの目に飛び込んで来たのは、庭園の一部が大きく陥没して土煙が立ち上がっている光景だった。


「――うぬぬ、やはりアルテオンどもは地下から仕掛けてきたのか……!? 早急に城内の兵の三分の一を、庭園と地下水路入り口に回すのだ! 残りの兵はユリアナを今から闘技場へ移送せよ! 闘技場と王都全体に魔法防壁装置を展開して最高レベルの警備でユリアナを守りぬけ! 明日の処刑が終わるまで王都への出入りは東門一つにして、近隣領主以外はネズミ一匹入れてはならぬ! あくまでもユリアナの警護が最重要にして最優先事項だ! ユリアナの首さえあれば、貴族も民も我らを支持する! 何としてでも死守せよ!」


 ヴォルティスはそう檄を飛ばすと、傍らの従者に向かって憎々しげに顔を歪ませて呟いた。


「奴らアルテオンとステラヘイムの目的は、ユリアナの奪還と俺の首……。ならば俺は日の出まで城に滞在して、敵の目標を分断させてやるわ。その後でありったけの油と火薬を地下へ流し込んで、虫けら一匹残らず焼き尽くしてやれ。城が燃えてもかまわん……! こんなものはただの象徴の器にすぎん。俺とユリアナが無事であれば、どんな手も使ってやる。それまでは何としても、敵を地下道に押しとどめておくのだ。そこを乗り切ればあとは時間との勝負! 集まった近隣貴族たちと民の前で、ユリアナを処刑さえすれば我らの勝利だ……! そうすれば彼らが俺の王政の正当性を口中へ伝播してくれる。その時、俺がこの国の、ただ一人の真の王となるっ……!」

次回更新は金曜日夜から土曜日の朝までには。

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