彼との出会い、そして七夕
あの日、私たちは誓い合った。そして、それを支えに今まで生きてきた。
それは、離れ離れになっても変わることはない。
たとえ、彼がこの世からいなくなったとしても。
桜が舞い散る季節、私は彼と出会った。
彼は成績優秀、努力家だけれども天才肌で、それでいて私みたいな人にも優しく、決してバカにするようなそぶりもなく接してくれた。
そんな彼は私にとってあこがれであり、目標だった。「彼と一緒にいろいろな景色を見てみたい。彼と一緒にいろいろなことをしていきたい。そして、かなうならば彼の隣で彼を支えていきたい。」
今から思えば、もうそれはすでに恋の始まりだったのかもしれない。
七夕のちょっと前、仲のいいみんなで集まっていた時。もちろん彼はその中にいたが・・・
その時、七夕前ということもあって、私たちは短冊に願いを書いていた。
私はいったい何を書いていたのだろうか。確か、「大学生活が充実したものになりますように」だとか、「家族が健康かつ、いつまでも元気に過ごせますように」だとかそんな無難なことだった気がする。
そんな中、一人窓の外を何か寂しく見ている彼がいた。
もちろん、私がそんな彼を見逃すはずがない。放っておけばよかったかもしれない。でも、私はどこか悲しそうにしている彼を放っておけなかった。
「どうかしたの?」
もっとうまい言葉があったかもしれない。でも、彼と違って頭のいいわけじゃない私が絞り出したのは、そんな簡単な一言だった。
「ん?ちょっとね。」
彼は少し寂しそうな笑いを浮かべた後、何事もなかったかのようにみんなのもとへ行った。
そしてやってきた七夕の日、せっかくなのでササを飾り付けるついでに、天体観測をしようという話になった。
みんなで公園に寝転んで、夜空を見上げる。
周りの人から見たら、大学生の男女数人が講演で寝ている、ただの奇妙な光景に映ったはずだ。
「きれいな天の川だね…」
みんなして、そんな感想を口々に口にする。
そんな時、視界の端に映った彼の頬に、一筋の光が見えた気がした。
数時間後、解散の時に彼を呼び止めたのはなぜだろう。きっと、その光が気になったからかもしれない。
「ねえ。」
帰ろうとしていた彼が振り返る。
「さっき、星空見ながら泣いていなかった?」
どうしてそんな直接的に聞いてしまったのだろう。もっと言葉を濁せば、いや、オブラートに包めばよかったのに。そんなことを思いながら、彼の言葉を待った。
「天の川って、銀河系の中心を見てるようなもんだろ?正面じっと見ってられなくて、現実から目をそらしてた。」
どこまで本気なんだかわからない笑顔で、そんなことを彼は言う。
「目をそらしたくなるようなことでもあったの?」
「彦星と織姫はいいよなぁ…年に一度と言えども出会うことができて。」
「…え?」
突然のそんなセリフに、私の脳内は混乱してくる。
「まあ、あいつらはカップルだけどさ。もっとつながり深いのに、もう二度と会えなくなることもあるのにな…」
彼の声がどんどん儚くなってくる。
「俺はもう、家族に会えないんだ。父親は離婚した後消息不明、兄弟もなし、親族もなし、母親は…大学入った直後に、事故死した。」
「母親を助けたいと思って、この大学入ったのに、そんなすぐにいなくなるなんて、嘘みたいだろ。」
彼が吐き出す言葉は、私の同意を、理解を求めていない。そんな雰囲気だった。
「俺、この大学で、何したらいいんだろうな…」
それは、彼が初めて私に見せた、弱音だったのかもしれない。