鏡の中のあなた
ルチアは異常な子供だった。
賢い、などというのは生温い。3歳児とは思えないほどに聞き分けがよく、頭が回った。周囲の人々はルチアの生まれゆえに、おかしな事をおかしいとも思わなかったが、通常の3歳児と比べれば明らかに異常である。ルチアはその異常さから、メリッサには目前の黒い瞳が見えていない事、鏡に向かって話しかけるなどということが周囲の大人を不安にさせる事を理解していた。
だからメリッサには眠くなってしまった、昼寝がしたいとお願いして下がってもらい、1人になるとさっとベッドを抜け出し鏡台の前に立った。そこには変わらずに黒い瞳があった。
自分と全く同じ容貌の筈なのに、瞳だけが明確に異なっている。
不思議と警戒心は湧いてこなかった。そこにあって当たり前のものがあるだけだと、そんな気がしていた。だから無邪気に話しかけた。
「ごきげんよう!わたしルチアっていうの。あなたはだあれ?」
問われた鏡像はにこりと頬を緩めると、なんだか泣きそうな顔をして笑った。
「…久しぶり、かな。僕は柊玲司っていうんだ。宜しくね、ルチア」
「うん!」
心底嬉しそうに笑みをこぼし、笑い合う。心をつつく僅かな痛みには目を向けないことにして。
「ねぇ、えっと、ヒラギ…?」
「玲司でいいよ」
「レージ!レージのおめめはまっくろね?顔は私とおんなじなのに」
「鏡は異界に通じているって話もあるからね。僕は幽霊みたいなものだから…。
瞳は魂を映す窓というし、僕の魂の色が現れてるのかもしれないね。」
「よく分かんなーい!!」
ルチアは頬を膨らませて不機嫌を表す。いくら異常なほど賢いと言っても、まだ子供。分からないことがあればイラつきもする。
「見えてなくても、ずっと一緒にいるってことだよ」
「ずっといっしょ…ずっと……」
玲司が笑って言うと、ルチアはぼうっと何度か繰り返し呟いて。
「とってもステキね!!」
そしてまた2人で笑い合った。




