写る色
侍女のメリッサはこれ以上ない幸福に身を震わせ、緩む頬を必死で引き締めていた。
彼女は齢25にして容姿、頭脳、武力を徹底的なまでに磨きあげ、尊い方々を陰日向に支えていく事を至上の喜びとする、生粋の従者である。その矜持ゆえ主人の定まらぬ身であったが、良き雇い主として仕えてきた公爵家の御当主より一人娘の専属侍女として忠を尽くしてはくれまいかと頼まれ、一も二もなく了承した。
3年前、出産に立ち会いその姿を目にした瞬間に直感したのだ。この赤子が自分の生涯の主人であると。
いつかこの方に仕える為にと尚一層仕事に励み、信頼を勝ち取り、漸くこの日を迎えたメリッサの心の内は推して知るべしである。
そうして若干顔を蕩けさせながらも周囲の観察は怠らない。大切な主人に何かあっては遅いのだ。
「めりっさ?どしたの?」
主人の金色の瞳がメリッサを見上げる。その瞳に見つめられるたび、春の日差しの下にいるような温かな気持ちになる。
メリッサは表情を和らげて応えた。
「これから毎日ルシア様のお世話を出来ると思ったら嬉しくて」
「まいにち!ホント!?」
「はい、御当主様から仰せつかりました」
そう聞いて飛び跳ねて喜ぶ主人の愛らしいこと。
「ルシア様、御髪が乱れております。結い直しましょう」
跳ねるルシアの髪型が崩れているのに目を止め、今日新しく置かれた鏡台の前まで導く。
「これ、初めてみる」
「御当主様が視察の土産にと」
「そうなの」
興味深そうに鏡を眺めるルシアを不思議に思いながら、大人には分からないところで興味を持つ事もあるだろうと黙って髪を結い直していく。
「くろい…」
「いかがされましたか?」
「くろいの」
御髪の事だろうか。高貴な、天上の色。
メリッサはほうと息を吐くと鏡越しに金の瞳に微笑み、左様でございますねと頷いた。
そうしてメリッサは見逃した。主人の内側で起こった重大な変化を。いや、誰にも気づきようなどなかったであろうが。
興味津々と鏡を覗き込むルチアの金の瞳。
美しく輝くそれを、鏡の向こうから月を彩る夜闇の如き黒が見つめ返していた。




