第二章 02
とりあえず、今の夏目人――つまり秋月神斗の姿を探して校内を歩き回る。
途中で知り合いに会ったら、なるべく情報を引き出した。
今のジンを、見かけたか、どこにいるかを知らないか。
それだけではない。
僕達は三人なので、役割分担して、今のジンが付き合い出した相手について何か知らないかを聞き、知っているようだったら、春樹が詳しく聞き、僕と美冬が次の人に話を聞くことにしたのだが、今のところ、該当者はいない。
だけど、もう放課後だ。
今のジンが帰っている可能性もあると思う。
そんなことを考えながら、歩いていると、体育館の裏を覗いている女の子がいた。
「何してるの? 夏葉? 他ならぬ貴方が?」
「美冬!? えっ、どうして?」
裁園寺夏葉。
背丈は女子にしては少し高め、髪は少し茶色っぽい自毛で短め、胸は巨乳という表現以外が思いつかない大きさ。
あっ、当然のように美少女。
もういちいち言いたくなくなるくらい、僕の周りは美少女が多い。
「その先に何かあるの? 裁園寺さん」
「あっ、ダメ! って、なんで秋月くん!?」
と言いつつ、体育館の裏を見ると、今のジン、つまり、本来の秋月神斗が女生徒(美少女)と話をしているみたいだ。
「王君が相手か? アイツ、自分が、い――ジンだって忘れていないか?」
自分が今、ジンだということを……と言いたかったのだろう。
それを事情を知らない西園寺がいるから言い直した感じだ。
王君秋。
背丈は普通、髪は茶髪で長髪、胸は普通。王君の特徴はスポーツ万能ってこと。
テニス部のエースという上に、球技大会のソフトボールでピッチャーとして活躍。
校内のイベントの強歩大会ではクラスで一番。
今のジン、本来の秋月神斗が今、自分がジンの姿だということを忘れていると思うのも納得できる。
帰宅部の僕より、サッカー部の神斗の方に縁があるだろうからだ。
つまり、普段の神斗ならともかく、今の僕だと認識されている神斗と一緒にいるのはおかしい。
「違うの! 告白を覗きに来たとかじゃなくて!」
裁園寺が小声で抗議する。
だけど――
「告白だったんだ?」
「なんだ、今からだったんだ。セーフにしてあげるよ。ジ――神斗、他ならぬ貴方なら」
美冬がそう言う。
だが、裁園寺が付け加える。
「うう、でも、秋ちゃんからみたいなんだよ。その、たまたまだからね? 私は――うう、もういいです。どうせ私は秋ちゃんと一緒に人の少ない場所に行く夏目くんを見つけて追いかけたストーカー女です。でも、私も気になるんです! それは許してください! 私はそういう人間なの!」
裁園寺が暴走した。
僕と春樹が面くらっていると、美冬が付け加える。
「夏葉はいつもこうだから。それより、あ――ジンの返事は?」
秋月と言おうとしたんだろう。
また事情を知らない西園寺に配慮だ。
もういい加減、慣れて欲しい。
いや、それではダメだ。
慣れる前に元に戻って欲しい。
そして、僕だと認識されている秋月は考えがまとまったのか口を開く。
「よろしくお願いします」
「「「えっ?」」」
僕達は今のジン――本来の秋月の声に、裁園寺以外全員が驚く。
「うう、やっぱり。さっきから告白に入る前だっていうのにイイ雰囲気だったし……」
いや、今の状況で告白を受けたらどうなるんだ?
戻ってから困らないのか?
それとも、秋月は元に戻る気がないのか?
もしくは入れ替わりを自覚していないとか?
告白を終えた二人は体育館の裏から去っていった。
僕達はそんな数々の疑問と共に体育館の裏に取り残された。