第二章 01
「♪」
「美冬、ご機嫌だね? もしかして、誰かと付き合い出した?」
美冬の友人の女の子がイタズラっぽく聞く。
そこに美冬はなんのためらいもなく答える。
「うん♪」
「えっ、うそ!? 誰と!?」
「ジン――じゃなかった。神斗と」
「えっ!? そうなの? 全然、接点なかったじゃん!? って、なんで、彼氏の名前を間違えかけるかな?」
言い間違えから出たボロを美冬は無理やりなんとかしようとする。
「今は……ね?」
「どういう意味? 彼氏を変えるつもりでもあるの!? ……でも、まあ仕方ないか。夏目君は他の人と付き合いだしたみたいだし――」
美冬は取り乱し、よくわからないまま、何かをしなくてはと焦り出す。
「えっ!? 何それ!? 聞いてないよ!」
「落ち着いて、美冬。美冬!?」
美冬は走り出した。
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|(ジン、嘘でしょ? ジン)
美冬は、ジンを探して走り回ると、ジンと春樹を見つけた。
「ジン!? ……じゃなかったカ――って、そうだよ。ジンは今、神斗なんだから、入れ替わっている人のことじゃん!?」
|(そうだよ、何を考えているの!? 他ならぬ私が。でも、いつからか確かめないと……。時期によっては浮気の可能性が……ないな。他ならぬジンなら。というか私と付き合い始めたのも最近なんだから、入れ替わる前でも一応、浮気にはならないじゃん!?)
理屈の上では問題はない。
それでも、気持ちの面では納得できない。
複雑な乙女心だった。
いや、こういう程度なら、乙女じゃなくても――ですね。
まあ、そんなことは目の前の神斗――もといジンに聞けばいい。
「ジ――神斗、春樹」
「えっ、ああ、美冬」
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僕は春樹と校内を歩いていた。
そこに美冬が息を切らしてやってくる。
「どうしたんだ? 美冬?」
「ジ、ジンが――」
「落ち着いて、美冬。まずは息を整えて」
「う、うん」
美冬は息を整えてから口を開く。
「ジンが誰かと付き合い始めたって本当?」
「うん」
思わぬ返事が返ってきたので美冬は慌てる。
いつもならわかりそうな答えに焦った美冬はたどり着けない。
「えっ? えっ、誰と?」
聞かれたので美冬を指差して言う。
「美冬と」
「私と? はあ~~」
「落ち着け、神斗(、、)。今、お前は誰だ? 夫婦漫才は後にしろ」
美冬が安心して胸をなでおろし、春樹が神斗の部分を強調して言う。
その言葉を聞いて、美冬が照れる。
「そんな夫婦漫才なんて~~。他ならぬ春樹はいいこと言うね~~」
「だから、落ち着け。神斗のかの――」
美冬が今度は睨む。
現状では間違っていないが、言葉にされるのが嫌だったのだろう。
春樹は怖気づいたのか、訂正する。
「コイツの彼女」
「はい、よくできました」
春樹は他の人に聞かれても大丈夫な言い方をひねり出し、美冬が採点する。
「はあ~~、で、付き合い始めたって今のジンがか?」
「そう……らしい」
「それを、なんで、こうやって確かめる? 今の神斗に聞いてもわからないだろう?」
「うん、だから……落ち着いてなかったんだって」
「他ならぬお前がか?」
「う~、パクらないでよ。春樹」
「ねえ、それよりさ」
「なんだ? 神斗?」
「僕達のことじゃないなら、誰と?」