3.世界渡りのプロローグ 第四章 02肯定による生まれ変わり
「ところで使われた異能はどんなものでしたか?」
神父さんが冬彦の出力媒体の再生を準備しながら問う。
「おそらく、パーソナライズを奪う異能と、パーソナライズを感覚として続けさせる異能ですね」
「感覚として続けさせる?」
神父さんは出力作業に関わっていない。
ゆえに出力作業に関わった冬彦だけが知る事実と、冬彦が向かわされた顛末から冬彦は事態を予想して、話を進める。
「おそらく、パーソナライズのカタワレの方は理屈で生きるのが大半で、壮大なパーソナライズを持ちつつも、感覚的ではなかったので、奪うことがほぼできなかったのでしょう」
「ああ、なるほど」
神父さんはそこで気づいたようだ。
「つまり、奪うために、そのパーソナライズを感覚的でいさせる必要があった。だから、感覚的にさせる異能です」
「なるほど。この出力されたデータは」
「ええ、楽な方を選ばないでだの、それだったらこちらでもいいだの。彼が何故、こう在れるかがわかっていない」
そう一度たりとも彼の周りは彼の在り方を、
そう在れる理由を実践できていない。
彼を
彼という人間の選ぶ選択を
肯定していない。
彼を
彼という人間を受け入れていない。
彼は危険性を考慮し、指摘し、
その上でそれが一つの選択だと
一つの正解だと思えたなら、
それを
肯定するのだ。
受け入れるのだ。
たとえ、それが自分を置いていく行為でも。
いや、置いていく行為ならだろうか?
彼は彼を貶めたり、
世界を汚すだけの行為なら言葉で抵抗はする。
だが、ただその可能性を否定するだけなら、
それすらも
人類の選択だと肯定するのだ。
そして、自分を置いていきさらに上に行くための行為なら、
ああ、そうだった。
その通りだ。
それでいいとありがとうと肯定するのだ。
自分の現状を世界に認められなくとも、
もっと上があると示され、自分の小ささを指摘されても、
事実を決して否定しないのだ。
世界を世界として受け入れる。
だから彼は理屈で生きていける。
現実を否定しないから。
そして、故にこそ、心の大半が旅立っても、宿る意識がある。
ある意味、彼はそれによって生まれ変わっているのだ。
だからこそ、裁判教会は彼を庇護対象と決めた。
あなたを救った感覚を維持させようとしているのではないですか?
もしくはそれ無しであなたは生きていけますか?




