第一章 06
そして、タイムカプセルを開ける当日、僕達はあの丘のような場所にいた。
「美冬は何を入れたか、覚えているのか? って、愚問だったな。お前が覚えていないわけがないか」
「ううん、実は覚えてないの。他ならぬ私が。まあ、覚えていない方が楽しめるかなと思って、覚えていようとしてなかったのもあるかもしれないけど……」
「へえ、そうなんだ。たしか、ココだった――って言ってたっけ?」
僕はタイムカプセルの場所を知っているように言いそうになり、慌てて言葉を付け加える。
「うん、そうだよ。何、春樹、教えたの?」
「ん、まあな。まあ、ぎりぎりセーフってことにしておいてくれ」
「まあ、いいけど……。さあ、掘り返そう」
僕達はタイムカプセルを掘り返した。
たまにスコップが硬い土にあたり、手に衝撃を伝えてくる。
それもあって少し掘り返しづらかったけれど、そんなに時間がかからずに掘り返せた。
そのタイムカプセルとして埋めた箱を僕達は開けた。
僕と春樹はその中身を懐かしそうに取り出し、美冬は少し、驚いていた。
「この結晶……懐かしい。でも、こんな色だったっけ?」
感慨深さの混じった美冬の声が聞こえる。
そして、美冬は結晶に手を触れる。
「えっ!?」
美冬は驚いて声をあげる。
「そっか、これを入れていたんだ? 確かに色が違うね」
僕もその結晶に手を触れる。
だが、触れる直前に気付いてしまった。
この言い方だとこの結晶を知っているみたいに聞こえる。
春樹がそれを指摘する。
「バカ、神斗!?」
だが、それでも結晶に触れない理由にはならないだろうと思い、結晶に触れる。
その途端、冷たいはずの結晶が熱を持ち、同時に結晶の色が僕の知っている色に戻り、ある感情が流れ込んでくる。
「っ……」
「神斗じゃなくてジンでしょ? 春樹」
その声は美冬の声――僕が恋していた相手の声だと思い出した。
「美冬?」
「自信を持っていいんだよ、ジン。他ならぬ貴方なら」
「「美冬?」」
春樹と共に声をあげる。
だが、疑問とは反対に、僕は涙を流していた。
「ハハハ、ずっと、このセリフを言うためにこれが口癖になったんだよ。でもね、言えなかった。それを実感させる状況で言わなければ届かないと気付いていたから……」
「美冬、お前、冗談でも言っているのか?」
春樹は、美冬が本当に僕のことを思い出したか、試しているのだろう?
これで冗談なら笑えない。
「大丈夫、こんなのなくても確信しているけれど、証拠ならあるよ。この写真」
美冬は僕達、三人が写っている写真を見せた。
おそらく、それもタイムカプセルに入れていたのだろう?
美冬はきちんとこの写真に写っている僕を夏目人だと認識しているらしい。
「美冬、そうだよ。僕がジンだ。なぜか、皆から秋月神斗と認識されるようになってしまったけれど、僕がジンであることを僕が自信を持って言える。こんなことなら僕でも自信が持てる。こういう小さなことから自信を持っていくよ」
「原因はその結晶か? もしかしたら、その結晶がお前の記憶を思い出させてくれたのかもな?」
「うん、そうかもしれない」
美冬の声に胸がドキドキする。
やっぱり、これは恋だ。
それを確信して、僕は口を開く。
「美冬、結晶が思い出させてくれたのは君の記憶だけではないよ」
「「?」」
春樹と美冬が不思議そうな顔をする。
僕は告げる。
何年もこの結晶に封じ込められていたこの想いを――。
「美冬、僕は君が好きだ」
「ありがとう、私も好きだよ」
あっさりと返事が来て、美冬に伝わっているか不安になり、今度は違う言葉で言う。
「月(、)が綺麗だね」
今は夕方だ。
もちろん、月なんて出ていない。
だが、僕達にはそれで十分だった。
「私、死んでもいいわ」
それはOKの返事だった。
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I love you
その日、僕達は不思議な結晶に大切なことを思い出させてもらった。
数年越しの恋と共に――。
けれど、この時は気付いていなかった。
春樹の腕の――写真にはなかった時計の――針の先端に、装飾された結晶が光っていたことに――。
そして、僕達のように結晶に触れて、不思議な感覚を味わったわけではない春樹がその原因が結晶だと言った不自然さに――。