2罪のハジマリ 第五章 01
第五章 たとえ離れていても……
俺達は某国の核兵器所持を暴き、某国も知られてからは余計な騒ぎは起こさず、飛行機で帰るところだった。
だが、核兵器所持が明らかになったとはいえ、本番はここからだろう?
細かい交渉等、場合にもよるが経済制裁等、いろいろなことがある。
俺達はあくまで隠されていた核兵器所持を明らかにしただけなのだ。
普通の国内での事件なら逮捕されて裁判にかけられて終わりだ。
だが、これは国が起こしたことだ。
当然、少なくとも国内には、逮捕する組織も、裁判をする組織もいない。
それこそ裁判教会みたいなところがない限り……。
国の一部が暴走して起こしたことと判断され、国が処罰を下す可能性もあるのだろうが、それも俺達の仕事ではない。
だから、俺達は日本に帰る。
だが、飛行機で日本まで飛んでいる間は暇だ。
だから、俺達は、冬彦と千秋に俺達の行動を話し、逆に冬彦と千秋の行動を聞いていた。
それは丁度、冬彦達が付き合いが悪くなった時からの話だった。
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僕ーー冬彦は千秋と付き合うことになった後、千秋に呼び出された。
「あれ? 天典と春美はいないのかい?」
「もう、冬彦。今日は二人だけでデートがしたかったの! ダメ?」
「いや……ダメじゃないけど……」
千秋とデートをするのは嫌ではなかったけれど、詳しい予定を立てていなかったから別のことだと思っていた。
そうすると、それが顔に出ていたのか、または僕の言葉で判断したのか、千秋が補足する。
「ハハハ、困らせちゃってごめんね。デートをしたいっていうのは本当だけど、本題は天典のことだよ。天典が私達をくっつけてくれたようなものだから何かお礼がしたいなって思って」
「ああ、それは確かにそうだね。でも、どうするんだい? 喫茶店で話すのかい?」
「もう、デートがしたいっていうのも本当だって言ったでしょ? そのへんをぶらぶら歩きながら考えようよ」
「それだと何も決まらなくないかい?」
「その時に喫茶店に行こうよ」
「まあ、いいけど……」
その流れに僕は少し嬉しくなった。
確かに天典に対するお礼も考えたかったが、どちらかというとデートもしたかったのだ。
いや、正直に言おう。
実は少し天典に嫉妬していた。
やっぱり、千秋の一番の親友は天典なんだなぁと……。
それでも今、千秋と付き合っているのは僕だ。
そう思ったところで思考を中断する。
今は、この場にいない天典のことは気にしないで、千秋と話そう。
そう思って前を見ると僕があまり通らない道を通っていた。
「そういえば、どこに向かっているんだい?」
「えっ、ぶらぶら歩いているだけじゃないの?」
「それでも普通は知らない道を選んだりはしないだろう?」
「えっ、知らないの? 冬彦が知っている道なんだと思ってた」
? そういえば、なんで僕は自分が知らないだけで千秋も知らない道なのだと決めつけていたのだろう?
まあ、千秋は僕の知らない道がないように新しく通った道はすぐに教えてくれるからだろう?
「まあ、いいじゃん。適当、適当。って、あれ?」
「何? どうかしたのかい?」
そう、言いながら、千秋の視線の先を見ると教会があった。
「教会?」
「ねえ、入ってみようよ。もしかしたら天典が言っていた教会かも!」
「う~ん、まあ、いいか。教会なら相談に乗ってくれることもあるって聞いたことあるし……」
「そうなの?」
「いや、劇でそういうシーンがあっただけだけど……」
「劇なんて見てるの?」
「いや、正確にはそういう劇をするシーンがある作品なんだけどね」
「ハハハ、ややこしいね」
「そうだね」
そう言いつつも、僕達はなんとなく教会に入っていった。
教会に入ると中には神父さんがいた。
「おや、ようやく来ましたね」
「ようやく来た?」
「ああ、ええ、ようやく人が来たという意味です。今日はまだほとんど人が来ていなかったもので……」
「ああ、そういうことですか」
少し変だと思いつつも、僕は納得してしまった。
「それでどうしました?」
「天典――あっ、いえ、友達にお礼したいんでどのようなお礼がいいかを相談したくて……」
「天典?」
「友達の名前です」
千秋は気付いていないのだろうか?
自分の話し方なら、それが友達の名前だということは推測できるということに……。
それより今、神父さんが名前を呟いたのには別の意図がありそうだということに……。
「詳しい話をお聞かせ願いますか?」
僕達は詳しい話を神父さんに聞かせた。
「天典さんとは夏上天典さんのことでしょうか?」
「知っているんですか?」
「知っているも何も彼の特技を異能だと認定して、ここのことを広めるお願いをしたのは私ですよ」
「そうですか? なら、全面的に信じますので、もう知らないふりをするのは止めていただけませんか?」
「ちょっと、何言ってるの、冬彦?」
「……、はあ、やはり、あなたにはわかりますか? 天典さんの時に失敗したので、なるべく怖がらせないように配慮したつもりなのですが……」
やっぱりか。
それでも、その心遣いを聞いて、僕の不信感は和らいだ。
千秋にとって、それはいいことだからだ。
「えっ、神父さんも何を言っているんですか?」
「彼の特技を異能と認定したのは私だと言ったはずですが? 私は最初、天典さんに言われて来てくださったのかと思ったのですがね?」
「「あっ」」
「やはり、忘れていましたか?」
「すみません、呼ばれていましたね? 正直、忘れていました。天典へのお礼のことで頭がいっぱいで……」
「いえ、それはいいので、怖がらずに私を信じていただきたい」
そこでわかった。
この人は本当に怪しいわけではない。
ただ、不器用で、神秘的なのだ。
この人に感じていたのは未知の力への恐怖。
ただ、それだけだったのだ。
まあ、千秋は分かっていないみたいだけど……。
「怖がるわけがないじゃないですか!」
……やっぱり。
「そうですか、ありがとうございます。えっと、なんでしたっけ? 天典さんへのお礼でしたっけ?」
「ええ、天典には本当に感謝しているので……」
「それでしたら、彼を助けてあげてはどうでしょう?」
「助ける? それは困っているなら、お礼とは別に普通に助けますけど……なんでですか?」
「そうですか、彼は友達に恵まれていますね。しかし、彼は弱い。す――」
「天典は弱くありません!」
「……千秋」
千秋は神父さんが話し終わる前に、その言葉に反発した。まだ、この先の言い回しによっては褒める言葉の可能性もあるのに……。
僕は少し天典に嫉妬した。
僕の考えや千秋の考えを知ってか知らずか、神父さんは話を続ける。
「ええ、私もそうではないかとも思っています。しかし彼は、少なくとも自分に自信がない。私のここのことを広めて欲しいというお願いが重荷になっていないか、プレッシャーになっていないか、心配なのです。彼はプレッシャーに弱いでしょう?」
「それは確かに……」
「でも、天典はいざという時に頼りになりますよ。それに今や、異能だと認められた力を持っている天典を私達が助けることなんてできるんでしょうか?」
千秋は僕の意見とは少し違った。天典を信じて頼っている。
だが、少し頼り過ぎではないだろうか?
「それは少し言い過ぎですよ。天典さんも人間です。あなた達とほとんど変わらない。確かに彼の特技を異能と認定したのは私ですが、そのことで何かが変わるわけでもない。彼は少しすごい特技を持った普通の人間です」
「はい、でも……」
「それなら私達にも異能をよこせですか?」
「そうは言いませんけど……」
「なんてね? 実は最初から異能を与えるつもりだったんです」
「えっ、本当ですか!?」
「はあ、千秋。少しは疑うべきじゃないかい? どうせ、条件があるのではないですか?」
「ええ、彼を助けることに代わりはありませんが、彼にわからないところで……です。しばらく彼と会えないかもしれませんし、少し遠くに行くことになります。私の依頼を受けてほしいので……。ですが、必ず彼の助けになります。どうしますか? 異能を受け取りますか?」
「はい!」
千秋は即答する。
「だから少しはためらわないのかい、千秋?」
「ためらう必要なんてないよ、冬彦。それに異能って何かすごくない?」
「ハハハ、いいですよ。実は千秋さんに与える異能はもう与え始めているんです。断られたらどうしようかと思っていたところです」
「なっ!? 何を!」
僕は怒るが千秋は怒らない。
きっと僕は怖さから相手が何をするか警戒しているからだろう?
しかし、千秋は怖さを感じていない。だから、天典の知り合いという人を全面的に信じている。
はあ、僕が折れよう。
「わかりました。異能を与えてください。僕も天典の力になりたい! 天典を助けたい!」
「では、私の依頼を受けてくれますか?」
「はい、ですが、天典へのお礼が先です。天典を助けることを先に……」
「それなら、問題ありません! 私の依頼は彼の補助、助けることをお願いしたいのです」
「ほら! やっぱり、この人、いい人だよ! 冬彦!」
「わかった、わかったから……」
僕が千秋を落ち着かせていると、神父さんは奥から何かの薬とディスクのようなものを持ってきた。
「言いにくいのですが、冬彦さんに異能を与える方法は、この薬を飲んでから、このディスクを食べてもらうという方法です」
「げっ、そ、そんなの、無理ですよ! もっと穏便な方法は無いんですか?」
僕の抵抗にも千秋は何も言わない。
本当に神父さんを信じきっている。
「ハハハ、予想通りの反応をありがとうございます。ということで、先に千秋さんに異能を与え終えましょう。千秋さん、来てください」
「はい!」
「千秋、穏便な方法じゃなかったら断るんだよ。あんまりその人を信じすぎるんじゃないよ」
「うん、大丈夫だよ。冬彦、じゃあ、行ってくるね」
千秋はそれから何分か神父さんの話を聞いてから戻ってきた。
「千秋、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だよ。なんか、冬彦が神父さんを疑っていた気持ちがわかったよ」
「そうかい。それで、僕にはどうやって異能を与えるんだい?」
「はい、千秋さん、お願いします」
「はい」
千秋はそう言って神父さんから薬とディスクを受け取った。
そして、僕に薬とディスクを差し出して言った。
「冬彦、これを……」
「えっ、うん」
僕はそれをなん(、、)の(、)ためらい(、、、、)も(、)なく(、、)飲み、食べた。
そうしたら僕は異能の使い方を自然(、、)に(、)理解した。
そして、僕は自分の手の上に一枚のDVDディスクを形成させる。
「これが、僕に与えられた異能かい?」
「そうです。冬彦さんに与えたのは自分の見た光景を任意の媒体に記録する異能です。使いづらい異能ですが、慣れてくればすごいことができるようになります。まあ、初回はサービスでそのすごいことをすぐにできるようにしましたが……」
「なんでDVD? 普通ブルーレイじゃない?」
「えっ、あっ、そうか。でも、なんかDVDが普通だと思ってしまったんだよ」
「ええ、そういう風にしてもらいましたから」
「なんでですか?」
「これですぐに見られるからです」
神父さんがコードレスのコンパクトDVDプレーヤーを出す。
それで早速DVDを見ると……。
発電所?
発電所に天典と春美が居て困った顔をしていたが、僕達が来て、何かを言うと笑顔になった。
音は入っていなかったから詳しいことはわからない。
多分、初回だからすごいことを出来ても不完全だったのだろう?
だが、僕にはわかった。
これは――
「未来の映像ですよ」
神父さんがそう言う。
千秋は驚いていたが、僕が驚いていないのを見ると優しく確認してくる。
「そうなの?」
「ああ、俺の異能だからわかる。未来の映像だ。この映像だけで十分だよ。僕達はこの神父さんに従う価値がある」
「そうですか? ありがとうございます」
神父さんはそう言うが、まだ納得していないことはある。
あとは――
「ところで、千秋にはどんな異能を?」
「冬彦、気付かないの?」
「えっ?」
「神父さん、いいんですか?」
「今日に限り、いいですよ。教えてあげてください」
「冬彦、さっき、なんの迷いもなく、薬とディスクを飲んで食べたでしょ? しかも、私、どうしてなんて指示してないのに、自然と飲んで食べるだと理解したでしょ?」
「……っ! それは千秋のしたことだから!」
「うん、私がしたことだからだよ。私の異能『私が任意に選んだことを自然だと疑わなくさせる異能』で……」
「任意に選んだことを自然だと疑わなくさせる異能?」
「そう、さっきは、冬彦が異能を得る方法を自然だと疑わせなくしたの」
「なっ!? どうやって、そんな異能(、、)を(、)得たん(、、、)だい(、、)!?」
「ハハハ、すごいよね?(確かにそっちを疑問に感じてる)」
「そうだけど、えっ? なんだい? 何かぼそっと言わなかったかい?」
「ううん、なんでもないよ。えっと、異能を得た方法だったね。ちょっとね、最近、なんとなくそうしたこととかあったでしょ? それが自然に思わされていたことで、それを心理的にどうやっていたか、教えられていたんだよ。理論的にも感覚的にもね」
「なっ!? 千秋さん!? そこまで教えては!?」
神父さんが抗議の声をあげる。
そして僕は納得していた。
今日、ここを訪れたことなどだろう。
そして、千秋はしれっと答える。
「フフフ、大丈夫でしょう? 今日(、、)に(、)限りなんですから♪」
「あっ、やりましたね? 私にも異能を……。どうやら、千秋さんはその異能と相性がいいようだ。立派に使いこなせるでしょう。まあ、確かに大丈夫ですから今日は許しましょう。ただし、これっきりにしてくださいね?」
「あっ、やっぱり、バレました? わかりました。これっきりにしますよ。やりすぎないようにとか言われたらもう少し試せたんでしょうけど、神父さん相手でも油断していれば効くみたいですからね」
千秋がすごい頭が良くなっている!?
こんな心理戦をするなんて!?
だが、千秋が異能を与えられたのがつい先ほどだったのが効いた。
「私の依頼ですが、海外に行ってもらいます。デートのついでだと思ってください。費用はこちらで持ちますから♪」
そういえば、いつだったか、唐突にパスポートを取ったな……。
それも神父さんの差金だったのだろう?
おそらくさっき話に出てきた自然に思わされていたことだろう。
千秋もそれは教えてもらっていなかったようだ。
神父さんと千秋の心理戦は神父さんの勝利で終わった。




