2罪のハジマリ 第四章 01
久しぶりの投稿です。
ここから少し一気にいきます。
第四章 天は見ている
「今日は二人だね?」
「違う。今日も……だよ」
そう、俺達は二人だった。俺と春美ちゃんは……。
このいつもの喫茶店で――これからは四人だと実感したこの場所で二人だった。
冬彦と千秋は、この前、裁判教会に俺の特技が異能と認められたと言った日あたりから、付き合いが悪くなった。
まあ、それでも、冬彦達はきちんと二人でいるみたいだし、いいか……。
この方が俺も気持ちの整理がつけやすい。
どうせ、デートでもしているんだろう?
「そういえば、天典くんと二人って珍しいよね? 二人だとやれることが限られてくるから気まずいね……」
「いや、気まずいのは、お互いに話が続かないからだと思うよ」
「ハハハ、なんか、やること――というかやりたいことはないの?」
春美ちゃんの苦笑混じりの質問の答えを俺は考える。
まあ、春美ちゃんのやれることが限られてくるから気まずいっていうのも本当に思っていて、やることがあれば気まずくはなくなると思っているんだろう?
前半は確実だ。
特技――いや、異能でわかる。
「あっ、そうだ」
「えっ、なになに? いいアイディアを期待してるよ」
「裁判教会のことを広めないと……」
「……それ、絶対だまされ……てると思うんだけどな……。冬彦くんも千秋ちゃんも納得の上だし……。でも、仮にそうだとして、どうやって広めるの? というか教会を広めるってどういう意味?」
春美ちゃんは納得のいかない様子で問う。
その疑問は俺にはなかった。広めるという時点で無意識に答えを出していた。
「この世界に異能があり、神様がいるということを広めろってことだと思う」
「なんで、そう思うの? というか、安請け合いしちゃっていいの? ただのイタイ人と思われるだけじゃない? 下手したら大恥かくよ?」
「そうなったら、裁判教会に脅されたことにしていいって……」
「そんなの、シラを切るつもりかもよ?」
「そうなったら、それこそ、裁判教会の評判が落ちるよ」
「天典くんの信用だけが落ちるだけかも……」
ああ、なるほど。俺もそこまで考えが及んでなかった。
俺に行動させるだけさせておいて、自分達は関係ないと言われたら終わりだ。
でも――
「でも、次の異能者に協力を要請するときにその信用が大きく関わるでしょ?」
「なるほど、じゃあ、実際にどうするかの具体案は? ただ言って回るだけなら、それこそイタイ人扱いだよ?」
「だから、段階的に広めようと思う。まずは異能を使って何か成果をあげて、それは異能があったからだってなれば、信じる人はいると思うし、ほら、冬彦や千秋が俺の特技を異能と信じたみたいに……」
「なるほど。じゃあ、さらに具体的な実際に何をするかって案は……」
春美ちゃんが俺の言葉に考え始める。
「異能では具体的に何ができるんだっけ?」
「まず一つ、相手が本当のことを言っているのかウソをついているのかが分かる」
「うんうん、嘘発見器みたいだね。今、現在、完璧な嘘発見器はできていないみたいだから役に立つんじゃない?」
春美ちゃんの賛同は嬉しい。
嬉しいが――
「それでも、俺の能力がどこまで正しいかわからないうちは信じてくれないと思う」
「あっ、そっか、そうだね」
「で、もう一つは、さらに相手が嘘をつく理由とかその言葉に込められた――もしくはその言葉に潜む事情とかがわかる」
「それはすごいよね? ある意味、言葉を聞けばなんでもわかるんだから……」
「まあ、でも、これも信じてくれない人が多いと思う」
「まあ、うん、そうだね? じゃあ、どうするの?」
「軽い感じで力を頼ってもらう。あとはカウンセラーや占い師みたいにして、ささやかな助言みたいな感じなら受けてくれると思う」
「こつこつ、信頼を勝ち取るってことだね? うん、いいんじゃないかな?」
「それじゃあ、早速、やってみるかな」
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「お客さん、来ないね?」
「うん、まあ、この売り文句じゃあ、すぐにお客さんがくることはないと思ってたけど……」
ここは地下鉄付近の地下街、近くに掲げてある売り文句は『どんな嘘も見破ります』。
こりゃあ、すぐには来ないはずだ。
そこへ春美ちゃんに声がかかる。
「あれ? 春美?」
「えっ?」
「やっほ~、何やってるの? なになに、『どんな嘘も見破ります』? これ、お客さん来る?」
春美ちゃんの友達らしき人が売り文句を見て呆れているようだ。
春美ちゃんは苦笑で返す。
「それがまだ一人もお客さんが来なくて……」
「まあ、これじゃあね? お客さんもどういう風に利用したらいいかがわからないんだと思うよ」
おっ、それは新しい意見。考慮の価値アリとみた。
利用の仕方か。う~ん。
「よし、じゃあ、私がお客さん第一号として利用の仕方を確立してあげよう」
「えっ、本当、ありがとう」
「実はね、春美と同じ症状の人がいるの」
「同じ症状?」
「ああ、落ち込んでいたときの春美ちゃんと?」
春美ちゃんが不思議がるが、俺は相談してくる相手の声を聞いてその疑問の答えがわかった。
自殺しようとしていたと言うのはまずいだろうと思って、落ち込んでいたと表現した。
でも、春美ちゃんが『同じ症状』の部分に疑問を感じたということは、春美ちゃんはそのことを忘れていて、春美ちゃんにとってあれは過去の出来事になっているんだろう。
「そう、家にいるみたいなのに、電話に出ないんだって……。私の友達なんだけど、そのコの彼氏が私に相談してきて……」
「でも、電話に出ないだけじゃ大丈夫じゃない?」
春美ちゃんがそれを言うかと思ったが、口には出さない。
でも、確かに春美ちゃんのような性格の人でないなら、疑うほどではないと思う。
「うん、確かにそう思うんだけど、春美の件もあったから私が過剰に心配しちゃっているだけだと思いたいんだけど……。そのコね? その彼氏とケンカしちゃったんだって……」
「なるほど……」
「仲直りがしたくて電話をしてみたらその状況に気付いた感じかな?」
「そうです。噂通りですね? そんなことまでわかっちゃうなんて!」
「いや、このくらいなら、異――特技がなくてもわかるよ」
確かにこの程度なら少し考えればわかる。まあ、異能で裏付けが取れたから言ったんだが……。
ちなみにまだ異能とは言わない。いきなり異能なんて言い出したら厨二病扱いされる……。
だが、俺も褒められて舞い上がっていたようだ。
その隙に春美ちゃんが俺より少し先をいった質問をする。
「でも、どうやって調べようか? 私のときは元から知り合いだったから、なんとかなったけど……」
「う~ん、受話器を持っていない人も音が聞こえる機能を使って電話してみて声を聞くとか?」
よし、名誉挽回。アイディアを出した。
「いえ、ですから、電話には出ないんですよ。……そうですね、学校には来てますんで、明日、人気のない場所に連れていって聞くんで、その声で判断してくれませんか?」
「なんで人気のない場所なの?」
「そのときに素直に話してもらう方がいい解決方法じゃない?」
俺はその言葉に違和感を感じた。そのときに話してもらうのが一番というだけではないようだ。
指摘してみる。
「それだけじゃなさそうだけど?」
「……先輩の特技って、本当に声を聞くからわかることなんですね? (声マニア?) 少し不安になりました。それが本音です。直接聞くには早いかなと思って電話にしようとしたのはしょうがないですけど……」
ぼそっと言った言葉は聞き取れなかったが、何を考えているかはわかった。
スルーしようとしたのに春美ちゃんが指摘する。
「そのコが電話に出ないことを忘れているから不安になった?」
その指摘は的確で容赦がなかった。
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翌日、学校で早速、例のコを呼び出して、少し離れた場所に隠れて、話を聞いた。
なるほどと思った。冬彦のときと同じ要素は思ってもいないところにもあったようだ。
冬彦と問題のコの彼氏が逆だったら、もっと上手くいったかもしれない。
「どうですか? 先輩?」
「多分、わかった。念のために今のコの彼氏の情報をどんな小さなことでもいいから教えてくれる?」
「えっ、はい。じゃあ、後でまた検討できるように紙に書きますね?」
実のところ、この彼氏の情報で今、俺が知りたいのは一つの情報だけだ。
だが、それを直接聞くと、あのコが疑われてまでしていることが無駄になる。
だから、こんな風な聞き方になった。
「書けました」
書き終わった紙を受け取り、それを読んで確信する。
「うん、大丈夫だよ。心配しなくても、もう少ししたらわかるよ」
「もう少し? なんですか? 本当に心配なんで教えてほしいんですけど」
「大丈夫だよ。春美ちゃんのときもなんとかなったし……」
「でも、春美のときは危なかったって聞きましたけど」
「本当に大丈夫だよ。天典くんを信じよう?」
「わかった、春美が言うなら信じるよ」
危なくなった本人に言われたら何も言えない。
その声を聞いて、信じる理由がわかった。
春美ちゃんも俺達の行動で、追い詰められていた心が、少しずつ楽になっていったから、大丈夫だったのではないかとそのコは思っている。
だとすれば、そのコが電話に出ないコに、ついさっき話を聞いたことも、そのコを楽にしているのではないかということだ。
だが、他にも春美ちゃんが俺を信じる理由の原動力となる感情があると、そのコは思っているみたいだが、その感情の解釈が上手くいかない。
友情だと俺は思うのだが少し違う感じなのだ。
冬彦を通しての付き合いだったから、冬彦の人を見る目を信じているということかな?




