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神様の居るトコロ  作者: 光坂影介
2罪のハジマリ 第三章 わからなかったモノ
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2罪のハジマリ 第三章 05

 僕は千秋を追って走っていた。

 大親友に背中を押され、自分の気持ちに気付いた。


 初めての感情だった。


 千秋のことを思うだけで胸が苦しくなる。


 どこか心が温かくなる感情。

 これが恋。


 これを知ったら、次の疑問ができた。


 なら、愛とはどんな感情だろう。


 恋がこんな感情なら愛はどれだけすごい感情なのだろう?


 けれど、それはおいおい知っていけばいい。


 まずはこの恋を実らせよう。

 千秋に追いついてきた。


「千秋、待ってくれ!」

「冬彦!? やだよ! 私を振るんでしょ! そんなの嫌だ!」


 僕が近づいてきたとわかったからか、千秋が走り出す。


 まずい。僕はここまで走ってきて疲れている。


 これ以上走ったらいくら女の子が相手でも追いつくのに時間がかかる。

 千秋は結構、足が速いし……。


 でも、なんて言えば? 考えろ、考えろ!

 考えても思いつかない。

 なら、行動で示せ! 僕は全速力で走り、千秋の腕を捕まえる。


「返事をしに来た」

「やめて、放して! なんでよ! なんだかんだ言って春美ちゃんのことが好きなんでしょ! 嫌だよ。まだ、私にも可能性があるって思わせてよ!」


 僕は今頃、千秋を静かにするセリフを思いついた。

 どうせ告白はするんだ。一旦、少し話をそらしたと思わせれば……。

 僕は出来るだけ優しい声で言う。


「天典から誕生日プレゼントをもらったよ」

「えっ!?」


 ほら、静かになった。


 多分、天典なら僕達を傷つけることはないと信じているんだろうな?

 多分、千秋の一番の大親友の地位は天典のものなのだろう?

 そのへんは少し悔しいな。


 でも、千秋は僕のことを好きだと言ってくれた。


 きっとそれゆえに相談できないこともあったのだろう?


 なら、これからは千秋の恋人という地位をもらおう。


「天典はね、気付かせてくれたんだ。僕が千秋を好きだということに……」

「えっ、待って! どういう?」

「千秋、好きだ。大好きだ。付き合ってください」

「えっ、だって、冬彦が好きなのは春美ちゃんじゃないの?」

「違うよ。千秋だよ」

「だって、だって、私に振られても気にしないみたいなことを……」

「それが僕の恋の結果ならしょうがないさ。気持ち的には納得できないけど僕を振るならそれもしょうがない」

「そんなことするわけない! いいよ、……ありがとう。よろしくお願いします」

 こうして、天典の初恋の人と天典の大親友は天典が親友の気持ちに気付かせることで結ばれた。

 大好きな人達が一番の幸せを手に入れるために、彼――夏上(なつかみ)天典は行動し、自らの手で初恋を終わらせた。




            ###



 俺は大泣きした後、ショックのためにあてもなく街を歩いていた。


 道なんて覚えてないし、知らない道もいくらか通った。


 でも、大丈夫だろう? この街は俺の地元だ。少し歩けば、知っている道に出るだろうし、帰れるだろう?


 というか、この街にもまだ俺の知らない道があったんだ?


 そんな少し傲慢(ごうまん)なことを思いながら歩いていると、教会にたどり着いた。

 こんなところに教会があったんだ?


 いや、待てよ。ここ、前に来たところだ。

 そう思いながら、教会のドアを開ける。

 えっ? いや、なんで?


自然と中に入ろうとする自分の行動が不思議だった。


けれど、今の俺にその行動に逆らい教会を出て行くエネルギーはなかった。

 中に入っていくと神父さんが居た。


「ようこそ、お待ちしていましたよ。夏上天典さん」

「なんで俺の名前を?」


 さっきからの不思議なことの連続で少し怖くなる。


「あなたがここに来る運命だったからですよ」

「運命? なにを言っているんですか? 何かの宗教? って、教会なんだから当たり前ですね? 俺は特定の宗教を信じるつもりはありませんので……」


 そう言って背中を向ける。


「借り物の教えではなく、自分が見て・聞いて・感じたものを信じる。自分の信じるものは自分で決めるでしたっけ?」


 それはおれのポリシーの一つだった。

 少し怖さが増す。


「なんで、それを?」

「ここが教会だからですよ。これから裁判教会と呼ばれるようになるところ……」

「裁判教会? それに教会だからって、神様でも居るんですか?」

「察しがいいですね。実は今、この神父には神が乗り移っているんですよ」


 何を言い出すんだ? この人は? 頭は大丈夫か? そう思いながらも、俺はそれほどこの人のいうことを疑っていなかった。


 俺の特技でわかる。この人はウソをついてない。


「あなたが今、見て・聞いて・感じたことじゃないですか? 信じましょうよ」

「はあ、わかりました。あなたのいったことを信じるかどうかは置いておくとして、だからなんだって話ですよ。俺は帰ります」

「諦めによる悪い方法の選択はしないで済みましたか?」

「えっ」


 その言葉で思い出した。この人、前に話を聞いてくれた神父さんだ。


 なぜ、気付かなかったんだろう? って、俺があの時、落ち込んでいて神父さんの顔をよく見ていなかったからだろう。


「あの時の神父さんでしたか、生意気なことを言ってすみません。悪い方法の選択はしてないつもりです。あの時の揉め事も解決しましたよ。あの時はアドバイスをありがとうございました。これも神様の導きなんですかね?」


 俺は少し冗談まじりに言う。


「ええ、そうですよ。あなたは世界から異能を与えられている最中でしたので私が手伝って完全な異能を与えました。あなたは異能者です。私が保証します」

「はい? なにを言っているんですか?」


 驚いたことに俺の特技でも神父さんの言葉にウソはないとわかる。それが不思議だった。


「これにも同じことを言います。あなたが今、見て・聞いて・感じたことじゃないですか? 信じましょうよ」

「……ですが、どうしてですか?」

「この教会を裁判教会として広めるためです」

 『なんだ、それは?』と思う。自分にアドバイスをくれた人でも、それは少し……。

「なんで、自分がそんなことをしなくてはならないんですか?」

「逆に異能を与えたのに何もしてくれないのですか?」

「そもそも異能が世界によって与えられる途中だったということはあなた方が何をしなくても同じだったのでは?」


 そうだ、そうだよ。自分が言ったことに後から納得する。


「ですが、あと少し異能を得るのが遅かったら春美さんは亡くなっていたのではありませんか?」

「……っ!」


 実際には春美ちゃんを助けるのに役立っていないかもしれない。

 けれど、俺が異能を得て、搭の下に駆け寄らなければ、トランポリンがある方に落ちなかったのかもしれない。そうしたら……。


「そう、異能に助けられたことがあるはずです」

「でも……、この異能は本当にあなた方が手伝ってくれたおかげですか?」

「それも異能でわかるのでは?」

「……」


 わかる。さっきからこの神父さんはウソを言っていない。


「迷っているのでしたら、せめて、異能を信じて、異能だけを私達のために使っていただけませんかね? 異能の発動が失敗したりした時、異能のせいで困った事態になったら、全て裁判教会に(おど)されたといっていただいてかまいませんので……」

「本当ですか? 後で脅してなんていないと言いませんか?」

「ええ、悪いようにはしないと保証しましょう」

「どう保証してくれるんですか?」

「それこそ、そんなことをしたら裁判教会の評判が悪くなるのでは?」

「わかりました。なら、出来る範囲で……」


 アドバイスをもらったのは確かだし、嬉しかったのも確かだ。

 しかも、春美ちゃんを助けられた件を言われたら何も言い返せない。


「あっ、そうそう。冬彦さんと千秋さんに報告するのでしたら、二人にもここに来るように言ってください」

「なっ! あの二人にも何かするんですか?」


 もはや、なぜ二人のことを知っているのかという質問は出てこなかった。


「大丈夫ですよ。あの二人なら。信用できるでしょう?」

「はあ~、わかりました」



           ###



「なんか、俺の特技が異能だって認められた」


 俺は冬彦と千秋、そして春美ちゃんをいつもの喫茶店に呼び出して言った。


「どこに認められたんだい?」

「国?」

「天典くん、頭、大丈夫」

 冬彦、千秋、春美ちゃんの順に言ってくる。

 春美ちゃんだけ根本の疑問で答えづらいけど、今は冬彦達にあわせる。


「裁判教会ってところに……。頭がおかしいとしたら裁判教会の人だよ」

「それを信じちゃうところが大丈夫って……」

「春美、春美。気付かないかい?」

「えっ、・・・・・・って、あれ? どうして、心配してるのが私だけなの?」


 そういえば、そうだ。

 冬彦は認められているのが前提でどこにかを聞いてきたし、千秋なんて国にすら認められている可能性を考えている。


「いまさらって感じで……」

「僕達にとっては特技の呼び方が異能に変わっただけなんだよ」


 千秋、冬彦の順に言ってくる。

 だが、その言葉に春美ちゃんも納得し……たのかな。


「それと冬彦と千秋にも今度きてほしいって。あっ、そうそうカップル成立おめでとう! まあ、デート感覚で少し様子を見てみてくれないか?」

「ありがとう! まあ、いいかな。」

「わかった。なんでかの疑問はともかく、天典を信じるよ。だから、後でその教会の場所を教えてね」


 これが裁判教会のハジマリだった。



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