第一章 04
放課後、元に戻った時に生活に影響が出ないように、サッカー部の練習に出た。
結果はぼろぼろだった。サッカーって意外と難しい。
少しはやったこともあった。……いや、むしろ小学生の頃は休み時間によくやっていたのだが、それでも小学生の頃だ。
中学でも授業でやるくらいならあるが、部活となると難しい。
せめて、ポジションがディフェンスなら、よくやっていた頃のポジションなので別なのだが、秋月はオフェンスだったみたいだ。おかげで、途中までディフェンスに入ってしまい怒られた。
落ち込んで帰り道につこうとすると、校門で春樹が待ってくれていた。
校門に背中を預けて待っている春樹は意外とさまになっていた。
それでも少し避けられ気味なのは、春樹が少し落ち込み気味というか、悩んでいるオーラみたいなのを出しているからのように見える。
僕のことで悩んでくれているのだろうか?
なら、僕が元気づけなくてはならないだろう!
僕は春樹に元気よく声をかける。
元から待ってくれていたことが嬉しかったのだ。
「春樹! 待ってくれていたのかい?」
「ん? まあな? サッカーはどうだったんだ?」
僕は春樹に駆け寄りながら声をかけるが春樹が無粋なことを聞く。
「えっ、うん、まあ、ボロボロだよ。僕にサッカーは無理だね」
「そうか? 途中、オフェンスに入るまではよかったじゃないか?」
春樹が明らかなお世辞……いや、慰めの言葉を言ってくる。
「春樹、同情はいいよ。自分でもボロボロだったって自覚あるし……」
「そんなこと、ないだろう? ポジションが違うのに、しばらく放っておかれたのは、上手かったからだと思うぞ。実際、あの短時間でパスカットは二桁だった」
「また、春樹の適当なデータ照合だ。美冬がいたら……、いたら……正確なデータで反論される……」
僕は美冬が近くにいない事実から落ち込み、声がしぼんでいく。
元気づけるつもりだったのに失速だ。
そこに逆に春樹が元気づけてくれる。
「そう落ち込むな。もうすぐ……いや、なんでもない」
「もうすぐ? 何? 何か……あっ」
そこで僕は思い出した。
もうすぐ、僕達、僕と春樹と美冬の幼馴染三人で埋めたタイムカプセルを掘り返す日だ。
おそらく、先日の会話もそのことだろう。
このくらい近くなってやっと思い出した。
それでもセーフだと信じたい。
「思い出したか? まあ、俺も半分忘れていたんだけどな……。何かは言ってはいけない約束だったろ? とにかくそれまでに戻らないとな」
「ああ、そうだね」
そう、タイムカプセルを開ける条件というか資格として、そのことと開ける日を覚えていることを前提とした。
お互いにそれについて言ってはいけない。
約束の日にその場所に集まること。
そして、集まった人のみがタイムカプセルを開ける資格があるとしてタイムカプセルを開ける。
その日が近くまで迫っていた。
「春樹は、なんで思い出したの? 半分忘れてたってことは半分アウトじゃない? 判定してあげるから言いなよ」
「フ、ハハハ、大分、落ち着いてきたな? いつもの好奇心が戻っているじゃないか?」
「えっ、ああ、少しだけいいことがあったからね」
僕は春樹の言葉に適当な返事を返す。
春樹はいつもは受け入れながらも少し嫌そうにしているていを保つ僕の好奇心に笑いを乗せた。
実はそんなに嫌ではなかったのだろうか?
いや、本当は僕もわかっている
。
春樹はいつも僕の好奇心にきちんと答えてくれていた。
春樹も本当は僕の好奇心に好意を持ってくれていたのだ。
「へえ、やっぱり部活で活躍できたことを自覚したのか?」
「ん? そういうわけではないよ。春樹も、あんまり僕を過大評価しないでくれよ。それより、美冬はそのこと、覚えているかな?」
僕は首を振りかけたところですぐに別のことに気がいき、疑問を投げかける。
だが、その疑問も僕にとっては確認でしかなかった。
すでに先日の会話にそれらしいことが出ていたからだ。
「ハハハ、でも、周りで他のヤツ目当てで来てた女連中も、ディフェンスの時はそんなに悪く言ってなかったぞ。むしろ、褒めているコがいた。美冬は……覚えているんじゃないか? いや、確実に覚えているな。あいつの記憶力なら……。それに一番楽しみにしているのもあいつだろ? まあ、それまでに、戻るのは無理だとしても、せめてジンをジンだと認識できるようにさせなくてはならないな?」
「ハハハ、美冬の記憶力なら意外と今も僕のことも覚えているんじゃないかな?」
笑いながら冗談のように言っているが僕達は結構本気だった。
「いや、朝、話しかけてた時に戸惑ってただろ?」
「でも、美冬ならしばらくしてから話せば、現状の違和感に気付いてわかっちゃうんじゃないかな? 理解力もすごいし……」
「否定できないのが恐ろしいな。まあ、それは最終手段ってことで……」
こう聞くと美冬が天才みたいに聞こえるが、美冬の場合、そうは思えない。
勉強の成績は普通だし、芸術面で特別、優れているわけでもない。
ただ、頭のキレがいいというか、まあ、そういう意味では頭がいいというかもしれないけれど、天才というよりは秀才。
何にでも一生懸命なのだ。
わからないと言って突き放すことをせず、理解する努力を惜しまない。
知らないと言って見捨てることをせず、親身になるために覚える。
そういう一生懸命なところは美冬のいいところだ。
勉強は例外だけど……。
「まあ、どっちにしろ、お前と触れ合わせないとな。お前の性格が秋月と比べて、変わってきていると気付かせないとわからないだろう?」
「そうだね? じゃあ、なんとか美冬と話をしたり、遊んだり?」
「遊んでどうする!? 遊んで!? いや、アリか?」
春樹は前半、少し叱る感じで言ったが、アリかと思ったらしい。
「まあ、今、できることは他にもある。お前の今の体は――見た感じだとお前のモノだな。なら、無意味かもしれないが、お前がお前だという記憶を体に思い出させれば何か変わるんじゃないのか?」
「なるほど。具体案は? どんなことをすればいい? 思い出の場所に行ったりとか? どこがいいかな? ああ、でも体は本当はどうなってるんだろう? 僕達から見えているジンとしての姿が本物なのかな? それとも、他の人には秋月の姿に見えていて、本当はその体になっているのかな? ねえ、春樹はどう思う?」
「待て待て、暴走するな。とにかく、思い出の場所に行くのはいいかもしれないな? 運が良ければ、美冬にも会えるかもしれないし行ってみるか」
具体的に問題を乗り越える方法を考えるうちにできる気がしてきて、嬉しくなった僕は、自覚しつつも、再び思考が暴走する。
「本当!? どこがいいかな? 初めて美冬と会った場所? タイムカプセルを埋めた場所? ああ、あの不思議な結晶を見つけた場所もいいんじゃないかい?」
「いや、全部、同じ場所じゃなかったか? まあ、あの高台というか丘というか、あそこでいいんじゃないか?」
春樹の言うあそこが、僕の言う初めて会ったりした場所だ。
つまり、僕達の言っている場所は同じ場所だ。
「よし決まり、行こう! すぐ行こう!」
「ああ、じゃあ、行くぞ。神斗」
出掛けるから、他の人に会う可能性を考えて、その呼び方で僕を呼び、僕達は思い出の場所に向かった。
春樹は僕の暴走を今度は、暴走と言わずに快諾した。
僕はその当たり前の快諾に心が震えた。
それが当たり前になる関係だから、僕は春樹を親友だと思えるのだろう。