2罪のハジマリ 第二章 03
春美ちゃんの家に着いた。
「ただいま~。お父さん、お母さん。冬彦くん達を連れてきたよ~」
春美ちゃんの両親が出てくる。春美ちゃんのお母さんはおっとりとした雰囲気の優しそうな人という感じと仕事のできそうな人という感じが共存している人だった。お父さんの方は厳しそうで仕事ができそうな人だった。
春美ちゃんの両親が出てきたところで冬彦が頭を下げて言う。
「この度は春――お嬢さんを危ない目にあわせてしまい申し訳ありませんでした」
「君はそれがわかっていて家に来たのかい?」
「はい」
「家の娘のことを真剣に考えていなかったのに家にのこのこやってきたわけだ」
「……はい」
冬彦が答えるのに時間がかかってきた。
千秋も冬彦も予想以上に高圧的な雰囲気に驚いている。
俺はそんなに驚いていない。声を聞けばわかるからな……。
冬彦なら大丈夫だろう。
「家の娘の――交際していた娘の家に別れてからも来ているわけだ。覚悟は出来ているね?」
「はい!」
冬彦が今度は即答した。そうだ、さすが冬彦。そこは即答するところだ。
「ありがとう」
「「えっ?」」
千秋と冬彦が疑問の声をあげる。
「ありがとうと言ったんだ。家の娘とそれでも、友達としてでもそばにいてくれてありがとう。そして、自殺を止めてくれてありがとう。君に、君達に娘の様子がおかしいことを相談していなければ娘はここにいなかっただろう。本当にありがとう」
「でも、僕は……。いえ、お礼なら、天典に言ってあげてください。僕は調べるのを止めようとしてしまいましたから」
「それでも、君がいなければ、天典くんに話が通ることもなかったんだ。君達、みんなにお礼を言うよ。天典くんも、千秋ちゃんもありがとう」
春美ちゃんのお父さんが頭を下げる。
「頭を上げてください。それに、私にまでお礼を言う必要はありません。私は何もしていませんから」
千秋がそう言うが俺はそれには半分しか同意できなかった。
「最後まで調べるのを諦めなかったのは千秋だろう? ですが、お礼を言う必要はありませんよ。俺達は春美ちゃんのためになりたいという俺達の自分勝手(、、、、)な(、)気持ちのために春美ちゃんの死にたいという気持ちを無視して助けようとしただけですから、それに実際に春美ちゃんを助けたのは偶然、あの位置にあったトランポリンです」
こう言えばいい。こう言えば、頭を上げてくれる。そう思った。
春美ちゃんのお父さんが頭を上げ、今度は春美ちゃんのお母さんの方が言う。
「自分勝手ねぇ? では素敵な自分勝手をありがとう」
「……そう言われると否定できませんね。こちらこそ、そんな自分勝手のきっかけをくれてありがとうございます。お二人の相談がなければ俺達は自分がしたいようにすることもできませんでした」
「……っ! ……いえいえ、中へどうぞ。お茶を出しますよ」
中に招き入れてくれた春美ちゃんのお母さんの瞳にはうっすらと涙があった。
俺達は家の中に入り、春美ちゃんの部屋に行った。
「お父さんとお母さんはね。私が自殺しようとしたのは自分達のせいだと思っていて、自分達を責め続けていたの。仕事が忙しいのに私のために時間を作って……。だから、ありがとう、天典くん、冬彦くん、千秋ちゃん。さっきの会話でなんか吹っ切れたみたいな顔をしていた」
「事実を言っただけだよ」
「うん、そうだね」
春美ちゃんの自殺の騒動はさっき、本当の意味で終わったのかもしれない。




