2罪のハジマリ 第二章 01
「冬彦、どこだ~?」
放課後の学校で俺は冬彦を探していた。
今日は、というか、今日も冬彦と一緒に帰る約束をしていたのだ。
春美ちゃんの自殺を防いでから俺達はまた昔のようによく一緒に帰るようになっていた。
本当は春美ちゃんや千秋も一緒に帰れるといいのだが、あんなことがあったからか春美ちゃんは一緒に帰りたがらない。
まあ、もうすぐ冬彦の誕生日だし……。
春美ちゃんもプレゼントを考え直しているらしい。何を贈ろうかとか考えるのに忙しいのだろう? まあ、そっちが一緒に帰れない主な理由なのかもしれないが……。
考えていたら、そっちの理由の方が強いような気がしてきた。冬彦と会う時の春美ちゃんは別に気負っている様子はないのだ。むしろ、今の方が自然に接している気がする。
というか、『あんなことがあったから……』なんて考えは俺が勝手に想像しているだけだ。準備に時間がかかるものとか、もしかしたらイベントを計画しているのかもしれない。
なぜか、俺に「期待していてね」と言ったのだ。冬彦に贈るんだから、冬彦に言えばいいのに……。
そんなことを考えながら歩いていたら、あまり人がいないところまで来ていた。さすがに冬彦はこんなところにはいないだろう?
引き返そうとしたところで声が聞こえてきた。
「ごめん、君とは付き合えない」
「えっ?」
その声が冬彦の声だったので驚く。
そちらを見ると冬彦と可愛らしい女の子が二人で話している。
「あのっ、告白イベントのコと別れたっていう噂は嘘なんですか?」
「う~ん、そういうのどこから聞いてくるのかな~。それは本当だけど……」
「そうですか。友達から聞いたんですけど。でもじゃあ、なんで……。あっ」
女の子が俺に気付く。
しまった、隠れるのを忘れていた。
まあ、見つかったならいいだろう。別に隠れる必要もないしな……。
「すみません。失礼します」
「あっ、行っちゃったよ。あのコも災難だよな。もう少し深く聞けば、特定の好きな人がいないからとか、春美ちゃんとは友達感覚で付き合ってたとか脈アリなことが聞けたのに……」
「前半はともかく後半は知っている人が多いらしいじゃないか? そこまで知らない人が僕と付き合いたいなんて。ホントになんで僕なんか……」
「まあ、お前がモテるのは今に始まったことじゃないだろ?」
「そうなのか?」
「なんだ? まだ信じてないのか?」
「いや、春美のことで懲りてね。恋愛対象に見られている可能性も考えてそういうのは断ることにしているけれど、まだ信じられなくてね」
「はあ~」
俺は冬彦の答えに溜息を吐く。
「じゃあ、ますます不便だな。友達からとか言えば、一応、友達にはなれるんだから……。というか、それを言われない時点でお前は恋愛対象として見られているんだろ? いや、友達から(、、)ならそれも恋愛対象に見られているか……」
「なぜ、そう聞いてこないかは謎だが、それは素直に嬉しいよ。それでも、しばらくは今のままでいいよ」
冬彦は本当に純粋に喜んでいる。
声を聞けばわかる。俺の特技で……。
だが、そこで冬彦の贅沢なのか違うのかわからない答えに俺は問いかける。
「へえ、それはなぜだ?」
「今は、天典や千秋、春美と居られればそれでいい」
冬彦は恋愛対象として好きだと言われているのだとしてもその言葉を素直に喜べた。だが、冬彦の声には他の感情もあった。どこか胸が締め付けられる感情。
その感情がこんなことを言わせたのかもしれない。
俺と千秋と居る時間を削ることになってまで、友達としてでも春美ちゃんと付き合っていた冬彦。
その冬彦があの時の春美ちゃんのような新しい友達を作ることもどうでも良くなってしまう。
この時の俺にはその感情の名前はわからなかった。




