第一章 02
朝、起きたら知らない部屋に居た。
どこかのアパートの部屋みたいだ。
夏目人こと、僕はなんでこんな所で寝ているのか、さっぱりわからなかった。
あっ、注意しておこうか。日本人とかの意味での夏目人ではないよ。
夏目が姓で人が名前だ。
こんなところで寝ていた理由を探してみるが、その途中、時計を見ると時間に余裕がない。
急いで学校に向かう。
幸い、カバンと制服は机の上にわかりやすく置いてあった。
そのカバンの中のノートに秋月神斗と書いてあることに僕はまだ気付いていなかった。
当然だ。まだカバンを開けていないんだから……。
外に出ると、そこは知っているアパートだったとわかったので一安心。
とりあえず、学校に行こう。
ここからならいつもより少し遠いだけだ。
「おはよう!」
「えっ、ああ、おは……よう、おかしい、他ならぬ私が……」
「どうかした? 美冬?」
「えっ、いや、私のファーストネーム、知ってたの? 他ならぬ貴方が……」
「えっ、いや、知ってるけど……?」
彼女は法内美冬。
僕の幼馴染だ。
背丈は少し低め。髪は肩にかかるくらいの黒髪。胸はそれなり。まあ、こう並べると普通だが、顔はすごく可愛い。そして記憶力抜群、理解力抜群。なのに成績は普通。
その美冬は会話が終わるとすぐに他の女子の所に行ってしまった。
今日は変なことが多い。
いざ、学校に来てみると周りがどこかよそよそしいんだ。
自分の席に座ると、周りが動いた。
「ちょっと行ってくる」
「ああ、今日の秋月(、、)、おかしいからな。けど、お前、秋月と仲良かったっけ?」
「ああ、大丈夫。彼(、)とは仲がいいよ」
一人の男子が近づいてくる。
「おはよう。ちょっといいか?」
「えっ、ああ、春樹。どうかした?」
彼は天堂春樹。彼も僕の幼馴染だ。
背丈は高め。髪は短め。顔は格好良いのに、なぜかモテない。
一部で実はドMなのではないかと言われているのも理由の一つかもしれない。
「いいから来い」
そう言って廊下へ連れて行かれる。
「ちょっ、どうしたのさ、春樹?」
始業ギリギリだからか、廊下にはほとんど人がいない。
そのことを確認すると、春樹は質問をよこす。
「なあ、今日の放課後。暇か?」
「えっ、ああ、まあ、特に何もないけど……」
「はあ、やっぱりか? 俺の目がおかしいわけじゃないんだな」
「何を言ってるんだよ? 今日の皆、おかしくないかい?」
「お前も気付けよな。人」
そこで、春樹は初めて僕の名を呼んだ。
今日、初めて、名前を呼ばれた気がする。
「何に?」
「はあ~~、アウト。お前、この時点で相手が俺じゃなかったら、アウト」
春樹はため息と共に言った。
「だから、何が?」
「お前、皆から秋月神斗だと思われている」
「? どこの誰が?」
「いや、もうわかってるだろう? お前がだよ。夏目人」
どうしたんだろう?
確かに皆の様子が変だった。
でも、春樹の案ということで考えれば納得できないこともないんじゃない……かな。
だが、僕は信じられなかった。
「おかしくなったんじゃないよね? 春樹?」
「いや、まあ、俺とお前がおかしくなったと見られるんだろうな?」
「実際は皆がおかしくなった?」
「ああ、そうだといいな。さて、どうするかなぁ」
こんな状況で少しおかしいが、僕は少し嬉しかった。
こんな状況になっても春樹は僕をジンと認識している。
僕達の友情はこの状況に負けなかったのだ。
目から涙がこぼれ落ちそうになるくらい嬉しかった。
そう、僕はこの時、すでに少し救われていた。
その事実は確かに世界に存在した。