第四章 04
僕――夏目人は日常を取り戻していた。
事件の後の様子から、家族に何か悟られないか不安だったけれど、春樹と美冬が事前に家族と会わせてくれたおかげで、僕の言葉から何か言われることはなかった。
だけど、事件の時と人が変わりすぎているのは見抜かれた。
というのも、入れ替わりが戻っても、それで変わった人間関係は人格のモノとなるが、家族や友達との関係は少し複雑だったのだ。
接し方は事件前の接し方で、事件がなかったみたいに接してくれるのだけど、家族や友達の記憶がなくなったわけではないのだ。
つまり、事件があった時の出来事を覚えている。
それゆえに、事件の時のことを思い出すと、不思議そうにあの時はああだったよなと言い出すのだ。
それで困るのは、例えば、僕が事件前にしていた約束を事件当時、または事件後に履行する予定のものがその時に言った言葉のせいでダメになったりしていた。
しかも、反対に事件当時に約束したことを後になって履行するものとかがあるから嫌になる。
僕が覚えてない約束を守らなくてはならないのだ。
これはきつい。
この前なんか、冗談で、事件当時にもしていない約束を持ち出され、履行しそうになった。
途中で友達が慌てて止めてくれたけれど、冗談を本気にしたみたいに見られて恥ずかしかった。
春樹や美冬がフォローしてくれたけれど、『まあ、ジンだからしょうがない』で納得するのは酷いと思う。(どうやら、僕には以前からそういうところがあったらしい。)
他には誰と付き合っていたとかの約束はまだ上手く確認できないほど複雑なので、頭を悩ませている。
校内で僕が誰と付き合うかのトトカルチョの噂があったのは嘘だと信じたい。
それにしても秋月。
僕に対して遠慮が無さ過ぎ。
僕は後で大変にならないように配慮して、ほとんどのことを後回しにして乗り切ったのに……(それもどうかと思うが)。
まあ、サッカー部の成績とか、運動の成績は勘弁してほしい。
やっぱり秋月は戻る気はなかったのだろうか。
その辺は今も謎だ。
そんな中、本日、最後の授業の体育が終わった後に春樹と着替えていた時の話だ。
春樹のカバンから何かが出てきたので拾って渡そうとすると、封筒から出てしまったらしい郵便の中身だった。
差し出し人の名前を見て、声をあげる。
「裁判教会? 春樹、まだ、これ、とっておいたの? 罪の意識? そこまで気にしなくていいのに……」
「何言っているんだ? お前にも届いていただろう? 金曜の放課後に、また詳しく話を聞いてまとめたいから関係者、全員来いとさ」
予想外の言葉に僕は驚く。
「えっ!? 届いていた……かな? そういえば、風呂に入る直前に郵便が届いているって言われて、話半分に返事をしたような……」
「お前、秋月と入れ替わっていた時、一人暮らしだったんだろう? 大丈夫だったのか?」
「そういうのは全部、後回しにしていたから……。机の上とか開けてない郵便でいっぱいだと思う」
「うわっ、一人暮らしの秋月にとってはかなり酷いんじゃないか? 上下水道の料金とか電気代とかの支払いだったら、どうするんだよ。引き落としとは限らないぞ?」
僕は目をそらしながら答える。
「ハハハ、大丈夫だよ。……多分。それより、金曜日だっけ? って、今日じゃん!」
「今、気付いたのかよ。だけど、一人一人で来いって、無理でもせめて、付き合っている二人で来いって」
不思議な話に僕は理由を探し、思いついた理由の一つを口にする。
「なんで? 一人一人で別々に話を聞くの?」
「いや、夏葉と美冬に聞いたら、時間が同じだったってよ」
「?」
わけがわからない。
だが、従わないのも気分が悪い。
僕達はそれぞれ、教会に向かった。




