第一章 01
第一章オリジンイーター
「他ならぬあの日がもうすぐだね? ジン」
「あの日? ……すみません、美冬さん。あの日とか、女の子が言うと変な憶測をしてしまうので、きちんと表現してください」
「もしかして、覚えてないの? ジン?」
「美冬の記憶力がおかしいんだよ。ねえ、春樹?」
学校への登校途中。
僕を真ん中にして右に春樹、左に美冬。
まだ、学校から遠いので僕達の他には生徒はあまりいない。
いつものなにげない登校風景。
僕は自分の淫らな思考を振り切り、自分を正当化するために隣の親友に助けを求める。
だが、親友はこういう時だけしっかり答える。
最近、ぼんやりしていることが多いくせに……。
「いや、お前が悪いだろ?」
「えっ、なんで、理不尽でしょう!?」
「すまん、理由は言えない約束」
「春樹、それ、ぎりぎりアウトになりかねないよ」
美冬が少し不機嫌そうに春樹に言う。
春樹はいつも、理由なんて何のためらいもなく言うのに少しおかしい。
こういう時は何か事情が絡んでいるに違いない。
「いや、俺に当たるなよ。大丈夫だよ。ジンはこういうことは、何故か、必要な時になるとしっかり思い出すから……」
「いや、何が!? 二人で僕を置いていかないで!」
「本当に?」
美冬が、僕を無視して、話を進めようと春樹に質問を投げかける。
春樹に問いかけているはずなのに、真ん中に僕がいるから、僕に問いかけているように見えなくもないがそんなことはない。
えっ、そうだよね。なんか僕を見つめているようにも見えるんですけど!?
でも、現実は違うと僕はわかっているので素直に引き下がる。
「はい、すみません。もう黙ってます」
「ああ、本当に。最悪、思い出さなかったら、俺がアウトにならない範囲で思い出させる」
「そっか、春樹がそう言うなら、大丈夫だね」
「……」
「(そんなに無条件に俺を信じるなよ)」
本当に僕を置いて、二人がこの会話を終わらせる。
というか僕の話を聞いていないから、会話の流れがおかしく思える。
僕はそこと重大な部分に対して抗議する。
「ねえ、僕の話なのに、本当に二人で完結させないで!?」
「うるさいぞ、ジン。俺達の裁判長は美冬なんだ。美冬の判決は絶対だ」
「悔しかったら、私より、記憶力が良くなって、しっかり全てを覚えていたら? 二人とも」
僕は、この会話をいつもの冗談にしてしまった。
黙っていた僕は、春樹の小声で言ったことをしっかり聞き取れていたのに……。
もしかしたら、春樹は無条件の信頼に疲れていたのかもしれない。
もしかしたら、僕が本気でなんとかしようとすれば、春樹の代わりになれるくらいになれば、春樹を救えたのかもしれない。
この会話は後でしっかりと自分達に返ってくる。
もしかしたら、人は無意識に自分を救おうと――自分の至らないところを気付かせようと――人に何かを言うと同時に自分にも何かを言っているのかもしれない。