第三章 06
カラオケ店に着き、歌い始める。
美冬は僕の意図に協力しているのか、たまたまなのか、デュエットを歌い合おうと言ってきた。
もちろん、僕と美冬のペア、春樹と夏葉のペアで……だ。
そして、お互いに相手のペアが歌う歌は、相手が知っているであろう曲の中から選ぶ。
そして、採点の得点が高い方が勝ち。
相手のペアが歌う曲はペアのメンバーが交互に選ぶ。
美冬が純粋にデュエットを歌いたいのがわかったのもあるのか、春樹と夏葉は簡単に承諾してくれた。
勝率は互角。
そして、僕は賭けに出た。
超定番のラブソングを二人が歌う曲として選んだ。
ここまで、ラブソングは僕達しか歌わなかった。
お互い、相手が歌いたい曲にしようと配慮したのだろう。
だが、賭けは裏目に出た。
曲を入れるところまでは違和感なくできたのだが、実際に歌う時になって、夏葉が爆発した。
「なんで!? なんで、そういうことをするの!? 私を振るにしても、こんな酷いことをしなくてもいいじゃない! もう、付きまとうなってこと!? 私がストーカーみたいって言いたいの? でも、誘ってきたのはそっちじゃない! 私が恋する相手は私が決めるよ! 押し付けないで! 私は――」
「夏葉、落ち着いて!」
美冬の静止の声も届かない。
春樹はどこか寂しそうに黙っている。
「私は、春樹くんが好きなのに!」
「「「「えっ!?」」」」
ここに居る全員の驚きの声が重なり、春樹と夏葉の目からは涙が溢れてきた。
夏葉は訂正しない。おそらく、意図せず、思った通りのことも言っていない。でも、それでも訂正しない。
それが答えだった。
「そう…か? 春樹、思い……だしたよ」
「ああ、俺もだ。俺の抜けていた記憶はこれだったのか? 夏葉、なんでまた好きになってくれたんだ? なんで、思い出したんだ?」
「当たり前だよ。だって、約束したじゃない?」
夏葉と春樹は確認し合う。
美冬と僕も口を挟む。
「そっか、そうだよね? 人の想いを簡単になかったことにできるはずがないよね?」
「なるほど。春樹は、オリジンイーターの異能で僕達を入れ替えて罪を犯したことを覚えていたんだね?」
「いや、完全には覚えていなかったさ。たしかに俺はそう願ったが、実際に罰を暴走させた夏葉の願いには、俺がそれを忘れることも入っていたみたいだしな」
「えっ!? 少しは思い出していたの? やっぱり、私の想いもその程度だったのかな? 私も想うことすら上手くいかないなんて……。それとも、まっすぐ想えなかったのかな? 私も邪念がつきないなぁ」
夏葉の暴走が戻ってきた。
落ち着いたみたいだ。
「そうだ、ジン」
「ん、何?」
「待って! 春樹! 私も言う!」
「ああ、じゃあ、言うぞ?」
「「ありがとう!」」
その言葉と共に何かが砕ける音がする。
音の方を見ると、春樹の時計からだった。
時計を確認して春樹が言う。
「なんか、時計の針の先端の結晶が砕けたみたいだ。あれ? でも、こんな結晶だったっけな?」
それは春樹が間違えた日々を――だけど、かけがえのない日々を取り戻した瞬間だった。
同時に、それは全てが動き出した瞬間だった。




