第三章 03
罰の世界は発動した。
この世界では入れ替わりが元に戻る。
入れ替わっていた間に変わった関係は、その意識の人のモノとして継続する。
つまり、夏目人は法内美冬と付き合っていて、秋月神斗は王君秋と付き合っている。
だが、天堂春樹だけは裁園寺夏葉と付き合っていないという例外が存在する。
それが、罰の世界。
正確には、それを罰として元に戻したというわけだ。
だが、これはある意味、裁園寺夏葉にも負担を強いる。
そういう完全ではない罰だった。
だから、裁判教会のトップたる神様は、あまり下したくない罰だと思うのだ。
それでも、この罰は発動した。
どちらにせよ、入れ替わりは戻さなくてはいけない。
なら、これでいいじゃないか。
そう、思いたかった。
それでも俺には罪悪感が拭えなかった。
もう少し、本当にもう少しだけ、彼らを見ていよう。
この俺――夏上天典が担当した事件を綺麗に終わらせるために必要だろう。
彼らはもう、俺のことを覚えていないだろう。
だが、だからこそ、見ていられる。
第三者として……。
だけど、状況によっては傍観者でいるだけのつもりはない。
彼らも苦悩していたのだ。
彼らは弱さゆえに選んでしまったのかもしれない。
難しいけれど、全てを上手くいかせる最善の選択を諦めてしまったのかもしれない。
「彼らに、何事にも諦めない強さがあらんことを……」
それはかつて、俺がもらった言葉だった。
「ジン! おはよう!」「よお、ジン!」
「ああ、おはよう! 美冬、春樹」
「ねえ、放課後、デートしない? 二人でカラオケでも……」
法内さんがそう言うが、夏目くんは呆けたように法内さん達の奥に居た人を見ていた。
それに気付いたのか、法内さんが聞く。
「ジン? どうしたの?」
「裁園寺さんがどうかしたのか? ジン?」
天堂くんが視線の先を見てから言う。
「裁園寺さんも誘ってみない? もちろん、春樹も一緒で……」
「夏葉を? 別にいいけど……。他ならぬ貴方がなんで?」
「うん? なんとなくだよ」
「ふ~ん、まあ、いいか……。夏葉!」
法内さんが裁園寺さんに声をかける。
天堂くんと夏目くんも一緒について行く。
「えっ、何? どうしたの? 美冬?」
「カラオケに行かない? 私と夏葉とジンと春樹の他ならぬこの四人で」
「えっ、夏目くんも一緒なの?」
「うん、そうだよ。あげないけどね?」
「ハハハ、うん、理由が気になるけど、まあ、いいよ。行こう。放課後ね? 校門で待っていればいい?」
「うん、いいよ。じゃあ、放課後に」
そうして、予鈴がなる。
「やばっ、急がないと遅刻するぞ!」
天堂くんと法内さん、裁園寺さんが走る。
そこで、俺――夏上天典と夏目くんがもう少しですれ違う。
「おはよう」
「おはよう」
俺達は挨拶をかわす。
もう大丈夫だ。
彼らはもう大丈夫。
だって、声を聞けばわかる。
俺にはそういう異能がある。
けれど、今は異能なんてなくてもわかる気がした。
頑張れ、夏目くん。
頑張れ、天堂くん。




