幕間 並び立つ覚悟
「推しへの愛以外でライブに行く人もいるんですよ?」
「どんな愛ですか!? どんな!? 恋愛の愛だったら怒りますよ!」
「なぜですか? 好きな人の晴れ姿をみたいと思うのは当然じゃないですか?
第一、アイドルが結婚するパターンが学生の頃からの彼氏なら、一番初めのファンは彼氏ではないですか?」
「わかってないですね。彼氏なら彼女の方からチケットを用意するんです。ライブはいわば、彼女からの愛!」
「それこそ‥‥いや、待てよ。彼女の彼氏への愛をかわいいと思ってライブに来る人もいるのか? でもですよ?」
「はい、なんでしょう?」
「彼氏が他のファンと対等でいるために同じ条件でチケットをとろうとするのも愛ではないですか?」
「っ。」
「彼氏は確かに自分だけを見てほしいけれど、彼女にそれを強制はしない。
なぜなら、他のファンも見た上で自分を選んで欲しいから。
他のファンも見られる状態であること。
並び立つことを否定しない。」
「っっ。」
「どうしたんですか?」
「(私が昔、恋人がいたら、私の出演作品だけ見てほしいと思ってたとか。私の出演回だけ見てほしいと思ってたなんて言えない)」
「?」
「わ、わたしは負けたわけではないですから」
「えっ、なんで急に!」
「(でも、ファンが彼氏なんてアリなの? えっ、でもこの人、最初から私のこと1人の魅力的な女性だって言ってなかった?)」
「ね、ねえ。どうしたんですか?」
「(っ。どうしよう。私、この人にドキドキしてる。胸がキュンとする。こ、これって、ち、違う。これはそう、きっと流行り病。
きっと、そう。
後で検査うけよう)」
「どうしたんですか? 本当にもう。そういえば、今度、平日にイベントですね。私、行けないんですよ。楽しんできてくださいね」
「えっ、あなた、来ないの?」
「えっ、ええ、だって、仕事ありますし、有給も取りづらい会社なので」
「(たしか、この人、その日は半日勤務って。なら、私が出る時間をギリギリまで遅らせてもらって。って、私、何を考えているの!?)」
「? 本当にどうしたんですか?」
「その日、私の出番ならギリギリ間に合うと思いますよ。
だから、来てくれてもいいですよ?」
「どうしたんですか?
さっきから。
まあ、間に合うなら、行きますけど。
あれ?
私の勤務時間、知っていたんですか?」
「(い、言えない。なんで知ってたかなんてこの人には言えない)ま、まあ、来られるならよかったじゃないですか。
さあさ、行きましょう」
彼女はファンのSNSをチェックしている。
だが、彼は自分のハッシュタグを入れていない投稿までチェックされているとは思っていないので、なぜ、彼女が知っているかを知らない。
奇しくも、彼女のファンへの愛で、彼は彼女への愛を返せるのだった。




