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かわいい盗賊さん

「ヒャッハァァァァ! 有りもの全部置いていけやぁぁぁぁ!!」


 異世界の言葉がわかるのは、言語翻訳って能力の効果。僕の言葉も翻訳して相手に届けてくれるらしいので、会話の不自由を心配しなくていい便利な能力だ。さすが本日のおすすめ。

 この能力は意識すれば動物の言葉すら理解できるのだけど、さすがにそこまでは必要ないので今のところ人間の言葉だけに効果を限定している。そういう設定もできる能力なのだ。


 ……それにしても、なんつーテンプレートなんですか。


 盗賊さんのその台詞、全人類の半分はどっかで聞いてそう。

 そう思いつつ、とりあえずは僕の存在を知らしめるために、派手な登場を演出することにした。

 盗賊×3と馬車の間となる位置に駆け込み、思いっきりブレーキ。一気に加速を殺し、派手に砂煙を撒き散らす。

 ここまで素足で走ってるし、今も素足で地面を抉ってるのだけど、少しも痛みは感じない。吸血鬼頑丈だなー。

 人間だった頃は、こんな隕石でも落ちてきたような状況を生身で作るなんて無理だったので、吸血鬼って凄い。


「な、なんだぁ!?」


 砂煙の中からでも、盗賊×3と馬車が動きを止めたのが解る。これは嗅覚強化で位置を把握しているから。


 ……あー、馬車からすごい良い匂いが。


 ソーセージとか塩漬け肉……野菜やパンの甘い香りも。意識したらもっとお腹が空いてきちゃった。嗅覚が強いのも考えものだ。


 ……早く終わらせて、お礼のひとつでも頂きましょう。


 そう考えているうちに砂煙が晴れて、僕は盗賊×3と対峙した状態になる。向かって右の盗賊が、震える指でこっちを指差して、


「お、おかしら! 砂煙から痴女が!!」


 あ、そういう反応ですか。

 確かに僕は今、衣服を身につけていない。改めて自分の身体を見てみれば、長い銀髪が身体を覆うようにしているのでわりと肝心なところは見えてないけれど、どう見ても全裸だとは解る格好だ。これでは痴女扱いされても仕方がないかもしれない。

 まあ、そんなことは今どうでも良いけど。僕にとって、今一番重要なのは飢えを満たすことだ。


「えーと……おでこ流血商人さん」

「は、はい!?」


 後ろにいるおでこ流血商人さんに顔を向けると、彼は両手で顔を覆いながら返事をしてくれた。

 女の子の裸を見ないでくれるなんて、中々紳士的な男性……と思ったら、バッチリ指の隙間からこっちのお尻を凝視してるようだった。なんだ、ただのムッツリか。


「ご飯くれたら助けてあげますけど、どうします?」

「え……は?」

「いやだから、ご飯くれたら助けてあげますってば。嫌なら僕、すぐどこかに行きますけど……どうします?」

「え、ええと、じゃあ、お願いします……」

「はい、お願いされました」


 明らかに相手は混乱してるようだけど、言質はちゃんと取れた。言わせたもん勝ちですよ、こういうのは。にっこり。

 さて、それじゃあ約束通りに助けるとしようかな。

 僕は無気力だけど、約束を違えるのは好きじゃないのだ。約束というのはきちんと守るためにある。結んだ以上は、守らないとね。はりせんぼん飲むの怖いし。


「んっと……それじゃあ、右からスネ毛ボーボーさん、ハゲマントさん、鼻毛ちら見えさん」

「「「なんぞその呼び名!?」」」


 見事にハモられた。三人とも実に不服そうなハモりだ。僕としては特徴を捉えた呼び名のつもりだったのに、どうやらお気に召さなかったご様子。

 まったく、ロリジジイさんといい彼らといい、我が儘な人たちだ。おでこ流血商人さんくらい素直に受け入れる姿勢を見せてほしい。


「ボーボースネ毛さんとマントハゲさん、ちら見え鼻毛さんの方が良かったですか?」

「「「そこじゃねーよ!!!」」」


 またハモられた。仲が良いんですね。

 どう呼んだものかと思っていると、盗賊三人組はほぼ同時に馬から飛び降りた。そのまま宙返りをしつつ、華麗に地面に着地。各々よくわからないポーズを取ってから、口上を述べ始める。


「俺は鎖ガマのチワワ!」

「俺は爆弾のダックス!」

「そして俺様が投げナイフのテリアだ!! 三人揃って、テリア盗賊団よ!!」

「……ぷっ」

「「「何がおかしいー!!!」」」

「ご、ごめんなさい、ちょっとタイムで……ぷぷっ」


 ……全員小型犬の名前じゃないですかー!


 異世界だから意味は違うのかもしれない。でも僕から見ると、三人とも犬、それも小型犬の名前だ。

 それぞれ顔は強面なのに、名前が小型犬……あ、ダメだこれ。ツボに入った。

 おまけに三人とも結構律儀なのか、僕がツボに入って笑っているのを肩をぷるぷるさせながらも見守ってくれている。そのぷるぷるが中途半端に子犬っぽくて……。


「あは、あははははは! もうダメ、なにソレかっわいい……あははははははは!」

「お前ぇ……調子に乗るんじゃねぇぞ!!」

「きゃんっ!?」


 鎖ガマのチワワちゃんが、名前通りに鎖ガマを使って攻撃してきた。

 チワワちゃんの持っている鎌の柄の部分には鎖が付いていて、先には分銅。一般的な鎖ガマのイメージ通りの見た目だ。

 横凪ぎに振るわれてきた鎖が僕の身体にぐるんっと巻き付いてくる。チワワちゃんが鎖を引っ張れば、鎖が絞められつつも分銅が鎖に引っ掛かって、ロックが完成。


 ……へー。鎖ガマってこんな風に相手を捕まえるんですね。


 ビックリした。あと、自分の驚いたときの声が意外と女の子っぽくて更にビックリ。

 やっぱり意識的に男でも、身体は女の子みたいだ。やだ、僕、無理やり女の子にされちゃう……!


「ぐっへっへ……どういう理由でこんなところに痴女がいるのかは知らねぇが、スゲェ上玉だ。ノコノコやってきやがってよぉ……たっぷり楽しんでから奴隷商に売り飛ばしてやるぜぇ!」


 すいません、生後三日で処女喪失はちょっと。

 自分の中で若干ノリノリだった部分もあるけれど、そういう状況になるのならせめてもう少し格好よくて、生活力があって、僕がなにもせずにゴロゴロしててもニコニコ微笑んで受け入れてくれるような人がいい。寄生対象、もとい恋人。


「おいおい、ずいぶん落ち着いてるじゃあないか、ええ? お前状況わかってんのか?」

「ああ、はいはい、ちゃんと解ってますよチワワちゃん」

「ちゃん付け……お前、マジでいっぺん犯さねぇと解らないみたいだな!!」


 チワワちゃんが青筋をギンギンに立てて、鎖を引っ張る。僕を引き寄せようと、そういう算段だろう。


「ぎっ……!?」


 ……それじゃ非力すぎて、思い通りにいきませんけどね?


 僕が軽く足に力を入れるだけで、チワワちゃんの力程度ではびくともしなくなってしまう。信じられないという風に目を白黒させるチワワちゃん。


「な、なんで……!?」

「そっちこそ、状況見えてます?」


 そもそも、なんの考えもなく三人の暴徒を相手取るなんてこと、バカのすることだ。

 僕が彼らの目の前に立った理由は、ごく簡単。目の前の彼らから、何の脅威も感じないから。

 例えばそれは、ケージの中のハムスターを見るような気持ち。ほら、何の危機感も湧かないでしょう? むしろ可愛らしく思ってしまうくらい。


 どうも今の僕は、相手を見るだけで大体の強さを把握できるらしい。正確には、嗅げば。

 これはブラッドリーディングの能力だ。この能力は、血を介して相手の情報を把握する能力らしいのだけど……どうもこれで、相手の血の匂いから大体の強さを判別できているようだ。

 相手は血を流してはいない。それでもこの距離なら、どんな血か解る程度には僕の鼻はきいている。嗅覚強化の効果で。

 つまりこの情報は、嗅覚強化とリーディングの併せ技で取得したってことだ。


 ……まあ、リーディングはカンストするまでポイント振ってますし。


 多少無茶苦茶というか、通常より便利になっててもおかしくはないかな。嗅ぐだけで効果がある程度には。

 例え相手が束になってかかってきても、僕に害を成すことはできない。そういう確信があるからこそ、僕はノコノコやってきたという訳だった。


「よいしょっと」


 鎖の感触が鬱陶しいので、上半身だけを霧化させて鎖ガマから抜け出てしまう。

 霧化の能力。身体の一部分だけを霧にすることもできるようだ。便利便利。


「な、な……!?」

「ちっ……ダックス!」

「あいよ、おやぶん!!」


 呆気に取られているチワワちゃんと違い、テリアちゃんは冷静にダックスちゃんに指示を出した。

 ダックスちゃんが懐から丸い物体を取り出す。丸い物体には縄のような物がついていて、ダックスちゃんはそれにマッチで火を付けた。

 お名前が「爆弾のダックス」らしいので、あれは爆弾ってことで間違いないのでしょう。


「これならどうだぁ!!」


 ダックスちゃんが綺麗な投球フォームを取り、オーバースローで爆弾を投げつけてくる。

 これは少し、困っちゃうかな。


「積み荷に被害が出たらどうするんですか……風さん、お願いしますね」


 風魔法。ポイントをひとつしか振ってないので大したことはできないのだけど、風くらいなら起こすことができる。

 僕が望んだ通りに突風が起きて、爆弾はそれを投げた張本人たちの元へさようなら……あ、火が消えてない。


「「うへぇぇぇぇ!?」」

「伏せろ、テメェら!」


 テリアちゃんが素早く二人を押し倒したお陰で、三人とも爆弾の被害は被らなかったようだ。

 爆発音はかなり盛大に響いたものの、見たところ威力はそれほどでもない。僕を生け捕りにしようとして、火薬の少ないやつを使ったのかな。


「くっ……お前、ただの痴女じゃ無いな!」

「ええ、まあ……痴女ではないです」


 気分的には男なので、痴漢……いや、それはそれでダメな香りがする。

 とにかく、別に好きで服を着ていないわけではないので、痴女というのは心外ですよ?


「こうなりゃ、多少傷がついても構わねぇ。俺の投げナイフで……」

「風さん、どうぞ」

「「「うわぁぁぁぁぁ!?」」」


 そろそろ本格的にお腹空いてきたんで、終わりにさせて貰おう。

 魔力をふんだんに込めて、魔法で突風を起こす。

 できることが単純でも、込める魔力を増やせばその規模は大幅に上がるのがこの世界の魔法のルールらしい。頭の中の説明書は嘘つかないので安心して信用し、たっぷりと魔力を込めて魔法を行使した。

 膨大な魔力を込めて作り出した風はひとつの大きな渦になり、小型犬の皆さんを吹き飛ばしてしまう。

 見事にハモった悲鳴と馬を残し、テリア盗賊団は僕の目の前から姿を消しましたとさ。


「……はー、ほんと、お腹空いちゃった」


 ちょっと面白かったのでもう少し見ていたい気もしたけど、今の僕にはご飯が最優先。

 まあ手加減は一応したので、死にはしないでしょ。たぶん。

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