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リ・バース

「……ふむ」


 浮かび上がった意識に従って目を開けると、今度は廃墟に立っていました。

 いや、これはどう見ても廃墟。しかも、街レベルの廃墟だ。

 あっちを見てもそっちを見ても、朽ちた建物ばかり。人の気配は微塵もない。


 それと、生まれ変わったはずなのに、僕の目線は前と同じ高さのままだ。転生したんじゃなくて、そのまま異世界に来たんじゃないのかな、これ。

 そう思ったのは束の間。近くに落ちていた割れた硝子に映る自分を見て、納得できた。

 長く銀色の髪に、赤い瞳。絶世の美少女って感じの顔をした女の子が、鏡の中にいる。

 ピースサインしてみたら映っている女の子もピースサインしたのでこれは完全に僕なのだろうけど、僕は純系日本人です。あと、女顔ではあったけど男だったはず。

 つまり、生まれ変わったのは間違いないっぽい。

 恐らくだけど、吸血鬼と言うのは生まれたときから成体なのだろう。だから、転生してすぐでもこうして違和感なくいられるんだと思う。

 口を開けてみると、長くて鋭い八重歯が生えていた。うーん、完全に吸血鬼っぽい。


「まあ、赤ん坊スタートとかダルいですし」


 性別が変わっちゃったのは……まあ、こっちが指定しなかったのが悪いので、しょうがない。ちょっと股間の辺りが心もとない感じはするけど、それだけなので気にしないことにした。あ、胸の違和感は全然ないです。見たところ貧乳だから。

 しかし、生まれが廃墟って……。


 ……ロリジジイさん、ちょっと僕が思ってたのと違いますよ、これ。


 確かに天候は穏やかで、気温は暖かく、それでいて風は気持ちいい。空気も美味しいし、昼寝するには良い環境だ。でもまさか、こんな廃墟に産み落とされるとは。


 ……まあ思ってたのとは少し違いますが、間違ってはいないので良いですか。


 僕の希望には沿っている。とりあえずはそれで良しとしよう。

 あと、僕は全裸だ。全裸だからこそ自分が女の子だと認識できたわけだ。誰も見てないし、裸でも別に良いけど。


 手近な廃墟に入ると、ベッドが置いてあった。長く放置されていたらしく少しボロだけど、寝られないほどじゃない。

 ベッドが粗悪なのは、周りの環境の良さで相殺ってことで。

 天井が半ば崩れているから程よく光と風が入ってきて、非常に心地好い。吸血鬼って本当は日の光に弱いはずなので、日照耐性取ってて良かった。


「あ~……♪」


 幸せだなぁ、これ。

 寝ましょう。すぐ寝ましょう。今すぐに。

 己の欲求に従って、僕は眠った。それはもう思いのままに、ぶっ続けで寝まくった。


 あー、やばい、最高です……ふにゃあああ……。


 吸血鬼は食事や給水の必要性が薄いのか、僕は空腹にも悩まされず、なんの不自由もなく眠り続けることができた。

 何も採っていないからか排泄欲も沸くことなく、快適すぎる惰眠を貪りまくりの日々だ。ビバ、惰眠。

 お風呂がないことはちょっと気になったものの、なんと高レベルの回復魔法で身体の汚れは落とせるらしい。カンストまで振っといて良かった。

 自分の技能の効果が解るのは、なんとなく自分の頭の中に浮かぶからだ。頭の中に説明書があるような感覚といえば解りやすいかな。その感覚に従って、僕は必要な技能を行使する。


「きれいになーれ……ぐぅ……」


 本来なら魔法を使うときは詠唱や集中が必要になるのだけど、魔力を多く込めることで省略ができる。魔力強化技能を持っている僕には当然、それが可能だ。

 格好良い口上とか集中とかしちめんどくさいのでもちろん省略して、サクッと魔法を使う。それでも発動のキーとして短い言葉が必要らしいので、そこだけは適当に。

 そんな感じで定期的に回復魔法で身体を綺麗にしつつ、三日の時が過ぎた。

 さすがに三日も寝続ければ少しはお腹が空くし、結構喉が渇いてくる。特に喉の渇きが深刻で、大人しく眠るって気分ではなくなる程だった。


「あー……食事の必要がない種族になれば良かったかも」


 今さら後悔しても遅いので、一先ず水を探しに行くことにした。初めての異世界探索だけど、ちっとも心は踊らない。早くお布団に帰りたい気持ちでいっぱいだ。

 闇雲に探すの、すっごいだるいなぁ……と思っていたら、ふと、不思議な香りが嗅覚を刺激する。


「そういえば、嗅覚とかも強化されてるんでしたっけ」


 覚えろと言われたことなので、技能のことは全部覚えているし、頭の中にある説明書で能力をきちんと確認もしている。面倒くさかったけど、ロリジジイさんが口煩かったこともあってお勉強はしておいたのだ。半分寝ながらだけど。

 そのまま少しだけ意識を集中すると、なんとなくそれがなんの香りなのかも解ってくる。


「……血の匂いですね」


 臭いではなく、匂い。

 今の僕にとって不愉快ではなく、寧ろお腹が空く匂い。

 嗚呼、やっぱり吸血鬼になったんだな、僕。血を吸いたいって欲求が確かに心の中にあるし、血の匂いを正しく認識している。

 良い匂いに誘われて、僕は駆け出した。


「うわっ、はやっ」


 駆け出してすぐに、自分自身の足の早さに自分でドン引きしてしまう。

 そんなに本気で走ったつもりはないのに、あっという間にさっきまで眠っていた廃墟が豆粒だ。驚いてついつい一旦振り向いてしまった。

 たぶん、車とかより全然早い。素早さ極振りってすごい。


 ……この早さなら、軽技くらいはできそうかな?


 そう思って、手近な廃墟の壁に足をかけて……おおお。登れる登れる。

 重力に引っ張られつつも、強引に壁をかけ登り、またまたあっという間に屋上へ。

 やばい、結構楽しい。睡眠には敵わないけど、中々心踊った。


「さて、方角はあっちですか」


 匂いが流れてくる方角をじっ……と見詰めると、望遠鏡でも覗くように遠くのものを鮮明に把握できる。これは視覚強化って能力の効果。

 遥か遠く、匂いの元凶が見えてきた。


「……追う盗賊と、追われる商人ってところですか?」


 三人のガラの悪そうな人達が馬に乗り、大きな荷台を引く馬車を追い回しているのが見える。

 馬車で馬の手綱を握っている方は、額から血を流しながらも必死で馬を走らせているものの、明らかに追う側の方が身軽。とても逃げ切れそうにはない。


「……行きますか」


 正直面倒だけど、飢えを満たすためには仕方ない。

 面倒なことは早く終わらせるに限るので、僕は一直線に現場へと向かった。

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