ご注文はステータス設定ですか?
「良いか、無気力な魂と言うのは、ようはその世界に適合していないのじゃよ。感じたことはないかの? 生きていて、「周りと自分とで、なんだか認識がズレているな」……と感じたことは」
「ありますけど、そんなの誰でも一度は経験するもんじゃないですか」
自分と他人は違うのだから、考えの差違に戸惑ったり、がっかりすることくらい誰でもあることだと思うんだけど。
「お主は異常なんじゃよ。そこまでの無気力はなかなかおらん」
……褒められてないですよね、これ。
「ようは産まれるところを間違えたから、然るべきところに産まれ直させるみたいな企画ですか?」
「企画言うな。企画と言うより、尻拭い、かの……間違った世界に魂を置いてしまったことの、お詫びのようなものじゃて」
「はぁ……」
つまり転生すれば、僕にとって遣り甲斐とか生き甲斐とか、そういうものが見付かるってことだろうか。
自分で言っていいことなのかは解らないけれど、僕はかなりやる気のない人間なのに、そんな風に簡単に変われるものかな……?
とは考えてみるものの、どうやらロリジジイさんの中では僕の転生は決定事項らしいので、僕が何を言っても覆りそうにもない。
仕方ないなぁ……まあ見付からなかったらまた寝て過ごせばいいか……。
「というわけでな、まずはお主の種族を決めてもらおうか」
「人間じゃなくても良いんですか?」
「おうおう。お主が産まれ直す世界には様々な存在がおる。なんでも良いぞ。例えば吸血鬼とか超強くての。ほ……」
「じゃあそれで」
「早いの!?」
だって考えるのが面倒くさいんだもん。
こういう手続き的なのはさっさと終わらせてしまいたい。真面目にやってるとすごい眠くなってくるから。
「お、おう……ま、まあ良いぞ。では次に技能……ようはスキルの設定じゃの」
「はあ……どんなのがあるんですか?」
「先ず吸血鬼じゃから、吸血じゃろ、ただこいつは……」
「じゃあ吸血全振りで」
「……お主さては面倒なだけじゃろ?」
「バレましたか」
「お主のう……ええい、紙に書いてやるから少しは真面目に考えんか。お主の魂は無気力だが質は良いのじゃぞ。吸血に振りすぎたら、血への欲求が大きくなりすぎてすぐ死んでしまうぞい」
「ええ、なにそれめんどうくさっ……。デメリットありの能力とか先に言ってくださいよ、使えないロリジジイだなあ」
「お主が話聞かんからじゃろ!?」
ロリジジイさんがぶつぶつ言いながらも、使える能力を紙に書いてまとめてくれる。
ちなみにこの紙はどこからともなく現れて、同じくどこからともなく現れたペンが空中に浮かんで文字を書いている。ロリジジイさんの姿は相変わらず見えない。
そんな感じで待つことたぶん数分。僕の前に置かれた紙には大量の文字が書いてあって読むのが実に億劫だったけど、ロリジジイさんがうるさいので仕方なく読むことにした。
☆初期習得可能技表、吸血鬼版ver1.27
吸血
霧化
蝙蝠化
影化
血の契約
ブラッドリーディング
ブラッドアームズ
ブラッドボックス
言語翻訳
言語解読
嗅覚強化
視覚強化
魔力強化
回復魔法
風魔法
闇魔法
火属性耐性
水属性耐性
聖属性耐性
闇属性耐性
日照耐性
毒耐性
呪い耐性
魔法耐性
「長いです」
読み終わるだけで疲れた。それくらい項目が多かった。
もう十分頑張ったと思うので、このままお昼寝したいくらいだ。
「お主な……」
「適当に取っといてもらうことって出来ますか?」
「出来るわけないじゃろ!? お主のことなんだからお主が決めんかい!」
「ええ~……じゃあ全部で」
「全部取ってもポイントが余るんじゃよ……どの能力を伸ばすか決めてくれんかの」
……ポイント制なんですか、これ。
おまけに口ぶりからするに、ポイントを使いきらないとダメのようだ。
まったく、そんなにキッチリしてるなんてなんなんですかこのロリジジイさんは。日本人ですか?
「じゃあぜんぶ取っておいて、余りは耐性と回復魔法に振っておいてください」
さすがにまた死ぬのは困るんで、生存優先と言うことで。今度も上手いこと苦しまずに死ねるとは限らないし。
毒とか呪いとかかかると苦しそうだし吸血鬼ってことは日の光にも弱いはずだから、その辺りのケア。あとはもしも傷ついたときの回復。
こんだけあれば、生存するには十分でしょ。
「……それぞれ最大まであげてもまだまだ余るの」
「本日のおすすめは?」
「飲み屋か!? ええい、ブラッド系と変化系、言語系、血の契約、魔力強化じゃ!」
「全振りで」
「……もうお主、ほんとなんなのお主……」
おやおや、随分キャラがぶれてますね。大丈夫かな、ロリジジイさん。
結局、もう少しポイントが余ってるそうなので残りは吸血に振ってもらうことにした。ある程度のレベルならメリットの方が多いらしいので、問題ないでしょ。
「次に身体ステータスの設定じゃが……」
「まだあるんですか……適当でお願いします」
「……本当にお主、無気力じゃの。ここまで剛のものにはさすがに出会ったことないぞ」
「えへへぇ」
「褒めとらん褒めとらん。無表情のままで褒められて照れてるっぽい台詞出すでないわ、気持ち悪い。なんじゃその無駄な芸の細かさ」
「もうめんどくさいから、素早さ極振りでお願いします」
「……お主の性格上、防御極振りを選ぶと思ったがの」
「なんか用事あったらすぐ済ませて帰って寝れるじゃないですか」
「うわー、納得じゃわ……」
心底呆れたように言われた。僕としては真面目に考えているのに心外だ。真面目に、お昼寝のことを、考えているのに。
「次に産まれの設定じゃの。どんなところが良い?」
「比較的気候が安定してて、静かなところですかね。昼寝しやすい感じでお願いします」
「急に要求増えたの!?」
いや、そこは重要でしょ?
何言ってるんですか……って顔したら、ロリジジイさんは溜め息を吐きつつも納得してくれた。
たぶん、ロリジジイさんは良い人だ。少なくともノリは良い。面倒見も。
神様か何かなのだろうけど、苦労人の匂いがするところがまた良い。一生養ってもらいたい。
まあ彼女も僕みたいなのを毎回相手にしてて忙しいでしょうから、無理でしょうけど……けど……。
「な、なんじゃ? 急に押し黙りおって……腹でも痛めたか?」
「いえ、わりとチョロそうだなと」
「何がじゃ!?」
気にしないでください、こっちの話なんで。
「こ、こほん……これで転生にあたり必要な準備は終わりじゃな。あとはお主の心の準備さえできれば、いつでも転生できるぞ」
「じゃ、さっさと宜しくお願いします」
「ふん、そう言うと思ったわ……達者での」
「ロリジジイさんこそ、お元気で。僕みたいなのの相手は大変でしょうが頑張ってください」
「解っとるならもうちょい真面目にやらんかいアホ。まったく……じゃあの、今度こそ、なにかを見つけるんじゃぞ」
「なにか、と言われても……なんでしょう?」
「なにかはなにかじゃよ。お主の生きる上で、後悔にも、幸せにもなる何かじゃ」
ロリジジイさんはちょっと笑った。そんな気がした。
次の瞬間には僕の体は光に包まれて、意識はゆっくりと溶けていった。
なにかとか言われても、想像つかないんだけどなぁ……。
「ロリジジイさんが「ええこと言った」みたいな雰囲気出してるんで、それで満足させときゃ良いですか」
「お主聞こえとるぞ」
ぽこんっと頭をはたかれたような感じがして、僕の意識の融解は加速した。
なんだ、やっぱりチョロいじゃないですか。あんな風に優しく叩くんだから。