夜を進め
「おら、さっさと起きやがれ」
乱暴な言葉とともに、蹴りで起こされた。
蹴りと言っても思いっきり蹴られたわけではなく、足で背中を揺さぶられたという感じだ。
当然だけど、あまり気分のいい寝覚めにはならない。僕はお布団に入ったままでテリアちゃんを見上げて、
「もう少し優しく起こしてくださいよ」
「盗賊になに期待してんだテメェは。優しくするわけねぇだろ」
自分たちの持ち物でもあるお布団を土足で踏むのはどうかと思うけど、言われたことは正論のような気がするので、特に反論することなくお布団から身を起こした。
寝ている間に殺されたりしなかっただけ、盗賊にしては十分優しさに溢れているだろう。ブシハちゃんがいるので、その心配はないとは思っていたけど。
大きく欠伸をして、溢れてくる涙を拭い、辺りを見渡す。
クズハちゃんは先に起きていたようで、ちょうど分身体の自分を片付けているところだった。目が合うと笑みを浮かべて、こちらに礼と挨拶をくれる。
「おはようございますですの、アルジェさん」
「ええ、おはようございます」
挨拶を返して周囲の見渡しを継続すると、ダックスちゃんとチワワちゃんがせっせと動き回っていた。
たぶん出発の準備をしているのだろう。ふたりは食料やら道具やらを、テーブルの上に置かれた袋に入れていく。
見たところそれは革袋で、クズハちゃんが自作したザックと同じようなものだ。ただ、そのザックには普通のものとは違うところがひとつあった。
……随分と物が入っていきますね。
ふたりは着替えや、部屋を明るく照らしているのとは別の火が点いていないランタン、鍋や包丁などを次々とザックに放り込んでいく。
不思議なことになにを入れてもするすると入っていくし、ザックが膨れるようなこともない。手品かなにかのように次から次に物品が入っていく革袋を指差して、僕はテリアちゃんに質問する。
「テリアちゃん、あれはなんですか? たくさん物が入るみたいですど」
「王都で金持ちの家から盗んできたもんだ。『灰の異袋』って魔具だな。いくらでも道具が入る」
「はぁ、なるほど」
見ている限り、『灰の異袋』とやらには様々なものが入れられている。
干し肉らしきも入っているので、ブラッドボックスと違って血液を含むものも入れられそうだ。
これまでこの世界で見た魔具は三種類。
『滲む音死児』、『九重舞台』、そして今目の前にある『灰の異袋』。
『滲む音死児』はたぶん呪い系、『九重舞台』は遠隔操作、『灰の異袋』は収納効果だ。魔具というものには、いろいろと効果に種類があるらしい。
オズワルドくんから譲り受けた僕の刀もそうらしいのだけど、どんな効果があるのやら。魔力を流さない限りは普通の刀だとは言っていたけれど。
「ま、口を通るサイズのものじゃねえと入れられないけどな。それと生き物はダメだ」
「あ、そうなんですか」
どうやら、ブラッドボックスのように大きなものを収納する力はないようだ。それでも、相当に便利なものなのは間違いない。
そんなものを彼らが王都で盗んできたということには少し驚いた。もしかするとその関係で、王国中に指名手配されたのかもしれない。
「お前がさっき使った刀も魔具だな。ったく、どこであんなもん手に入れたんだっつーの」
「テリアちゃん、分かるんですか?」
「まあな。その刀は――」
「――おかしら、準備完了でさ!」
テリアちゃんが語ろうとする直前に、チワワちゃんが元気よく声を発した。結果として、話の腰が折られてしまう。
チワワちゃんは鼻毛を揺らすくらいに鼻息を荒くして、既に『灰の異袋』を背負っている。準備万端という感じだ。
会話が食われてしまったので、僕とテリアちゃんの間に微妙な沈黙が訪れる。
数秒ほど経った後、テリアちゃんは自分のハゲ頭をがりがり引っ掻きながら立ち上がった。この話は終わりと、そういうことらしい。
彼がどうやって僕の刀のことを見抜いたのかは分からないし、もしも魔具としての効果まで知っているなら教えて欲しいところだけど、向こうはすっかり話す気を無くしたようなので聞いたところで無駄だろう。
「よし、出るぞテメェら」
「「「へい、おかしら!!」」」
テリアちゃんの言葉に、部下の二人だけでなくクズハちゃんまでがノリノリで返している。あの子たぶんまだ三人のことを芸人だと勘違いしてるっぽいけど、面白いから黙っていよう。
さすがに盗賊団だけあってフットワークは軽く、テリアちゃんたちはランタンの炎を消すとさっさと外へ出て行ってしまう。クズハちゃんも彼らに続くので、僕は入ってきたときと同じように一番最後に隠れ家を後にすることになった。
横穴を通って外に出ると、山は夜の闇と静けさに満ちている。ほうほうと、どこからともなくフクロウらしき鳴き声がした。ほうほう、異世界にもフクロウいるんですね。なんちゃって。
「眠くなりますね」
「吸血鬼がそんなんでいいのかよ。つーか吸血鬼なんだよな? 日中動き回ってなかったか?」
「あ、日の光が平気な吸血鬼なんです」
「……デタラメじゃねぇか」
「静かにしろ。行くぞ」
「すいやせん、おかしら」
チワワちゃんと話していたら、今度はテリアちゃんに話の腰を折られた。さっきの仕返し、なんてことはないだろう。さすがに。
ネグセオーは近くで待機していてくれたらしく、外に出るとすぐにこちらにやって来てくれた。
テリアちゃんが先頭を歩き、後ろにダックスちゃんとチワワちゃん。そのさらに後をクズハちゃんが行き、僕とネグセオーは並んで最後尾。そんな感じの陣形で、僕らは山を降り始める。
先頭を行くテリアちゃんは日中よりもゆっくりと歩を進めているけど、それはこちらへの配慮ではなく極力音を立てないようにだろう。時折立ち止まっては、耳を澄ませたり辺りを見渡したりしている。
ゆっくり進んでくれる方がついていく分には楽なので、こっちへの気遣いではないとしてもありがたい。
明かりもなく、月の光も届きにくい山道だというのに、テリア盗賊団は三人とも日中と変わらないくらい気軽な歩みだ。僕らは人間ではないから平気だけど、たぶんこれ普通の人間にはほとんど景色は真っ暗に見えているはずなのに。
なんらかの技能によるものなのか、それとも単純に盗賊としての慣れとかそういったものなのか。少し興味はあるけど、黙ってついていく。。
「……止まれ、お前ら」
トーンを落とした声と、片手を上げての合図。先頭から出た指示の通りに後続が次々と止まる。当然、一番後ろの僕とネグセオーもだ。
テリアちゃんは周囲を見回し、大きく溜め息を吐いた。
僕の方は嗅覚を集中して、恐らくは彼と同じことを知覚する。
「テリアちゃん、これ……」
「ああ、どうもバレてるらしいな」
テリア盗賊団が戦闘態勢に入った。
今日は寄贈短編も更新しましたので、そちらもよろしくお願い致します〜。




