盗賊さんいらっしゃい
「おっまえ……よく見りゃあの時の痴女じゃねえか!」
「あ、気付きましたか。いえ、痴女ではないんですが」
「こっちだって芸人じゃねえよ!」
「あの、アルジェさん。この人たちはお知り合いですの?」
テリアちゃんと会話をしているところに投げられてきた疑問に、僕はどう答えるべきか迷った。
知り合いかと問われれば確かにそうだけど、いい知り合いかと聞かれるとそうではないと思う。
向こうは僕を奴隷にして売ろうとしていたし、僕はゼノくんからご飯を貰うために三人を吹き飛ばした。
クズハちゃんに説明するなら「敵として知り合っている」、というのが正しいだろう。
ただ、テリアちゃんたちの方はともかく、こっちは向こうのことをそんなに嫌っているわけではない。寧ろ好意的なくらいだ。だってこの人たち面白いから。
ここはそういう感情も交えて紹介すべきだと思い、僕はクズハちゃんへ向けて口を開く。
「クズハちゃん、彼らは旅の芸人です」
「まあ、芸人!」
「「「嘘教えるんじゃねぇ!!!」」」
「なにか喚いてますけど、あれは芸人的フリというものです」
「つまりプロですのね……!」
「「「ちげぇよ!!! 俺たちは盗賊団だ!!!」」」
「という設定です」
「役作りですわね!」
「「「なんでそうなるんだよ!!!」」」
「その設定に人を巻き込む癖があって、ああやってこっちにネタフリしてくるんです」
「素人を交えてネタをするなんて、さすがはプロですの!!」
「「「いい加減にしろよ痴女ぉ!!!」」」
「は? 誰が痴女ですか? 勝手に不名誉なあだ名付けないでくれますか、面白子犬雑技団」
「「「鏡見て言えよ!!!」」」
あー、どうしようこの人たち。やっぱり凄い面白い。
フェルノートさんも相手にしていて凄く楽しかったけど、こっちは三人が一気に返してくる。それも息ピッタリで。
ネグセオーが明らかに呆れた瞳でこっちを見てくるけど、なにも言ってこないので置いておくことにする。それよりもう少し、この人たちを見ていたい。
「それで三人とも、どうしてこんなところにいるんですか?」
「ふん、聞いて驚け!」
「見て笑え?」
「笑うな! お前聞きたいのかおちょくりたいのかどっちなんだよ!!」
青筋を立てて怒るテリアちゃんを「まあまあ」と宥めると、微妙な顔をしつつもテリアちゃんは落ち着いた。
彼は咳払いをひとつして、何故かちょっと決めポーズみたいなのを取りながら、改めて語り始める。たぶん格好をつけたいんだろうけど、いちいち面白いから困る。
「王国で派手にやり過ぎてな。国中で指名手配になっちまったのさ」
「へえ……」
テリアちゃんがドヤ顔で頭を光らせながら説明するのを聞き、僕は素直に驚いた。
……ただの三バカじゃないんですね。
面白いだけの芸人軍団だと思ってたけど、指名手配になるくらいならそこそこの悪事を働いたということだろう。
おまけにその状態で、こうして国境まで逃げ延びている。先程見せてくれた三人が木々の隙間を素早く移動する芸も、随分と洗練された様子だった。つまり……。
「ベテラン芸人なんですね」
「お前マジで聞く気無いだろ!? そうだろ!? 殺すぞ!!」
消えた青筋を再びギンギンにして、テリアちゃんがナイフを抜く。
投げてくるかと思って身構えたけど、彼は構えたナイフをすぐに懐にしまった。
憎々しげだけれど殺意はない瞳でこちらを見て、テリアちゃんは大きく舌打ちをする。
「チッ。お前相手にこんなところじゃやりあえねぇな……国境警備隊に見つかったら面倒だ」
「そうですね」
正直なところ、それは僕も同じだ。
彼らを撃退するのは簡単だと思うけど、ダックスちゃんの爆弾が爆発したり芸人対応であまり騒がれても、今は困る。
誰にも見付からず、バレないように国外に行くのが目的だ。そしてそれは僕たちとテリア盗賊団、お互いに共通した目的でもある。
テリアちゃんの言動にダックスちゃんとチワワちゃんがなにも言わないところを見ると、それだけの信頼関係があるし、そっちの二人も状況が解っているということだろう。
お互いが考えていることが同じだとしたら、こちらが言うことはひとつだ。武器をブラッドボックスに収納して、言葉を紡ぐ。
「とりあえず国境を越えるまでは、お互いに騒がず行きましょうか」
「そうだな。せいぜい背中に気を付けろや。……行くぞ、テメェら!」
「へい、おかしら!」
「あいあい、おかしら!」
「解りましたわ、おかしらさん!」
「どっちに行けばいいんですか、テリアちゃん」
「おう、まずはあっちの斜面を……コラァ! なにナチュラルについてこようとしてんだよ!!」
え、だって楽そうだし。
見たところ、三人は山歩きには慣れている。
盗賊なんてものをやっているくらいだ。コンディションが悪いところは得意なのだろう。
クズハちゃんも山を歩くのは得意なようだけど、そういう人材は何人いても困らない。僕は山に慣れてないから、都合良く使……手伝ってもらおう。
あと、こっちが知らないところで彼らが国境警備隊に捕まったりして、警戒度が上がったら困るし。僕らは最悪突破できると思うけど、それでは騒ぎになってしまう。
テリアちゃんたちは盗賊としては強いのかもしれないけど、どれくらい強いのかは解らないし、国境警備隊の戦力も僕は知らない。なるべく不安なところや不透明なところは無くしておきたい。
「いいじゃないですか。減るもんじゃないですし」
「減るわ! 俺らのやる気が減る!!」
「こんな可愛い女の子がついてくるのに喜ばない……あ、テリアちゃんたちって、そういう……だから男同士で固まって……」
「なにまた新しい属性勝手につけようとしてんだテメェ!」
「いい加減にしねぇとホントに犯すぞ!?」
「ふざけんなよ痴女コラァ!」
「凄い! 迫真の演技ですのね! お三方とも、まるで本当に怒ってるみたいですの!」
「怒ってるんだよ見ての通りなぁ!」
「そろそろ気付けよ!」
「なんなんだこの純粋バカは!」
「まぁまぁ。これから一緒に行くんですから仲良くしましょう?」
「「「なんで勝手に方針が決まってんだよ!!!」」」
テリアちゃん達みたいに変な人たちにえっちなことをされるのは嫌だけど、こちらとしてはもうついていく気でいるのだ。別に向こうが嫌がるなら、勝手についていくだけの話。
クズハちゃんもすっかり乗り気のようで、瞳をキラキラさせながらテリアちゃんに近寄って行ってて面白い。
ネグセオーはテリア盗賊団のことを物凄く気の毒なものを見る目で見ていた。馬特有の黒くつぶらな瞳に、深い悲しみのようなものを滲ませている。どうかしたのかな、なんか同族を見るような目だけど。
「マジでついてくんのかよ……痴女」
「あ、僕の名前は痴女じゃなくて、アルジェント・ヴァンピールといいます。呼ぶときはアルジェでいいですよ、芸人さん?」
「私の名前はクズハと申しますわ。宜しくお願いいたします、芸人さん方」
「「「芸人言うの止めろ!!!」」」
その反応がもう芸人なのに。
こうして、一時的にはあるけれど、僕らはテリアちゃんたちと一緒に山を降りることになった。
静かにしなくちゃいけないと解ってても、ついついいじってしまいそうだ。




