ハイテンション童女
「出来ましたわー!」
「にゃっ」
夢から覚めて瞼を開いたばかりのところに、いきなり大きな声が飛んできたから、驚いてしまった。
地面に大きく広げて敷布団の代わりにしていた毛布から、跳ねるように身を起こす。
声がした方向を見ると、クズハちゃんが上機嫌な様子でなにかを抱き締めていた。
……僕の服ですか。
昨日、僕の採寸が終わったあと、クズハちゃんはすぐに服の制作に取りかかった。
一人ではなく、尾獣分身とやらを使って、三人に増えた上でだ。
生地や道具は彼女が自分で持ってきていた。しばらく時間がかかるとのことだったので、僕はお昼寝をして待つことにしたのだ。
空を見上げれば、まだ朱の色が残っている。日の出からそう時間が経っていない時間だろう。
もしかして彼女、一晩中服作りをしていたのかな。
とりあえず毛布を身体に巻き付けて、僕はクズハちゃんに声をかけた。
「徹夜で作ったんですか?」
「途中で分身に任せて、きちんと睡眠は取っておりますわ」
え、分身そんなこともできるんだ。便利。
それなら狐獣人になればよかった。なんでロリジジイさん、そっち推してくれなかったんだろう。まったく、役に立たないロリジジイだなぁ。
「アルジェさん? どうかしたんですの?」
「ああ、いえ。なんでもありません。おはようございます、クズハちゃん」
「ええ、おはようございますわ」
クズハちゃんは嬉しそうな表情でこちらに近寄ってくる。分身は片付けたらしく、三又の尻尾が嬉しそうに揺れていた。
抱き締めるようにしているから服の細部はわからないけど、色は黒と白の二色のようだ。
「さあアルジェさん。着せてあげますからこちらにいらしてくださいですの!」
「いえ、自分で着られますよ?」
「私が作ったんですのよ。きちんと着せて、細かいところまで確認させてくださいな?」
「はあ。そういうことなら」
制作した本人がそう言うのなら、まだなにか気になるところでもあるのだろう。素直に従うことにした。
クズハちゃんの前で毛布を脱ぐと、すぐに彼女が僕に服を着せ始める。
されるがままに腕を取られ、着せられていく。マネキンかなにかみたいだなと思ったけど、面倒だから目を閉じてそのまま任せた。
「あとは頭にこれを着けて……完成ですわ!」
「……ふむ」
終わったらしいので、自分の身体を隅から隅まで眺めてみる。
黒のロングスカートで、長袖の服だ。それにフリルつきのエプロンが被せられている。
頭に被せられた髪留めに触れてみれば、そこにもフリル。
ふわふわした装飾とエプロンだけど、黒のシックさがあることで不思議と調和が保たれている。
そんな印象は、クズハちゃんが嬉しそうに差し出してきた大きめの手鏡を覗いて、確定的になった。
鏡に写る銀髪の少女が頭に着けているのは、ホワイトブリムと呼ばれるヘッドドレス。
全体像が見えるような鏡ではないけど、肩の辺りまで確認しただけで十分に理解ができる服装。
「メイド服ですか」
「ご存知なんですの!?」
「ええ、まあ」
玖音の家にいた『世話係』さんのうち、何人かはこういう格好をしていた。これか割烹着のようなものが、護衛以外の女性の『世話係』さんの仕事着とも言える。
もちろん細部は違うけど、概ねは同じだ。僕にとっては見慣れている格好と言ってもいい。
仕事着として見慣れているところもあり、落ち着いた雰囲気を感じる衣装だ。
……わりと動きやすいんですね。
お屋敷で見ているときは窮屈そうにも見えたけど、着てみると結構快適だ。
従者の衣装としては、意外と優秀なのかも。
「はあぁ、我ながら完璧ですわ……」
クズハちゃんは出来に満足したのか上機嫌。尻尾と耳をふりふりしながら、僕の周りをくるくると動き回ってはいろんな角度から眺めている。
クズハちゃん本人の格好からしててっきり和服でも作ってくれるのかと思っていたけど、意外な衣装を制作するものだ。
「どこかキツいとかありません? すぐに手直し致しますわ」
「大丈夫。ぴったりですよ」
腕の曲げ伸ばしなども、特に引っ掛かりはない。
それでいて緩すぎる感じしないので、着ていて違和感がない仕上がりだ。
素直に感心する。三人がかりとは言え、このめんどくさそうな服を一晩、それも手縫いで作ってしまうこともそうだけど、採寸した通りの出来上がりということもだ。
「アルジェさんの銀髪に、とってもよくお似合いで……はぁ、会心の出来ですの。破れたりなどしたらすぐに修復しますから、遠慮なく仰ってくださいね?」
「解りました。ありがとうございます」
「当面はそれを着ていてください。次は和服をお作りしますから、仲良くお揃いにしましょうね!」
……あ、そっちはそっちで作るんだ。
どうも着せ魔というか、クズハちゃんはそういうのが好きなようだ。メイド服はその第一段というところか。
拒否権はないというか、拒否したところで作りそうなので任せよう。
また燃やされたりしたときに、替わりの服があるのはありがたいし。
「それでは、朝食にでも致しましょうか。ええと……干し肉で構いませんか?」
「いえ。僕は食べなくても平気なので……クズハちゃんが食べ終わったら出発しましょう。荷物、預かりますよ」
クズハちゃんの荷物は見るからに多い。
彼女の身の丈くらいあるバッグは、明らかに物がぎゅうぎゅうに詰まっている。かなりの重量があるのは間違いない。
そんな大荷物を担いでついてこられて、移動速度が遅くなっても困る。
収納は無限に出来るのだから、入れられるものはブラッドボックスに入れておいた方がいいだろう。
「私の荷物、結構重いんですのよ? あのお馬さんに乗せるにしても、そのための装備がありませんし……」
「大丈夫です。肉類以外は、僕の能力で片付けられますから」
「片付け……?」
不思議そうな顔をするクズハちゃんに、僕はブラッドボックスの能力を説明することにした。
……お互いのこと、まだなにも知らないんですよね。
友達だと彼女は言うけど、それって具体的にはどういうことをすればいいのだろうか。どういう風にするのが、友達なのだろうか。
彼女を理解することも、自分を理解してもらうことも、まだ始めたばかり。
そんな子とどう仲良くするかなんて、解るはずもない。
解らないことを考え続けることは面倒くさいから、あまり意識しないことにした。
今は、必要なことだけ話せばいいや。




