表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/283

野望のルーツ

 こつん、こつんと、ゆったりとした感覚で足音を響かせながら、声の主が降りてくる。

 魔法使い風の衣装を着た男性だった。ローブにはあちこちに金の刺繍があり、僕が着ていたものよりも高価そうに見える。

 男性は青いような黒いような、暗い髪色だ。顔から判別できる年齢は、二十代半ばというところか。

 ローブが分厚いので体格はハッキリとは解らないけど、顔の線は細め。瞳はパープル。


「いらっしゃい、しんぶっふぉ!」


 相手がなにか言おうとして、どういうわけか盛大に吹いた。

 彼は目線をこっちから外して、手を口に当ててプルプルしている。なにかあったのかな?


「どうかしましたか?」

「な、何故うちの地下に痴女が……!?」

「失礼ですね。好き好んで服を着ていないわけではないんですよ?」


 クズハちゃんに焼き払われたから無くなってしまっただけで、別に見せたくて裸でいるわけではない。

 そもそもそうなった理由もクズハちゃんを騙した側が悪いので、大元はそっちのせいだろうに。笑うなんてひどい人だ。


「よ、よくわからないが……君が抱き上げているその女性は、私の所有物でね。今すぐ戻してもらおうか?」

「騙し討ちで殺しておいて、所有物と主張するのもどうかと思いますが」

「だからこそだ。狩人が狩ったものは、そいつのものだろう? 同じように、その女狐も私の……ルーツ・シヴァスのものと言うわけさ」


 ルーツと名乗った男性は、懐から一本の杖を取り出した。

 それは見覚えのある色だった。ほぼ金色だけど、杖の先だけが茶色なのだ。

 狐の色を持った短めの杖。デザインは簡素なもので、ただ先端が膨れただけの棒切れのようにも見えるけど、あの色はクズハちゃんとその母親と同じ、狐色の輝きだ。

 杖から感じる匂いも、魔力も、間違いなく狐の親子と同質のもの。


「その杖は……」

「私は魔物やデミ――特に力のあるやつの死体から溢れ出る魔力を武器に宿し、魔具(アーティファクト)を造る研究をしていてね」

「それで、この人を殺したんですか」

「バカな狐を騙すのは簡単だったよ。平和のために力を貸してくれと言うだけでよかった。すっかり油断して、毒を飲み干してくれた。まあ暫くはしぶとく生きていたが、集中して魔力を吸い取ってやったら数日で息絶えてくれたよ」

「…………」

「オマケに、彼女には娘もいてね。まだ年若いが……そのうち立派な研究材料に育ってくれるとも。親に似て、実に(ぎょ)しやすいことだしね」

「そこまで話してくれるということは、死体を戻しても見逃してくれるなんてことは無さそうですね」

「ああ。もちろんだ。ちょうど、試作品の試運転がしたかったからね……そして、準備は整った!」


 長々と話してくれていたのは、何かの準備をするためだったらしい。

 僕としては興味のない話だったのだけど、余りにも嬉しそうに語るから放置しておいた。階段に居座られてるから、無視して通りすぎることも出来ないし。


 高々と掲げられた狐の杖から、金色の光が何本も飛んだ。

 攻撃かと思って身構えたけど、そうではなかった。放たれた光は僕ではなく、陣の周囲にある甲冑たちに命中した。


「試作魔具(アーティファクト)九重舞台(くじゅうぶたい)。さあ踊るといい!」


 陶酔したような声が地下室に響く。変化はすぐに起きた。

 陣の周辺で力尽きたように崩れていた甲冑が、ふいに立ち上がったのだ。それもひとつではなく周囲すべての鎧が、金属の擦れ合う音と共に動き始める。数は合計で九体。


「素晴らしいだろう? 駆動には少し時間がかかるが、命を持たない、破壊されても人的損害の一切ない不死の兵隊だ。これが量産の暁には、帝国などあっという間に叩いてやるさ!!」

「はあ、そうですか」

「君からは高い魔力を感じる……吸血鬼か魔人か、どちらにせよ新たな実験体として加えてあげよう!」


 相手の目的なんて心底どうでもいいけど、実験に使われるのはごめんだ。養ってくれるなら喜んで。

 さすがに死体を持ったまま戦うのは難しそうなので、クズハちゃんの母親の亡骸を一度床に下ろす。

 乱暴にはせず、そっとだ。傷つけないように注意して、床へと横たえる。

 鎧の群れとの位置関係は、完全に僕が囲まれている形。鎧たちの動きは人が入っているかのように滑らかで、それぞれが剣を抜き、構えを取り始めている。


 ……中に人が入ってないなら、遠慮しなくていいですよね。


「風さん、お願いします」


 クズハちゃんの母親。その死体を巻き込まないように軽く前進しつつ、自分から見てもっとも手近な位置である右側にいた甲冑へと手を(かざ)し、魔法を使った。小規模な突風が吹き、フルプレートの鎧を吹き飛ばす。

 壁に叩きつけられた鎧は、一瞬だけ力を失ったように倒れて――それから直ぐに起き上がった。

 兜はへこんでいるし、恐らくは背部も同様だろう。それでも怯んだような様子はなく、剣を落としてもいない。

 単体の手応えはないけど、倒したという結果もない。不死の兵隊と呼ぶに相応しい存在だ。


「厄介ですね」


 正直な感想を漏らしたと同時に、残りの八体が僕に向けて殺到した。

 同士討ちすら厭わない多重攻撃。突きと斬りが半分ずつの割合で、こちらに向けられてくる。

 痛いのはお断りなので、対応は防御ではなく回避を選ぶ。

 極振りの速度に任せて、左から来た鎧の横を通りすぎた。目標を見失ったアーマー同士がぶつかりあい、甲高い音が響き渡る。

 中身が入っていれば大きな事故だろうけど、鎧たちに中の人はいない。直ぐさま持ち直して、再びこちらに向いてくる。

 そして敵は鎧だけではない。階段の方ではルーツさんが杖を掲げていた。

 肌を刺すような感覚。来る。


「雷よ、降れ!!」


 来た。杖の先から再び光が飛んだ。

 先程、鎧に打ち込んだような光の帯とは明らかに違う。もっと荒々しい、稲光と呼べるものだ。

 雷撃。さすがに見てから回避できるような速度ではない。直撃した。


「少し、ビリビリします」

「なに……!?」


 ……当たったところで、こんなものですけどね。


 これが物理的な、本物の雷なら無事では済まなかったかもしれないけど、幸いなことに相手の攻撃は魔法によるものだ。

 魔法なら耐性で十分に軽減できる。


「その、九十九里浜」

「九重舞台だよ!」

「どっちでもいいです。面倒だから、終わりにしますね」

「え……」


 相手は九体の兵士を操り、見てから避けられない速度の攻撃を飛ばしてくる。

 だったら対処は簡単だ。狙いを付けるより、相手が狙いをつけるよりも早く、相手のことを倒してしまえばいい。

 一歩目から全力で踏み込んだ。生まれ変わって、はじめての全力だ。


 ……速いですね。


 音さえも置き去りにしそうなほどの速度の中で、終わらせるために動いた。

 まずは鎧をまとめて黙らせる。すれ違い様に手を振りつつ、「お願いします」と言葉を紡げば、風が僕の言葉を聞き届けてくれる。

 下から上への上昇気流。合流を済ませた鎧を合わせて、九体を天井に吹き飛ばした。叩きつけられるのを見届けることなく、さっさと相手の元へ辿り着く。


「な……!?」

「通り道にいられると邪魔です」


 目の前で停止。あっけに取られている相手の腕を取り、足を払いながら地面に叩きつける。

 背中を打ち付け、苦悶の声を漏らす相手の口に手を突っ込んだ。

 静かにさせようというわけじゃない。そもそもさっきから鎧が壁にぶつかったり、鎧同士で激突したりで派手な音が響いている。今さら音のことは気にしなくていいだろう。衛兵が来るようならそれもまとめて吹き飛ばす。


 ただ僕は、貰ったものを返したいだけだ。


「ご馳走さまでした。お返ししますね」


 ブラッドボックスから取り出すのは、クズハちゃんが僕に出してくれた食べ物以下のもの。

 元はといえば彼が用意したものだ。貰ってきてくれたという気持ちはクズハちゃんに返すけど、物はこっちに返そう。


「も、ごっ、ごぉぉぉぉぉ!?」

「どうしました? お食事、ですよね?」


 自分が食べられないものを他人に与えるなんて、そんなことはふつうしないだろう。だからこの変なものを、彼は食べられる。僕は無理だけど。

 暴れる彼の口をこじ開けて、詰め込んでいく。僕が持っていても仕方ないから、全部きちんと返そう。

 背後では音が連続している。天井に叩きつけられた鎧が地面に落ちる音だ。無視してお返しを続けた。

 ルーツさんは最初ひどく暴れていたけど、やがて反応が薄くなり、最後には脱力する。力を失った手から杖が落ちて、乾いた音がした。


「……ふむ。まだ残ってますけど、仕方ないですか」


 死んだわけではない。ただ気絶しただけだ。残りはフードのポケットにでも入れておいてあげよう。

 背後を振り向けば、鎧はどれも動いてはいない。

 術者の意識が途切れれば動かなくなる、というのはこの手の遠隔系にはありがちな感じだから、特に驚くことでもないだろう。ようはリモコンを取り上げられたラジコンと同じだ。


 散乱したアーマーのパーツを適当に避けて、改めてクズハちゃんの母親のところへ。


「クズハちゃんが待ってます。行きましょう」


 返事はない。解っていても僕は声をかけて、彼女を抱き上げた。

 魂の抜けた女性を連れて、僕は屋敷を後にする。帰りに食糧庫の扉をどうするかが問題だったけど、ルーツさんが開けてきてくれたらしく、問題なく出ることができた。

 クズハちゃんは、まだ起きているだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ