寝てる間にお話進む
「……ん」
いつの間にか眠っていたらしい。
眠りから覚めたのは、血の臭いを感じたから。
いろんな血の臭いだ。明らかに獣臭い血の臭いもあれば、牙がムズムズするような甘い匂いもある。
様々な動物、人間――もしかすると、魔物の血も。
「……古い、臭いですね」
漂ってくる血の臭いは、あまり新鮮には感じなかった。
飛び散ってから放置されて、そのまま古くなった後。そんな風に感じる臭いだ。
もちろん古い血の臭いなんて嗅いだことはないのだけど……吸血鬼の本能的なものなのか、「古い血だ」というのには確信があった。証拠はないけど、間違いなくそうだと感じるのだ。
「起きたか、アルジェント」
「あ、ネグセオーさん」
「…………」
「どうかしましたか、ネグセオーさん。ネグセオーさん変な顔してますけど、なにか問題ありましたかネグセオーさん? ネグセオーさんってば。ねーぐーせーおーさん?」
「だ、大丈夫だ。問題ない」
ネグセオーさんが名前を呼ばれる度に複雑そうな顔でビクッとするのがちょっと面白かったけど、血の臭いが気になるからほどほどで止めた。
笑いを噛み殺しつつ草のベッドから身体を起こして、服についた埃や葉を払う。
日の傾き具合から見て、時刻は夕方ってところかな。
嗅覚に集中すれば、臭いが流れてくる方向はすぐに解った。
「……人の匂い、ですね」
古い血の臭いだけじゃない。混ざりあうように、幾人かの人間の匂いもする。
人間と、古い血。そしてオズワルドくんの話。これらをまとめて考えると、思い当たることはひとつだ。
「みつりょ――」
「――ブモォォォォォォォ!!!!」
「きゃっ」
言葉を最後まで紡ぐ前に、サイレンのような咆哮が響いてきた。
びっくりして耳を塞いでしまったけど、あれはたぶんオズワルドくんの声だ。
「森の守護者が戦っているな」
「……いえ、違いますよ」
「む……どういうことだ?」
鼻を刺激する香りがどんどん濃くなってきている。
新しい血の香りだ。それが、古い血の臭いを塗りつぶしていく。
重要なのは、その香りがひどく獣臭いこと。もっと言えば――牛臭いことだ。
「彼の方が押されてるみたいですね」
もしもオズワルドくんが優勢なら、新しい血は甘い匂い――人間の血の匂いがするはずだ。
僕の好きな匂いではなく、僕が苦手な臭いがする。
それはすなわち僕が苦手な臭いがする人、いや魔物が傷付いていると、そういうことだ。
「ネグセオーさん、ちょっと先にいきますから、ゆっくり追いかけてきてください」
「どうするつもりだ?」
「少し前、挨拶もせずにお世話になってきたところを出てきてしまったんです。……二度はないようにしたいんですよ」
脳裏に浮かぶのは、オッドアイで胸の大きな女性。フェルノートさん。
真面目な人だ。今ごろ挨拶がなかったことに怒ってるかもしれない。何時か会えたらちゃんと謝らないと。
……とりあえず、目の前のことを片付けましょう。
別れの挨拶もなく見殺しにするのは寝覚めが悪い。
寝覚めが悪いのは困る。お昼寝が気持ち良くできないから。文字通りに。
そう考えたときにはもう、僕はネグセオーさんを置いて駆け出していた。
後ろからまた「ブヒンッ!?」って声が聞こえたけど、今は僕のステータスのことを説明する暇はないから放っておくことにする。
血の臭いは濃くなる一方だ。少し、急いだ方が良さそうかな。




