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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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30/283

吸血鬼さんは追いかけっこがお好きじゃない

「ルールは覚えているな、お嬢さん」

「逃げる貴方に僕が触れば勝ち、日没まで逃げ切れば貴方の勝ち、オズワルドくんが十数えたら追いかける、ですね」


 寝癖スタイルのたてがみがチャーミングなお馬さんは、ぶふーっと鼻息を吐き出して首を軽く振った。正解、ということらしい。

 今、僕たちがいるのは湖畔(こはん)から少し離れたところ。他の動物の迷惑にならないように、移動してきたのだ。


「それじゃあ始めるっすよ!」

「何時でもどうぞ」

「よかろう」


 正直ちょっと面倒くさいなとは思うけど、これが終われば後は楽できるから我慢我慢。

 裸馬(はだかうま)に乗るのは少し危ないけど、馬の体温が直接感じられてあれはあれで気持ちが良いものだし。


「そんじゃ、始めっす!」


 オズワルドくんが丸太みたいな腕を挙げたのと同時に、相手が走り出す。さすがに馬だけあって、凄い加速だ。

 森には当然ながら木々があちこちに生えているから、直線で走ってばかりもいられない。

 それなのに彼は巧みな身のこなしで、木々の合間を殆ど減速無しで駆け抜けていく。

 自信満々に「俺より遅いやつの言うことは聞かない」なんて台詞を放ったのも納得できる、鮮やかな走りだった。


「さーん、しぃー、ごーお、ろーく……」


 小さくなっていく寝癖風のたてがみを見つめつつ、オズワルドくんが妙にかわいい声でカウントをするのを、のんびりとした気持ちで聞きながら構える。

 というか、そうやって間延びした声で数えられるとなんだか羊でも数えてるみたいで……のんびりどころか……ねむ……。


「――アルジェ姐さん寝てるんすか!? もう数え終わったっすよ!?」

「ふにゃっ」


 いけない、鼻ちょうちんまで作って完全に寝てた。

 閉じていた目を擦りつつ、のびー。はふぅ。そういえば今日はお昼寝がまだだった。眠いわけだ。


「あの、アルジェ姐さん。追いかけなくて良いんすか?」

「追いかける必要ないですからね」

「え?」

「お互いの影、繋いでありますから」


 言って指差すのは、僕の影だ。

 木漏れ日が差すことで作られた僕の影は、木々の葉っぱが揺れるのに合わせて陽炎(かげろう)のように揺らいでいる。でも、それだけじゃない。

 僕の影のちょうど頭の部分から細い影が伸びて、それが森の奥までずっと続いている。日の光によって作られたものじゃない、異常な影が。

 この影が行き着く先は、あの寝癖っぽいたてがみが素敵なお馬さんの影だ。

 これは高レベルの影化技能が使える技で、僕と他のものの影を繋ぐことができるというもの。影結び、とでも言えば良いのかな。


「影化」


 開始前から策は仕込んであった。あとは技能を行使するだけだ。

 影になった僕はリールに巻かれる釣糸のように、自動かつ高速でお馬さんの影へ。らくちん。

 この技能は身に付けている服ごと影に変われるので、いちいち服を出し入れする手間もない。


 影化の技能はレベルが上がると、今やってるように影を結ぶといったことの他にも、影の状態からでも聴覚や視覚を得たりできるようになる。

 その能力で影の中から外を覗いてみると、お馬さんは寝癖に似たたてがみを靡かせながら、森の中を庭のように駆けていた。


「ふっ……やはり追ってはこれないか」

「そうでも無いですよ」

「ブヒンッ!?」


 わ、馬っぽい悲鳴。

 そんなことを思いつつ、影の中から上半身だけを元に戻す。

 下半身は影のままなので、相手が走って動けば僕も連れていかれるように動く。傍目から見れば、影から女の子が生えてるように見えることだろう。

 こういう応用が利くのも、技能ポイントを振ってあるお陰だ。やっぱりお勧め通りにポイント配分しておいて良かった。ゆっくりと影から抜け出つつ、相手の横からお腹に触れる。


「はい、たっち」

「む、むぅ……!」

「これで僕の勝ち……で、良いですよね?」

「……二言はない」


 相手がゆっくりと歩を緩めたので、僕の方も影から完全に抜け出る。

 正直、こんなことしなくても勝てたとは思う。

 本気で走らなくても、今の僕は車くらい早く走れるからだ。

 もちろん馬だって車に負けないくらい早いだろうけど……本気を出した僕は、もっと早い。


 実力でねじ伏せても何ら問題はなかったのにこういう手を使ったのは、もちろん面倒くさいから。

 これで相手が負けを認めてくれなかったらちょっと本気出して走るつもりだったけど、めんどくさくならなくて一安心。


「それじゃ……ええと。何時までもお馬さんって言うのはちょっとあれですから、お名前つけましょうか」

「ふ……俺は負けた身だ。お嬢さんの好きに呼ぶんだな」

「じゃあネグセオーさんで」

「…………」


 凄い顔をされた。

 怒っているような呆れているような。馬ってそんな顔もできるんだなーなんて思うくらい、微妙な顔だった。


「寝癖の王様で、ネグセオー」

「……お、おう」


 自分で「好きにしろ」と言った手前、取り消せないと感じたのだろう。結構真面目なようだ。

 気に入らないならそう言ってくれれば違う名前考えるのに。黒い毛並みだから、ドイツ語で黒って意味のシュヴァルツとか、フランス語でノワールとか。


 相手の雰囲気からは気に入ってないことを感じたけど、明確に言ってこなかったので彼の名前はネグセオーになった。僕の中ではバッチリ嵌まってる名前だったから。

 自分の意見をちゃんと言うのは大切だよね。僕はお昼寝がしたいっていつでも正直に言うよ。


「はー、疲れた。お昼寝がしたいですね」


 そう、こんな感じで。

 ネグセオーさんが凄い目でこっちを見てくるけど、興味がないから放っておいた。

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