野良犬はどこかへ消えて
「……ふう」
更地になった『元』帝都で、俺は溜め息を吐いた。
あの戦いの中で、都の壁は最終兵器の一部となり、建物はすべて破壊された。
それでも、瓦礫の中には親父殿が丹精込めて作ったバカげた兵器の数々が埋まっている。それらはいつか、誰かが掘り出して使うかもしれない。
「おやぶん、いいんですかい? 売れば金になるものもあると思いますが」
「この瓦礫の山の中からお宝探しか? チワワ、俺たちは盗賊だ、炭鉱夫じゃねえぞ」
違いない、と言ってダックスが笑った。
「……あいつら、いませんね」
「決着は最後までつかなかったな」
猟犬部隊は、あの戦いの中でほとんどが捕まった。
しかし、シバとアキタ、そしてスピッツは、おそらく捕まってはいない。
親父殿が持ち出した巨大兵器によって、研究所が完全に破壊され、そのどさくさで勝負はうやむやになったのだ。
「おやぶん、傷は大丈夫ですかい?」
「心配すんな、かすり傷だよ」
戦いの中で受けた傷の治りは遅い。
別に毒を受けたというわけじゃない。それだけ、俺が衰えているということだ。
あとどれくらい息をしていられるのか。親父なら分かるのかもしれないが、どうでもいいことだ。
たとえいつくたばっても悔いが残らないように、俺はこうして生きているのだから。
「おら、辛気臭い顔すんな。あいつらだって、自分でなんとかするだろうさ」
「……そうですね」
「さて、行くとするか」
「もうですか、おやぶん」
「人生は短いんだ。動けるうちは動きたいんだよ、俺はな」
俺たちの命は短い。
その短い命をどう使うのかは、きっと俺たちが決めるべきだ。
そして俺は、飼われて生きることを良しとしなかった。
「お前らはどうする?」
「もちろん」
「ついていきますよ、おやぶん」
後ろのふたりも、自分で俺についてくることを選んだ。
だから俺たちは、こうして生きる。
誰かからの庇護はなく、明日もしれないその日暮らしで、泥にまみれて、それでも。
この生き方に、後悔は一欠片もねえ。
「……ま、あいつみたいに放っておけば永遠に生きるってのも、夢があるがな」
「なにか言いましたか、おやぶん?」
「なんでもねえよ。行くぞ、お前ら」
頭の中に浮かんだ痴女の存在を、首を振って追い払う。
あいつに関わるとロクなことがない。ついついらしくもなく、昔を思い出してしまったりもするし、この間は助けられた恩があるとはいえ、お節介まで焼いてしまった。
「……もう会うこともねえだろうさ」
正確には、会いたくもないわけだが。
あの痴女は今頃、森の奥で隠居暮らしだ。宝もないところに住んでいるのだから、もう顔を合わすことは無いだろう。あったとしても今度こそ知らないふりをしよう。
「さて、今度はどこで、お宝を探すかねえ」
「寿命を伸ばす宝の噂とか、どっかにありませんかね」
「ははっ、そいつは夢がある。いいぞ、ひとまずはそれで行くか」
そんなものがあるのかどうかは分からないが、探す価値はあるかもしれない。
そしてそんなものが見つからなくても、俺たちは構わないとさえ思っている。
先のことなどなにも分からず、誰かに助けてもらえる訳でもない人生。
ああ、最高じゃないか。少なくとも、誰かに決められた生き方をするよりは、ずっといい。
「……好きに生きて、好きに死ぬとしようじゃねえか」
猟犬ではなく、野良犬のように。
選んだ道を、俺たちは歩き出した。




