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未来へ行くものたち

「ははは……」


 自分のもたらした成果に、乾いた笑いがこぼれた。

 王国と共和国の海軍に、さらに海魔の軍勢。しかも諸経費はすべてシリル大金庫持ちという大舞台は、とんとん拍子で用意された。

 これもすべて、アルジェさんという共通の助けるべき存在がいたからだろう。

 あまりにも規模が大きくなり、帝国海軍を余裕で倒してしまった時は「ちょっと過剰かな?」とか思っていたくらいだ。

 実際に来てみれば帝都の戦力は見ての通りとんでもないものだったので、結果的には良かったと言える。


「うわぁ、なんだいあれ、鉄でできたゴーレムの類かな? いやぁバッカでかいなぁ! あんなの来たら一溜りもないね! こっちから打って出て正解だったなぁ!」

「あ、アキサメ様、面白いのは分かりましたから下がってください! 危ないですから!」

「ふむ……帝国め、あのような兵器まで用意しているとは。王国も、あれに対抗してなにか大きな大砲でも作ってみるか、サマカーよ」

「はっ。戦が終われば無用の長物ですが、備えとしては面白いかもしれませんね」

「あれと比べると小さいが、ゴーレムみたいなやつの兵隊もたくさんおるぞ! まーた面白そうな土産話が増えそうだのう!」

「うわーこの人たちノリがゆるーい……」


 本当に戦争をしに来たのかという感じだけど、逆に言えばこの状況でそこまで落ち着いていられるから国を動かせるのだろうか。

 この最前線でむしろ嬉々としている各国の重鎮の皆さんを見て、俺はやや大きめに溜め息を吐いた。


 ……まとめるの苦労したなぁ!


 三国同盟自体は簡単に結べたのだけど、この人たちが終始この調子なのでやたらと会議が脱線したりして大変だった。


「オマケに、なんで君たちまで来てるのかな?」


 ちらりと見た先には、商業ギルドの仲間たち。

 俺は特例でこの戦争の一件に関してのみ、ギルド長から国と関わることを許されたけど、ほかの人たちは違う。

 みんな一銭にもならないのにわざわざこの船に乗りに来た、物好き連中だ。


「水臭いこと言うなよ、ゼノ」

「そうそう、帝国は商業ギルドにも恭順か滅亡を迫ってきてるんだ」

「こういう時は、さすがに一致団結しないとな。うんうん、金より大事なもの、それは俺たちの絆だ」

「……本音は?」

「「「通貨制度変えられたらこっちは破産だろふざけんな」」」

「だと思ったよ!!」


 自分に正直なので疑わなくていい、という所はメリットかもしれない。

 馬鹿な上に金の亡者だけど、とりあえず今は味方だ。今度会ったら商売敵だけど。


「まあまあ良いじゃないか、ゼノくん。私が用意したこれも、役に立つというものさ」

「イグジスタさん……」


 こんこんと傍の鉄の塊を叩いて、赤髪の精霊が笑う。

 自称、アルジェさんの姉である大金庫の主は、傍にいるアルジェさんによく似た子の頭を撫でて、


「君たちの商人魔法によって取り出したエネルギーを砲撃にする機構を搭載した、そう、言うなれば『魔砲』としての機構を備えた大砲だ。向こうのあの山みたいに大きなゴーレムほどじゃないが、一応今の私に出来る精一杯の技術の結晶だね」

「ありがとうございます」


 商人魔法はシリル硬貨に施された偽造防止の魔法を魔力に変えるもので、つまりお金はかかるけれど、これで俺でもアルジェさんの援護ができるということだ。

 なにより、経費は大金庫持ちなのだ。遠慮をすることは無い。


「さあみんな、未来を買おうじゃないか。いつも溜め込んでるんだろ、たまには湯水みたいに使おう」

「ああ、どうせ後で大金庫が補填してくれるしな!」

「俺、一回でいいからこういう豪勢な金の使い方してみたかったんだよな」


 楽しそうでなによりだ。

 空を見れば、空を飛ぶ黒い鎧のような何かが飛行船を次々と撃墜してくれているが、あれは味方なのだろう。

 時折、雷みたいなのが飛んでいるのは、リシェルさんの弓か。


「さて、と。私たちはそろそろ行こうかな」

「……確認しますけど、大丈夫なんですか?」

「うん? ああ、大丈夫だよ。それ専用のものも用意したし、そんなに危険はないさ。それに、シャーリィも行く気満々だしね」

「……アルジェお姉ちゃんに、会いたいから」

「……そこまで言うなら止めはしませんけど」


 提案を聞いた時は正直この人たち頭おかしいんじゃないかと思ったけど、大真面目なのだからどうしようもない。 

 アルジェさんもこういう無茶なところがあるので、やはり同じ人の魔力から生み出されている姉妹なので、考えることが似るということだろうか。


「そんな顔をしなくても、きちんと可愛い妹を守ってくるさ。連れも頼もしいしね?」

「うっす! 任せるっすよ!」


 連れ、と呼ばれて、元気よく返事をするものがあった。

 見上げる姿は大きく、確かに味方であれば頼りがいがあると言えなくもない。

 まさかこんなものまでアルジェさんは知り合いだとは思わなかった。


「それに俺も、実はアルジェ姐さんと一回やった経験あるっすよ。なので感覚は分かるっす!」

「……そこまで言うなら、任せます」


 前線に出たいのは山々だけど、それでは迷惑になるのは分かっている。

 出過ぎた真似はしない。ここが俺の戦場だ。

 そして今、自分たちの戦場に向かおうとしている人たちがいる。

 彼女たちを送り届けるために、俺は準備をすることにした。


「……アルジェさん」


 きっと、あの人も戦っているのだろう。

 初めて会った時にはこんなに長くて深い付き合いになるなんて思ってもみなかったけれど。

 彼女のためになにかすることは、正直心地がいい。


「約束は守りましたよ」


 遥か遠く、今は届かない相手に向けて、俺は小さく呟いた。

 きっと、彼女とまた会えると信じて。


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