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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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野良犬のように

 ……まったく、どういうことだ。


 俺たちは泣く子も黙るテリア盗賊団。そう決めて、一度国を捨てた。

 そのはずの俺たちが、今ここにこうして立っている。


「芸人さんたち、どうやってここに……というか、どうしてここに?」

「誰が芸人だボケ、殺すぞ」


 オマケに後ろからゴリゴリやる気を削ぎに来る痴女がいるんだから堪らない。正直、今すぐさっさと帰りたい。

 怒鳴りそうになる自分を落ち着けて、俺は努めて冷静に言葉を作る。


「……俺もひとつしか知らねえが、いくつか抜け道があんだよ、この都市には。閉められようが、そこからは出入りができる。つうかそうでなくきゃ、有事の際に重要人物が逃げられねえだろうが。……まさか、まだ使えるとは思ってなかったがな」


 俺たちが侵入のために通ってきた道は、俺たちがこの国を出るときに使った物と全く同じだった。

 さすがにそのままにされているとは思わなかったので拍子抜けしたが、つまり親父にとって俺たちの脱走はどうでもいいということだろう。舐められてるのは腹が立つが、そのお陰でここまで来ることができた。


「良いか、先に言っておくぞ、痴女。俺たちはお前のために来たんじゃねえ」

「クズハちゃん、あれがツンデレという芸です。嫌よ嫌よも好きのうちみたいな感じですね」

「なるほど、つんでれ、奥が深いですの……!!」

「「「子供に変なこと教えてるんじゃねえ!!!」」」

「もの凄い保護者感のあるツッコミが、面倒見の良さを隠しきれてない……!」

「「「黙ってろ痴女ぉ!!」」」


 三人で怒鳴ってようやく黙ったので、俺は一度大きく溜め息を吐いて、


「帝国が調子こいてて気にくわねえから殴りに来た、そんだけだ」

「おう。だからお前らはとっとと行っちまえ」

「俺たちはあくまで帝国を狙ってんだからな!」

「テリアちゃん、ダックスちゃん、チワワちゃん……」

「ちゃん付けやめろ。……俺たちは泣く子も黙る盗賊団。だから奪いに来てやったのさ。繁栄ってお宝をな」

「……それ、何時間くらい考えた決めゼリフです?」

「お前いっぺん痛い目見た方がいいんじゃねえのか!?」


 人がここに来るまでの間、どれだけ考えたと思ってるんだコイツ。

 考えてみれば、本当に失礼な奴だ。いくら違うと言っても俺らを芸人扱いするし、怖がるような素振りもなければ、かといって邪険にするかと思えばそうでもなく、どこか好意的に扱ってくる。

 やりづらいものを感じながら、俺は舌打ちした。


「チッ。良いからさっさと行っちまえ」

「……本当に、良いんですか?」

「ここは帝国の武器庫だぞ。つまりお宝があるってことだ」

「俺たちは俺たちの仕事をしに来ただけだ、いちいち気にすんじゃねえよ、爆弾の巻き添えにすんぞ」

「そうだそうだ、宝と一緒に売り飛ばされねえうちに消えな」


 ここまで言われて、ようやく納得したらしい。

 痴女は小さく頷くと、こちらをまっすぐに見て、


「……危なくなったら、ちゃんと逃げてくださいね?」

「誰に言ってんだ。盗賊が逃げ足に自信が無いわけねえだろ」

「……ありがとうございます、芸人さんたち」


 否定してやろうと思ったが、既に相手は背中を向けている。

 その背中に向いて飛んできた弓矢を、俺は振り向きざまにナイフを抜いて叩き落とした。


「……さすが、猟犬部隊元隊長どの。今のは眼鏡がずり落ちる、会心の一矢だったんですけどねえ」

「ケッ。相変わらず、言い口とは真逆に狙いは素直なやつだ」

「テリア隊長……」

「シバ、今はお前が隊長か」


 呼んでやると、相手は身を低くして、刃を構えた。


「何故……何故、今更になってお戻りになったのです」

「言っただろうが。親父が気にくわねえ。だからぶっ壊しに来た」

「俺たちは親父殿に造られた! その俺たちが、牙を剥いてどうする!?」

「そうだな。だが、俺たちは親父じゃない」


 きっと、俺が言うことが分からないのだろう。聞こえていないのではなく、理解ができないという意味で。

 不理解と敵意、そして武器を向けてくる相手に向けて、俺たちもゆっくりと構える。


「シバ、アキタ、スピッツ。お前らは……俺たちの寿命を知っているか?」

「寿命……?」

「ああ。俺たちは生まれて、まだ『ほんの五年』だ。それがこんなにも老け込んでて、おかしいと思わねえのか?」

「それは……」

「聞くな、アキタ、スピッツ!! 惑わせる気だ!!」

「……ああ。そうだな。俺たちはお前らを惑わせてるんだろうさ」


 きっと、知らなくても良いことなのだ。

 家畜が自らの運命を知らないのと同じように。

 人間が自らの死期を知らないのと同じように。

 俺たちだって、知らなくても良いことなのだ。


「……早いか遅いかの違いだ」


 たったそれだけのことだ。

 俺たちはきっと、ふつうの人間よりも早く死ぬ。それこそ、犬のように早く年を取る。

 そういうふうに造られた。そういうふうに生み出された。

 だから俺たちはそういう生き物だ。好きでそう生まれてきたわけじゃない。親父に、クロガネ・クオンに早死にすると決められて、そう生まれてきただけのこと。


「だが、生き方は自分で選んだって良いだろう」


 俺たちは、ふつうの人間よりもずっと短い命なのだろう。だが、そんなものはどこにでも居る。

 ほんの一月で死ぬ虫も、生まれることなく死ぬ赤子も、百年足らずで死ぬ人間も、何百年と生きる吸血鬼も。

 この世界には大勢生きて、死んでいる。俺たちも同じ、生きて、死ぬだけのものだ。


「俺たちは、飼い犬じゃねえ。野良犬のように生きる。好きで泥にまみれて生きて、好きにのたれ死ぬ!」

「それが……その考えが、俺たちを捨てやがったんだろうが! この……裏切り者がぁぁぁ!!」


 ああ、そうだ。お前の言うとおりだ。

 俺たちは裏切り者だ。父親の期待に応えず、好き勝手に生きて、今また勝手に戻ってきて、滅茶苦茶にしてやろうとしている、くそったれの不良どもだ。

 好きに生きるというなら親父の元にいるという選択もできたのに、そうせずにこの道を選んだのだ。

 正しいとか間違っているとかではなく、俺たちはこの道を選び、あいつらはあの道を行った。それだけの話だ。


「……行くぞ、ダックス、チワワ」

「へい、おやぶん!」

「どこまでもついてきます、おやぶん!」

「おう、それじゃあ……一発、良い子の弟どもに家庭内暴力といくかぁ!!」


 どちらが正しいか、などと面倒くさいことは言わず、俺たちは前に出た。

 過去のなにもかもを、今度こそ終わらせるために。

 猟犬などではなく、野良犬として生きて、死ぬために。



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