負けず嫌いどもの騒ぎ場
お風呂から上がった僕たちは、訓練場へと案内された。
訓練場は屋外であり、魔法などによる被害を想定してか、遮蔽物などはあまり置かれていなかった。
「……なんか、妙に盛り上がってません?」
「みんな娯楽が好きですし、ギンカさんが戦うってだけで、士気が上がりますから」
なるほど。つまりこの熱気は、反乱軍のリーダーが慕われている証でもあるということか。
「それじゃ、私はギンカさんの方に行きますね〜」
ふわりと浮かび上がり、シオンさんはギンカさんの傍らへと移動する。
当然のように、お姫様抱っこだった。
「……それで、ルールはどうするの? 力を見せると言っても……模擬戦よね?」
「そのつもりだ。私は武門の家の出でね。個人的にも、オッドアイの聖騎士の実力に興味がある」
「聖騎士なのは元よ、元。あまり期待しないでくれると助かるわ。こっちも、ミヤマという家のことは知っているつもりだから」
どうやらお互いに、面識はなくても知っている間柄らしい。
ギンカさんはちらりとこちらを見て、言葉を紡いだ。
「そちらの子たちはどうする?」
「私とあなただけでいいでしょう?」
フェルノートさんの言葉からは、暗に僕たちは戦うな、という意思が見て取れた。
年若いこちらのことを、気遣ってくれているのだろう。
「ふむ……」
言われたギンカさんは少しの間考える仕草をして、そこにシオンさんが耳打ちをした。
銀の髪を揺らして頷き、ギンカさんは改めて口を開く。
「……私たちはふたりで戦うから、そこのアルラウネの女性も交えたいのだが」
「……だ、そうよ。アオバ、いいかしら?」
「ええ、構いませんよ。私の方も、ちょっと運動のひとつでもしたいところでしたから」
フェルノートさんの要請に気軽な調子で応えて、青葉さんが前に出る。
ご指名がかからなかったので、僕の方はのんびりさせてもらおう。
「死なない程度の怪我でお願いしますね。それなら治せますから」
「ええ。というか、アルジェがいなかったら断ってるわよ。大事の前に、大怪我できないでしょ」
さすがはフェルノートさん、大人らしい冷静な意見だった。
「じゃ、僕は寝てますから終わったら起こしてくださいね」
「なにかあったら困るからさすがにちょっと見てなさいよ」
「うう、面倒くさ……」
こういう展開はあまり興味が無いというか、正直にいえば向いていないと思う。
先ほどの会話で、結局は反乱軍と協力ができそうなことは分かっているのだし、適当でもいいと思うのだけど。
「殺しは無しだけど、手抜きも無しよ、アオバ」
「もちろんです。相性もいいと思いますしね」
確かに青葉さんの言う通り、ふたりの相性は悪くないのだろう。
ツタや魔花で支援力の高いアルラウネと、攻撃力の高い『元』聖騎士であるフェルノートさん。
急場のコンビだけど、僕から見ても戦闘はやりやすそうなふたりだ。
「武器はどうするの? 木剣にでもする?」
「真剣で構わない。こちらも殺さないだけで、本気だ。……シオン」
「はい。ギンカさん」
名前を呼ばれて、シオンさんはギンカさんへと寄り添う。
真っ白な肌の人工精霊と、褐色のハーフエルフ。
鮮かなコントラストのふたりは、まるで産まれたときからそうであったかのように、ごく自然な動作で両の手を繋いだ。
「「接続」」
ふたりの声が同時に響き、空へと通る。
瞬間、莫大な量の光が発生して、周囲を飲み込んだ。
「っ……!」
眩しさに目を細めたのは一瞬。
それだけの時間で、彼女たちはその姿を変えていた。
硬く黒く、そして鋭く。全身を覆う甲冑じみた姿は、甲殻類や、虫のようにも見えた。
銀が解けるようにして、たてがみのような光が頭部を彩る。
ひいん、と高い音を立てて、頭部に金の光が灯った。
「強化服……!?」
まるで特撮のヒーローのように、あるいは、SFのロボットのように。
ハーフエルフと人工精霊のふたりは、ひとつの姿へと変身していた。
ふわりと肩に浮かび上がったのは、SDサイズにデフォルメされた、手のひらサイズのシオンさん。
「……ユグドラシル級の黒龍の遺骸を材料として生み出された魔具にやどった人工精霊。それが私です。この形態は、ミニシオンとお呼びくださいね」
「この鎧の銘は『黒曜』。そしてその力は……これから見せよう」
「「さあ、越えられるなら、越えてみるといい!!」」
ふたりで戦う。
それは文字通り、彼女たちふたりが、ひとつの存在になるということだったのだ。
ひとつの存在となったふたりの姿に、周囲からは歓声があがる。
「……単純に、戦闘力と言うだけではなさそうですね」
「かっこいいですのね!」
クズハちゃんがテンションをあげているように、あの姿はかなり目を引く。
彼女たちがああしてひとつになった姿は、反乱軍にとって、希望の象徴ということだろう。
……機械と命の、融合ですか。
魔具というこの世界の技術も混ぜ合わせて、玖音の人間が造り出した兵器。あちこちに機械らしきパーツが見られるのは、そこに僕たちの世界の技術が応用として使われているということだろう。
雰囲気としては完全にアウェイとなった場内で、フェルノートさんは剣を抜き、青葉さんは構える。
「……行けるわね、アオバ」
「出どころを考えるとしんどそうですが、援護はお任せ下さい」
緊張感が空気に溶け込み、誰もが息を呑む。
「ふっ……!」
開始の合図はなく、ただフェルノートさんが踏み込んだ。




