意外と快適
意外なほどあっさりと、ギンカさんたちは反乱軍の隠れ家に案内してくれた。
もちろんそれは、アキサメさんやサツキさんが事前に話を通してくれて、フェルノートさんという元王国騎士の存在があったからこそなのだろうけど。
町からそう離れていない距離に、反乱軍の拠点はあった。
山陰に隠れるようにして造られた拠点は魔法による結界で守られていて、反乱軍のメンバー以外には発見できないようになっているらしい。
「意外と活気があるんですね」
街を出て、馬車に乗って、ギンカさんたちに案内されて拠点に入り、まずこぼれた感想はそれだった。
行き交う人々は活気があり、それぞれが忙しくはあるけれど、楽しそうにしている。
先程立ち寄った町の活気に負けないほど、反乱軍はいきいきとしたムードだった。
「明日をもしれないからといって、笑ってはいけないなんてことはないからな」
「はい。それは大事なことですからね。人らしくある、というのが、ギンカさんの……私たち反乱軍の基本方針です」
「……正直、それはとても好感が持てます。さっきの路地裏より、よほどいいですよ」
青葉さんがどこか安堵したように吐息する。
クズハちゃんは興味深いらしく、きょろきょろとあちこちを見渡しては、狐色の尻尾をパタパタさせている。
リシェルさんがそわそわしているのは、半分とはいえ同族のギンカさんがいるからだろうか。
クロムちゃんはずっとこちらを睨みつけてくるけれど、これは前回の印象が悪いので仕方ないか。そもそも前の件にしても、向こうが突っかかってきたのだけど。
「とりあえず、風呂にでも入りながら話そうか」
「お風呂があるんですの!?」
「ああ。偶然見つけた天然のものだ。お陰で、軍の士気向上に役立っている」
「みんな好きなんですよね〜。クロムちゃんも入ります?」
「……ボクはいいよぉ。勝手にしててぇ」
シオンさんの誘いに、ぷい、とそっぽを向いて、クロムちゃんは離れていってしまった。
……嫌われてますねー。
初めてであったとき、クロムちゃんよりも速く動いて、彼女をねじ伏せたことがある。
なによりも速さというものを重んじていた彼女にとって、それは屈辱以外のなにものでもなかったらしい。
「アルジェさん、早く行きましょう!」
「あ、はい。分かりました、クズハちゃん」
温泉好きのクズハちゃんに呼ばれて、僕は言葉を返す。
また後で話せる機会があるといいのだけど、難しいだろうか。
ギンカさんの案内に従って、僕たちは温泉の方面へと歩いていく。
連れてこられた温泉は、硫黄のつんとする匂いがした。
「ふわぁ……広いですのね!」
「きちんと男女は分けてあるので、安心して入るといい」
「それじゃ、お言葉に甘えようかしら」
僕の回復魔法で定期的に身綺麗にしているとはいえ、お風呂の気持ちよさはまた別のことだ。
ウキウキとした様子で脱ぎはじめるみんなをなるべく見ないようにしつつ、僕も衣服を外す。そうしていると、妙に視線を感じることに気付いた。
「……? どうしたんですか、みんな。じっと見て」
「あ、いえ、なんでもありませんわ。どうぞ続けてくださいですの」
「ええ、ほらアルジェさん、あと一枚ですよ!」
「……み、見てもなにも面白いことはないと思いますけど」
どういう訳か、みんながこっちを見ている。
僕の裸なんて見ても面白くと思うのだけど。
そもそも、そんなに食い入るように見つめられると恥ずかしい。みんな前からこんなふうに見てたっけ。
「ふむ……綺麗だね、アルジェ」
「ふ、え……!?」
綺麗だ、と言われて、頬の温度が上がるのがわかった。
僕の姿が転生を経て、絶世の美少女と呼べるくらいの見目だというのはわかっている。わかっているけれど、それを今、正面から投げかけられたということに、体温が上がった。
「あ、ダメですよギンカさん。浮気ですか?」
「心配しなくても、シオンが一番綺麗だよ。なにせ、私のお姫様なんだから」
「えへへ、ギンカさん大好き〜♪」
言いたいことを言うだけ言って、ギンカさんはシオンさんとともに、温泉へと入ってしまう。
なんとなく居心地が悪い静寂が訪れてしまい、僕はみんなも同じように服を脱いでいるのことも忘れて、
「……あ、あんまり、じっと見ないでください。は、はやくお風呂、入りましょう?」
「「「かわ……!!」」」
どういうわけか、みんなが顔を抑えてうずくまった。
意味が分からなかったけど、結果として視線が外れたので構わないので、僕は逃げるようにして湯船へとつからせてもらうことにした。




