久しぶりの再会
予想通りというかなんというか、砦の中はひどい惨状になった。
なにせ洗脳から解放された上に、目覚めたら大混乱なのだ。不理解のままで一方的に攻撃され、しかも周囲の誰が敵なのかも不明瞭だ。
こんな状況では反撃もなにもない。ただ一方的な無力化が、砦の中で起きていた。
「殺さないって言うのはね、むしろ難易度が高いのよ。特にこういう制圧戦では……ねっ」
「それだけの状況と、力量差ってことですね……ブラッドアームズ、『鎖』」
軽い調子で剣を振るうフェルノートさんの隣で、吸血鬼の能力によって盗賊たちを縛り上げながら、僕はのんびりと砦の中を歩く。
「ま、これくらいはできないとね。どうせ帝国に喧嘩を売ることになるんでしょうし」
「懐までいければ、逆に安全だとおもいますけどね……少なくとも、大軍を相手にするんじゃなくて、精鋭と戦うことになるとは思いますが」
「そうね。帝国は長く、皇帝の独裁で……各地に反抗軍もいることだし、混乱に乗じて、っていうのは不可能じゃ無いと思うわ」
乱戦の中で今後の予定を話しつつ、僕たちは砦の占拠にかかっていた。
……正直、かなり余裕がありますね。
分かっていたことだけど、最近はちょっと戦闘がハードだったので忘れかけていた。
僕も相当にチートな能力を持っているけれど、僕の旅の道連れも全員、戦力としては桁外れなのだ。
「さて、と……テリアちゃんは……」
「アルジェさん、こっちから嗅ぎ覚えがある匂いがしますわ!」
「ありがとうございます、クズハちゃん」
獣人の彼女の鼻は、吸血鬼である僕以上に信頼できる。
クズハちゃんの導きに従って、適当に盗賊たちの相手をしながら、僕たちはやがて地下の方へと降りていくことになった。
「それにしても……待っていろと言われたんではないんですか?」
「さすがにこんな状況になったら、俺らの顔なんて気にされねえだろ」
青葉さんの質問に、チワワちゃんがぶっきらぼうに答える。
結局テリア盗賊団のふたりは僕らについてきていた。戦力としては充分に足りているのでほとんど見学だけど、彼らにとってテリアちゃんは大事な親分だ。待っていろ、というのが無理な話だろう。
「地下もあるんですね、この砦」
「籠城とか、捕虜を捕まえておくためのものでしょうね。上も広かったし、まだ共和国が統一されてないころはかなり大きな規模の砦だったんでしょう」
ゆらゆらとランプの光に照らされた階段は古い雰囲気で、人工の明るさとは対照的だった。
足下に注意しながら降りていくと、やがて暗闇が僕らを歓迎する。
階段を降りた先には明かりが無く、真っ暗闇だったのだ。
「……僕は見えますけど」
「さすがに暗いわね。ライト」
フェルノートさんの言葉と共に、彼女の指先に小さな輝きが灯る。
やがて光は指先を離れ、輝く雪のようにふわふわと空中を漂い、道を照らしだした。
「あ……」
ひ、という音に似た感触が、耳を叩いた。
それは反響する声であり、女性の悲鳴のように聞こえた。
「なにか聞こえましたね。行きましょう」
「匂いもそっちからですわね!」
クズハちゃんの鼻も同じ方向に反応しているのなら、それが当たりだろう。
陰からの襲撃を警戒しながらも、急ぎで走り抜ければ、目的の相手が居た。
「テリアちゃん!」
「あぁ!? 誰がちゃん付けで呼んで良いっつった! 犯すぞこの痴女がぁ!!」
「うわ、なんか予想通りの返しで安心しました」
テリアちゃんは女性をひとり組み敷いたままで、それでもこちらに牙を見せて獰猛に吠える。
恐らくは組み敷かれている相手が、ダックスちゃんとチワワちゃんのいう盗賊団のリーダーなのだろう。
盗賊、と言うには豪華すぎる、まるでダンスパーティーにでも出るようなドレス姿は、地下室の暗闇にあってなお眩しいけれど、どこかアンバランスだった。
「むぐ、むぐぐぐぐぅ!」
「あぁ? うるせえな、首折るぞ!」
「う、ぐ……」
なにか言いたいことがあるらしく、ドレスの女性は口を抑えられたままでくぐもった声をあげるけれど、テリアちゃんがひと睨みすると素直に黙った。
「無事だったんですのね、芸人さん!」
「誰が芸人だコラァ!! いい加減その勘違い止めろ!!」
「まあまあテリアちゃん、落ち着いてください」
「元凶が言うかぁ!!」
その通り過ぎるので、返しに困った。




