ひとり足りない
「というわけで、彼らは旅の芸人です」
「「誰が芸人だコラァアアアアア!!」」
「……私には、指名手配中の盗賊団に見えるのだけど」
「あ、ダックスちゃんチワワちゃん、そこの人はフェルノートさんといって、元王国騎士だそうです」
「「芸人で良いです」」
もの凄い勢いで手のひらが返された。
「……ふたりとも、なんか僕の時とは反応が違いません?」
「バッカお前、フェルノートっていったら王国で最強とか呼ばれてた半分人間辞めてる騎士だぞ!」
「そうだぞ、光の剣で山をひとつ消し飛ばしたとか、ドラゴンの群れをひとりで討伐したとか、おやぶんがいない俺たちが刃向かえる相手じゃねえんだぞ!」
「あの、昔のことを言うのはやめてもらえるかしら……恥ずかしいのだけど……?」
否定しないあたり、本当にあったことなのだろう。やっぱりフェルノートさん、実は相当に有名人のようだ。
フェルノートさんは二色の瞳を歪めて渋い顔をしつつも、とりあえず僕の知り合いということで、追求はしないでいてくれた。
……さて、どうしたものでしょうか。
テリア盗賊団とはいろいろあった。
はじめは偶然にそういう名前なのだと思っていたけれど、もしかすると違うかもしれない。
聞いてみるべきかとも思うけれど、今、彼らはふたりしかいない。親分であるテリアちゃんが欠けているのだ。
「ところでふたりとも、テリアちゃんはどこに行ったんです?」
「ふん、誰がお前になんぞ教えるか!」
「芸人さん、お久しぶりですのね! お腹がすいているのではありませんの? ご飯、食べますの?」
「うぐ……」
クズハちゃんの無邪気オーラにやりづらいものを感じたのか、チワワちゃんが渋い顔をした。
青葉さんとリシェルさんは初見のこともあり、やや遠巻きにふたりを眺めている。
「アルジェさん。本当に知り合いなんですか?」
「ええ、まあ……この世界に生まれて、初めて出会った人たちですから」
「ああ、なるほど……さてはなにかしましたね?」
微妙な顔をして青葉さんが僕を見るけれど、特に覚えがなかったのでなにも言わなかった。
改めてふたりを見れば、やはりこちらへの警戒は緩めていないようで、部屋の隅で固まって、僕の方へと強い視線を送ってきている。
怪我の治療は素直にさせてくれたけど、それ以上に素直になるにはもう少し言葉と、時間が必要そうに見える。
「まあまあ、過去のことは水に流して仲良くしましょう」
「お前、どの口で……!」
「クズハちゃんのいうとおり、お腹がすいてるんでしょう? ご飯にしますから、ゆっくり話を聞かせてください」
なるべく笑顔を作り、落ち着いた声でふたりを促す。
いくらいろいろあった間柄とはいえ、リーダーを欠いて明らかに気落ちしているふたりをいじる気にはなれない。
「……どうする、ダックス?」
「どうするっつったってな……」
「おかしら怒るかな……」
「まあ怒るだろうが、今よりはマシじゃないか……?」
どうやら、ふたりの中でなにか納得があったらしい。
チワワちゃんとダックスちゃんはこちらを見て、二人同時に頭を下げた。
「恥を承知で頼む」
「おかしらを、助けてくれ」
「……とりあえず、ご飯にしましょうか」
どうやら僕が思った以上に、テリア盗賊団は面倒なことになっているらしい。




