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予定外はつきもの

「おお……道が荒れてますね」


 お尻が突き上げられる感覚が不規則にやってきて、僕はそんな感想をこぼした。

 馬車の外に顔を出すと、フェルノートさんが馬の手綱を握りながらこちらにちらりと視線を投げて、


「戦争の影響で、街道も荒れてるみたいね」


 帝国と呼ばれる大国家が行った、全世界への宣戦布告。それによって今、あちこちで争いが起きている。

 その帝国に、僕と青葉さん以外の玖音家からの転生者がいるかもしれないのだ。

 

「まあ、もう国境も何も無いから、帝国に行くこと自体はそこそこスムーズに行くんじゃないかしら……」

「…………」

「アルジェ? どうしたの?」

「え……ああ、いえ。なんでもありません」


 心配そうな顔を向けてくるフェルノートさんに、僕は曖昧な言葉を返した。

 思うことはひとつ。過去に生きた世界。玖音 銀士と呼ばれていた頃のこと。


「……玖音、か」


 玖音の家は、優秀ではないものを認めない家だった。

 転生の条件は、『元いた世界と魂の質が合っていない』こと。

 僕はそもそも玖音の求める条件を満たしておらず、青葉さんも能力的には認められていたものの、本人が玖音の家に強い不快感を持っていたらしい。


 ……でも、あの人は違うように見えました。


 クロガネ、と名乗った彼のことを、改めて思い出す。

 あれは混じりっけのない、本当に玖音の家の人間『らしい』人間だ。

 自らの優秀さを示し、価値を誇り、定める。それは正しく、僕がいた世界の、あの家の(ことわり)だった。

 青葉さん以上に、彼が転生する理由が分からない。そして同時に、別の世界にきてまでなぜその生き方を続けるのかも不明だ。


「ひゃっ……」


 思いっきり揺れがきたことで、思考が中断された。

 何事かと思って見てみると、フェルノートさんが手綱を引いて、馬を止めたところだった。


「フェルノートさん? どうしたんです?」

「……人が倒れてる」


 言うが早いか、フェルノートさんは馬車を飛び降りてしまう。

 彼女が足を向ける先には、確かに人らしきものがふたり、道ばたに倒れていた。


「アルジェさん、どうかしたんですの?」

「よく分からないけど、なにかあったみたいですね」


 顔を出したクズハちゃんと共に、僕も馬車から降りて、そちらへ向かう。

 なにがあったのかは知らないけれど、怪我かなにかしているのなら僕の担当だ。簡単な怪我を治すくらいならフェルノートさんにもできるけど、傷が深かったり、強い毒や病気なら、僕の回復魔法の出番になる。


「……アルジェさん。私この匂い、覚えがありますわ」

「へ?」


 隣に並んで走るクズハちゃんがそんなことを言って、僕も嗅覚に集中した。

 母親とふたり暮らしをしていた彼女にとって、僕以外の知り合いは概ね、僕と出会ってからできたものになる。

 つまりクズハちゃんの知り合いであれば、ほとんどが僕にとっても知り合いだ。


「……あ」


 記憶の中に引っかかった人物を確かめるべく、僕は速度を上げる。クズハちゃんも同じように加速する。

 近くまで行くと、フェルノートさんがこちらに振り返って、


「アルジェ。すぐに死ぬようなものじゃないけど、ふたりとも傷が深いの。手伝ってくれるかしら」

「……ええ、分かりました。知り合いですしね。助けます」

「え?」


 意識を失っているふたりの顔には、確かに見覚えがあった。


「……そのふたりは、知り合いの芸人です」

「ベテランですのよ!」

「え、あ、そ、そう……?」


 ダックスちゃんとチワワちゃん。

 小型犬と同じ名前を持ったふたりを見て、僕はなんとなく、面倒の予感を察していた。

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