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まどろみをきみと

「ん……」


 意識はゆるく、水の上を浮かぶようだった。

 夢を見ているのではない。半分くらいは意識がある、いわばまどろみの状態だ。


「んにゅ……♪」


 この時間は、結構好きだったりする。

 ふわふわとした意識は雲の上に寝転がっているようで気持ちいいし、なにより眠りの気持ちよさをぼんやりと自覚できるのがいい。

 もう少し、もう少しと思いながらベッドに身を埋めるのは、とても贅沢な時間の使い方だと思う。


「えへへ……あと三十時間……」

「それはちょっと寝すぎだと思いますが」


 自分以外の声がしたので薄目を開けてみると、見知った顔があった。

 緑色の肌をしたアルラウネの女性は、前世からの知り合いである青葉さんだった。

 お互いに姿は変わってしまったけれど、纏っている雰囲気や作る表情はやはり、僕がよく知っている青葉さんのものだ。

 いつかのように少し呆れた顔で、彼女は僕の顔を覗き込んでくる。


「……こうして見ると、やっぱり銀士さんですね。物凄く気持ち良さそうな顔してますし」

「そうですねえ。自分でもいかにも何も考えてなさそうな馬鹿みたいな顔して寝てると思います」

「いえ、そこまでは言ってないのですが……」

「んー……そうですか……」


 眠気のせいでまともな会話ができていないことを自覚しつつも、僕はまどろみから抜けることを止めなかった。だって気持ちいいんだもん。

 眠りと覚醒の境界は曖昧で、ひどく心地よくて、手放しがたい。

 シーツをぎゅっと握ると、不思議と安らいでしまう。この中でずっとくるまって、溺れるように眠っていたいと思ってしまう。


「にゅふふ……ベッドちゃぁん……♪」

「ぎん……アルジェさん。一応来客として来ているのに、そう雑に放置されると傷つきますよ?」

「んー……青葉さんも、一緒に寝ます……?」

「えぇぇっ!?」


 何気ない一言だったのだけど、青葉さんが予想以上に反応した。


「え、あ、そ、それは、え、ええと……い、良いんですか!? 私、はじめてですけどっ!?」

「……? ああ、誰かと寝るのがですか? 大丈夫ですよ、僕、寝相悪くないですから……」


 暑いと脱いでしまうのが自分でも悪癖だと思っているけれど、それ以外はおとなしいと自負している。

 今はお互いに女性なのだから、一緒のお布団で寝るのは別におかしくはない。というか、来客の相手をするのが面倒だからいっしょに寝ててほしい。

 そういう軽い意図での言葉だったのだけど、青葉さんはわたわたした様子だ。もしかすると、苦手なことを言ってしまったのかもしれない。


「ん……嫌なら構いませんけど……」

「い、嫌だなんてそんなことありません! ぜったい!!」

「はあ……では、どうぞ……」


 意識が夢の中に沈みそうになるのをなんとか堪えつつも、僕はベッドシーツをめくり、彼女に手招きをした。

 ややあってから、もぞもぞと青葉さんがベッドの中へと入ってくる。ひんやりとした温度と、甘い花の匂いがした。


「ん……つめたい……」

「あ、うっ、大丈夫、です、か……?」

「大丈夫ですよー……気持ちいいですから……」


 思わず抱きつきたくなってしまうけれど、さすがにそれはびっくりさせてしまうということは寝ぼけた頭でも分かるので、自重しておいた。


「ん……やっぱりベッドちゃんはあたたかくて気持ちいいですね……にゅふふ、最高です……」

「そ、そうですね。あったかいというかもう暑いくらいです」


 アルラウネとして転生した青葉さんは、暑さに非常に弱くなっている。

 僕にとってはひんやりとした寝心地でも、彼女にとってはそうではないのかもしれない。


「んー……もう少し、隙間つくりましょうか……?」

「い、いいえ! 大丈夫です! むしろこのままでお願いします!」


 寝ぼけた頭で気を使ってみたものの、必要ないという旨の返答が返ってきた。

 本人もこの間、お風呂でのぼせて倒れたことで気をつけているだろうし、大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。


「はぁい……」


 なにより、僕の意識が限界だ。

 ふわふわのベッドちゃんのぬくもりに、青葉さんのひんやりがくわわって心地よい。暑ければ青葉さんに近づけばいいし、冷たくなったらベッドに潜ればいい。


「にゅふふ……おやすみなさーい……」


 燻り続ける眠気に心を預ければ、意識は再び夢へと沈んでいく。

 再び夢を見るまでに、時間はそこまでかからなかった。

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