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土壇場の発案者


 サマカーさんの指揮は的確で、海賊はほとんど流れ作業で片付いてしまった。

 彼の扱う魔具(アーティファクト)には正直驚かされたけれど、やはりサマカーさんの一番凄いところは、なんだかんだで有能なところだろう。


「ご苦労だったな、諸君。あとは戦後処理に入るのみだ。まずは家を失った民への補償を最優先する。修繕が必要な箇所はまとめつつ、瓦礫の撤去からはじめよう。海賊たちはあとでひとりずつ罪を問うので、まとめて牢屋へ」

「サマカー様~。負傷者はアルジェ様にお任せするでいいですか~?」

「……頼んでもいいだろうか、アルジェント」

「それくらいはしますよ。ただ、死人は治せないので、今にも死にそうな人を優先でお願いします」


 そもそも自分から関わったことだ。面倒くさいけれど、それくらいはしようと思う。中途半端で放り出すのはさすがに薄情だろう。


「う、うむ……そうか、こちらとしてはとても助かるのだが……いやまあ、今更気にしても仕方ないか……?」

「……? どうかしましたか?」


 どうにも、サマカーさんが歯切れが悪い。

 僕が知る彼はもっとはきはきとしている人のはずなので、今の反応には少しばかり違和感があった。


「いや……なんというか、まあ……非常に言いづらいのだが――」

「――サマカー。片付いたか」


 一瞬。そう言えるほどの時間よりも早く、空気が変わった。

 凛とした声は、復興のためにあちこちで動く人々の音や、会話すらも止めてしまうほどに響いた。


 その声の主は、金色の髪をしていた。潮風に揺れ、太陽を浴びる金の輝きは、まるで冠のように美しかった。

 蒼色の瞳は優しげで、けれど深く、吸い込まれてしまいそうだ。

 顔立ちは整っており、格好からして男性だろうという程度で、中性的だった。

 身につけているものは全体的にさっぱりしているものの、明らかに品位というものが見て取れる。


「王……!」


 なによりも、サマカーさんの言葉と、即座に跪くという行動が、彼が何者なのかを示していた。


 ……あー、そんなこと言ってた気がしますね。


 確か先ほどサマカーさんが、王の御前でどうこうと言っていた。

 単純に士気高揚と、ここが王様の土地だということを言いたかったのかと思ったけれど、どうやら本当に王様がやってきていたらしい。

 王、と呼ばれた相手はこちらをゆったりと眺めて、


「……潮風の天使か」

「その呼び方は、そんなに好きではないんですが……」

「……天才魔法少女ヴァンピィちゃん?」

「や、それはもっと許可した覚えがないやつです」


 真顔でなにを言い出すんだろう、この人。

 もしかしてちょっと天然なのではないだろうか。そんなことを思っていると、相手はちいさく首を傾げて、


「違ったか……?」

「あー、ええと……」


 困ったな、ちょっとやりづらい。ついつい、いつものテンションで変なあだ名をつけ忘れるくらいに。

 口振りからして、彼は僕がどういう相手なのか分かっているのだろう。かつてアルレシャにいて、回復魔法を振るっていたことも、そして今もそうしていたことも。

 サマカーさんが前に語った通りなら、僕の回復魔法はそれだけで需要がある。

 なので王様はもう少し強引に、僕を捕まえに来るのかと思えば、このノリの緩さだ。


「……良い。重要なのは今、君が振るった力だ」


 とはいえ、さすがにそのままにしてくれるという訳では無いようだ。

 相手のテンションは独特だけど、それはたぶん性格というか、天然というだけ。状況が分かっていないわけじゃない。

 相手の目は明らかにこちらに向けられている。黙ってここから離れるわけにもいかないし、逃げるのもよくはないだろう。


 サマカーさんもなにも言ってこないということは、助け舟は出せないということだ。彼自身にも立場がある。不用意なことはできないのは、当たり前のことだ。


「君はどこから来た? なにが目的でここにいる? それだけの力は、扱い方次第では神にも悪魔にもなる。場合によっては、そのままというわけにはいかない」

「……えーと」


 どうしたものかと思ったところで、ふと、思いつくものがあった。

 自らに流れる血液に、存在そのものを溶かし込むことで物品を収納するという、ちょっとふわっとした効果の技能、ブラッドボックス。

 その収納技能から、僕は一枚の書状を取り出して、掲げた。

 言うべき言葉は一つだ。軽く息を吸って、通るようにして言葉を作った。


「親善大使です」

「……む?」

「海魔の女王クティーラが治める海底都市、ルルイエ。そこからの書状を持ってきた、親善大使です」


 言っていることに嘘はない。

 クティーラちゃんが僕に渡してきた書状を掲げ、僕は親善大使を名乗ることにした。

 変なやつだと思われて、拘束されるよりはずっといいだろう。


「港町アルレシャは海に面している町なので、海魔の都市としてはまずここに書状を持ってくるべきだと思ったので、持ってきました」

「……なるほど」


 王様の目はどこまでも深く、こちらを見通すようだった。

 やがて、彼はゆっくりと頷いて、言葉を作る。


「許す。初耳の名だが、嘘は見えない。その書状の確認と、歓待をしよう。余の名はスバル。スバル・プレイアデス……プレイアデス王国の現国王だ」

新作はじめてしまったので、よければこちらもどうぞ。海賊ちゃんの方は異世界TS百合、見習い悪魔の方はめっちゃちゅーされるファンタジーです。


見習い悪魔にくちづけを

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海賊ちゃんの異世界漂流記

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