銀を振るえ
「シッ……!」
己の金髪が視界の端を揺れるのを邪魔だと思いながら、私は銀色の腕を突っ走らせる。
もう少し髪を短くするべきだろうか。いえ、あまり短くするとムツキくんが寂しそうにするので止めておきましょう。
結論が出たので気にしないことにして、打撃に集中。相手は主にこちらを叩き潰しに来る動きで、こちらの命を奪うためにやってくる。
しかし、それを躱してしまうと今度は大地を打撃して、衝撃やら家屋の倒壊が厄介になってくる。
この土地はダークエルフたちが古くから整備してきた土地だ。いたずらにこの土地を破壊されては、戦後の復興でまたぞろムツキくんが張り切って協力すると言い出して国の財布の紐を緩めはじめてしまう。
まったく、私の上司は困ったことだらけだ、そこが好きなのだけど。むしろ好きなのだけど。
ええ、なので私はそんなバカなムツキくんが後で苦労しなくて良いように、
「とりあえず、今すぐ血を吐いてなるべく苦しそうにしてから死んでもらえませんか? 毒など、こちらで用意しますので」
「バカだろうお前……!!」
「初対面の人間にバカとは、失礼なゴミクズがいたものですね」
「悪いんだが、鏡見てもらえるか……!?」
ムツキくんに褒めてもらうために毎日覗いていますが、なにか。
ともかく、相手はどういうわけかご立腹だ。打撃の密度は明らかに濃くなり、ガードのタイミングを狙って弓矢まで飛んでくる。
それぞれの攻撃を片腕で対処しつつ、私は相手に適度に打撃を返す。決定的な、『取れる』と思える隙を探すべく、焦らずに動く。
……連携は取れていますが、妙に素人くさいですね。
正直に言って、彼らの連携には感嘆せざるをえない部分はある。
戦闘中の味方の背後から、敵に向けて矢を射るなど、正気の沙汰ではない。
前衛も後衛も、お互いの攻撃のタイミングを図るだけの技量と、なにも言わなくても意思疎通が可能なほどの相互理解が不可欠だ。
けれど、そこまでの練度と裏腹に、彼らの動きは素直すぎる部分がある。
ふつうなら、そこまでの練度があれば、もっと複雑な動きができて然るべきだろう。こんな風にバカのひとつ覚えのように、何度も何度も同じ手は使わない。
連携の深さと比べて、戦闘という行為に対する思慮深さがあまりにも足りていない。まるで、ほんの少し前に戦い方を習った子供のようだ。
アルジェさんの方には無力化するための攻撃を加え、私の方には確実に葬れる位置への攻撃を何度も重ねてくる。
正直に評価して、『芸がない』。
「……貴方たち、本当に兵士ですか?」
「はあ……?」
「どういう意味だ……!?」
「ああ、いえ。分からないなら結構です。正直なところ、どうでもいいので」
今こぼれた疑問はほとんどが独り言で、つまりは答えが得られなくても構わないということだ。どうでもいいという思いを込めて、盛大に裏拳をぶちかましてやる。
相手はこちらの打撃を武器で受け止め、しかし大きく後ろに下がった。魔法によって強化された打撃に、吹き飛ばされざるをえなかったのだろう。
「ぐぉ……!?」
「立つ場所が違えば、当然のように不理解が生まれるものですからね」
それぞれに理由があって、自分がいる場所を決めている。
彼らの連携の精密さと、対照的な練度の低さも、なにか理由があるのだろう。
……私にも、理由があります。
肘から先。人間らしい肌の色を忘れて久しい、自らの銀の腕を、私は眺めた。
『銀十字』。私が自分のワガママで手に入れた、銀色の力。
けれど私はその使い方を、酷く誤った。
私に宿った銀色の腕は魔力を通しやすい。それは『銀十字』の素材に使われた、魔力を好んで捕食するスライム系の希少種の特性が強く現れたがゆえだ。
だけどそれは、遣い手となった私に堪らないほどの飢餓感を引き起こした。
私はその衝動に飲み込まれて、もっと多くの魔力を、もっと多くの血を求めて、止まらなくなってしまった。まるで、吸血衝動に支配された吸血鬼のように。
結果として私は、大切なものをなにひとつ守ることができなかった。守るために望んだ力で、なにもかもを壊してしまった。力が欲しいという欲望の炎に、大事だったはずのものをひとつ残らず焼べてしまった。
だけど、そんな風に愚かな失敗でなにもかもを無くした私を止めて、私のことを抱きしめてくれた人がいる。
それでも生きろと、生きて、その後悔を噛み締め続けろと、厳しくて、優しい言葉を言ってくれた人がいるのだ。
「自分が正しいとは思いません。けれど、正しかろうが正しくなかろうが、私は今度こそ、守るべきものは誤らないと決めたのです」
深く腰を落とした構えは、どのような動きにも対処し、どのような初動でも可能とするため。
臨機応変と言えば聞こえは良いけれど、つまりは器用貧乏なので、私には合っている。
なにより、この構えは大事な人から教えてもらったもの。こうするだけで、あの人の背中を思い出すことができる。
それだけで、心の中が澄み、晴れ渡っていく。それは決して武の極みなんかではないけれど、それでいい。
だって私が頑張ろうと思える原動力は、彼なのだから。
「所詮、殴り合いなどそんなものです。どちらが勝つかと、ただそれだけ。そして私は……負けるつもりは、ありません」
相手が体勢を整える時間を隙と見て、私は踏み込むことを選んだ。
地面を蹴り、目標めがけて突っ走る。迎撃のために飛んできた矢を首を傾けて躱し、射程圏内へと一直線に駆けていく。
「く、ぉ……!?」
「打ち抜きます……!」
彼のように総べてを背負うなんてことはできなくても。
私の不始末な腕が、彼の憂いを払うくらいの力になるのなら。
過去の自分が持ち込んだ浅ましい我欲を、私は今、惜しむことなく振るう。
「止められるものなら、止めてみなさい……!!」
迷うことなく、一直線での打撃。
防御はできたとしても、回避不能なタイミングだ。予想したとおり、相手は大鎚を盾にするようにして、私の目の前にかざしていた。
こちらが放った正拳は確かに、相手の武器に受け止められたのだ。
「止めたぞ……このクソ女ぁ!」
「止めただけでしょう」
「なにを――」
「――死ぬほど痛いので、せいぜい我慢しなさい」
『銀十字』は魔力に対して敏感に反応し、流された魔力を増幅する。
それはつまり、強化魔法だけではなく、単純な魔法攻撃すらも、この銀の腕を通せば倍加するということだ。
絶対回避不能のゼロ距離。防御の構えを取り、完全な無防備状態の相手に、私は遠慮なく次の札を切った。
「我が望み通り、獲物を食い破れ……魔拳、ルシエド!!」
銀の腕へと込められた闇の魔力は、確かに私の言葉を聞き届けた。
闇色の炎は獣のように突っ走り、相手の武器ごと食い尽くすようにして、敵へと殺到した。
「な……ぐああああああ!?」
闇属性の魔法は粘着質だ。
一度狙いがついてしまえば、とにかく相手を追い続け、痛めつける。扱いは難しいものの、その陰湿さと面倒臭さは折り紙付き。
堪らずに相手は武器を捨て、じたばたと手足を振って転げ回る。当然、その程度で消えるわけがない。これは呪いの炎だ。逃れたければ私が解呪するか、回復魔法でも使うしか無い。
この馬鹿騒ぎの首謀者を吐くまでは殺しはしない。でも、せいぜい苦しんでもらうとしよう。
「さて、これでひとり。次は――」
――アルジェさんの助太刀に入るか、弓矢を潰すか。
どちらを選ぶかと考えたところで、空気が揺れるのを感じた。
私事ですが、童貞を殺す服についてツイートしたせいでアカウントが凍結されました。
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@tyokin_gyo_maru




