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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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友達付き合いものんびりと

「いい天気ですわねえ、アルジェさん」

「そうですね、クズハちゃん」


 ダークエルフの領地に滞在をはじめて、結構な日にちが経っていた。

 結構な日にちと言っても、たぶん十五日くらいだ。ほとんど寝ているので正確な時間は不明だけど、確か今日、起こしに来てくれたフェルノートさんがそんなことを言っていたように思う。


 ぼんやりと今朝もフェルノートさんに呆れ顔をされたことを思い出しながら、僕はクズハちゃんと並んで寝転がっていた。

 周辺はジャングルといった様相だけど、集落があるところは整備されていて、お日様からの光がきちんと届く。

 己の銀髪が太陽光を反射してきらきらと輝くのを眺めていると、隣のクズハちゃんが言葉を作った。


「なんだか、こうしてのんびりと過ごすのって、久しぶりですわね」

「そうですね。サクラノミヤ以来でしょうか」

「ええ。魔大陸までは旅の目的がありましたから、ゆっくりとはしていられませんでしたもの」


 クズハちゃんは真面目な子で、なにより、大切な人を失う辛さを知っている。

 だからこそ領地からさらわれたというリシェルさんの境遇に本気で怒って、ここに来るまでの間、自分にできることを精一杯やってくれていた。

 大食いダークエルフのために食料調達したり、言葉が通じないなりにリシェルさんの世話をしたりと、クズハちゃんはかなりの激務だったはずだ。


 それが終わった今、クズハちゃんとしても安心したのだろう。領地の仕事を手伝ったりはしているようだけど、こうして僕と一緒にいる時間が増えた。

 お昼寝の邪魔をされるわけでもないので、僕としてはクズハちゃんと一緒にいるのは嫌ではない。なので今日も、こうして一緒にお昼寝しているというわけだ。


「そう考えると、俺もゆっくりするのは久しぶりだな。こういうのも悪くない」


 クズハちゃんがいるのとは反対の方向から、渋めの声が聞こえる。

 ちらりとそちらに視線を投げれば、艶やかな黒の毛並みを持った馬が、もしゃもしゃと野草を頬張っていた。


「ネグセオーさん、なにか言っていますの?」

「彼も、のんびりするのが久しぶりなので嬉しいそうです」


 ネグセオーは言語翻訳の技能を持っているので、クズハちゃんたちの言葉の意味はきちんと理解している。

 残念ながらそれほど技能レベルが高くないらしいので、彼自身がクズハちゃんと言葉を交わすことはできないけど、言葉はちゃんと通じているのだ。


「ふふ。こうしていると、なんだか出会った頃みたいですわね」


 クズハちゃんと出会ってから暫くの間、僕たちはこのメンバーで旅をしていた。

 移動手段のネグセオーと、はじめての友達であるクズハちゃん。

 サクラザカでサツキさんと出会ってからはいろいろあったけれど、旅という意味ではこれが初期メンバーとも言える面々だ。


「クズハちゃん、出会い頭に炎ぶっぱでしたね……」

「ああ、あれは俺も焼けるかと思った」

「ね、ネグセオーさんまで微妙な顔してるってことは呆れてますわね!? そうなんですのね!? あれはもう過去の話ですのよ!?」


 お陰で暫く全裸になる羽目になったけど、今思うと恥ずかしい。


「それを言うとネグセオーも、『俺より遅いやつは乗せない』とか言うので苦労しましたが」

「ネグセオーさん、プライド高そうですものね……なんとなく分かりますわ」

「……若気の至りだ」


 若気の至りというほど昔の話ではない気がするけど、本人がそう言うので突っ込むのは止めておいた。思い返してみるとなんとなく懐かしい気持ちになって、面白かったし。

 転生して数ヶ月。月という概念はおそらくこの世界には当てはまらないけど、結構な時間が経過した。

 それは僕の前世と比べるとひどく短い時間と言ってもいいけれど、前世の記憶よりも、強く心に残っている出来事はたくさんある。


 バカみたいなテンションの盗賊団から行商人を助けたり、巨乳で優しい元騎士さんと暮らしたり、女好きの領主さんに絡まれたり、森でちょっとお間抜けで真面目な守護者と知り合って、馬と追いかけっこしたり。

 狐娘に出会い頭に服を焼かれたこともあったし、棺桶を背負った変な人に気に入られたり、金色の吸血鬼(どうぞく)に求婚されたり。

 ダークエルフのお嬢様を戒めから解いてみたりもしたし、金庫番の精霊に母親だと勘違いされて最終的に妹にされた。海底都市では親善大使に任命され、魔大陸でいきなり頭目掛けて武器を投げつけられたりもした。


 ……思い返してみると、濃い体験ばかりしているような気がします。


 ほとんど寝ていたつもりだったけど、思い出せることは多い。

 この世界に転生する際に、ロリジジイさんは僕のことを、『魂が世界に適合していない』というようなことを言っていた。

 だとすれば、今こうして僕が自然と微笑んでしまっているのは、この世界が僕に『合っている』ということだろうか。

 転生したときはありえないと思っていたけど、あながちロリジジイさんの言っていたことは間違いではないのかもしれない。


「アルジェさん、どうしたんですの?」

「ああ、いえ。ちょっと色々と思い出していたので……産まれたばかりの頃のこととか」

「あ、それはぜひ聞きたいですわ。いい機会ですから、聞かせてくださいません? フェルノートさんと出会った頃のこととか、詳しく知りたいですの!」

「構いませんよ。眠くなるまでで良ければ」


 クズハちゃんは嬉しそうに尻尾を振って、こちらを覗き込んでくる。

 緩やかに時間が流れることを意識しながら、僕は彼女に引き起こされた。

 時間はゆっくりある。たまには、思い出話をするのも悪くはない。そんなことを思いながら、僕は口を開いた。

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