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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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吸血鬼さんと海の旅

「……と、あの時考えたのがもう、フラグだったんですかね」

「ふらぐ? なんのことですの、アルジェさん?」

「いえ、気にしないでください、クズハちゃん。今ちょっと言霊について考えていたところなので」


 溜め息を吐きながら、僕は作業を再開する。

 今、僕たちふたりが行っているのは食事作りだ。僕が作っているのは消化にいい、お米を多めの水で炊いたもの。いわゆる、おかゆ。

 本来であれば料理は他人に任せたいところなのだけど、これにはちょっとした理由がある。


「まさか、僕たち以外が船酔いでダウンするとは……っとと」


 言葉をこぼした直後に大きめの揺れが来て、足元をふらつかせる。

 お鍋の方は船ということもあり、火元に固定できるタイプで問題はないけれど、立っている僕はそうはいかない。

 足元が揺れるのは海の上である以上、どうしようもない。荒れているならなおのことだ。

 すっ転んでしまいかけたところを、クズハちゃんに抱きとめられた。


「っと……大丈夫ですの、アルジェさん?」

「あ、すごく慎ましいクッション……!」

「どこの話ですの!?」


 どう考えてもおっぱいのことだったので、答える必要もないだろう。

 ほんのりした柔らかさに感謝しつつ、クズハちゃんから離れる。


 ……結構揺れますね。


 胸のことではない。船のことだ。

 ゼノくんがここに来る前に、今の時期は海が荒れやすいと言っていたけど、どうやらその通りになったらしい。

 フェルノートさんもゼノくんも、そしてリシェルさんも。出港してすぐは海の荒れが少なかったので元気だったのだけど、揺れ始めたら途端に船酔いで動けなくなってしまった。

 船酔いも回復魔法で癒せるのだけど、何度治してもすぐに酔ってしまってキリがないので、三人にはそれぞれの部屋で安静に過ごしてもらっている。

 フェルノートさんに至っては、自分の回復魔法で乗り物酔いが治せるのに、それすら追いつかずにダウンしてしまった。

 ネグセオーの方もあまり調子は良くないようで、ほとんど寝転んでしまっている。


 僕の方はというと、どうにもこの身体は船酔いには強いらしく、揺れによる不便さは感じるものの、特に問題はない。

 クズハちゃんの方も、揺れるのが鬱陶しくはあるようだけど、船酔いをした様子はない。


「クズハちゃんが動いてくれて助かります」

「そうですの?」

「ええ、これで僕しか動けなかったら面倒臭すぎて、魔大陸に行ったあと暫くは動きたくなくなるでしょうから」

「アルジェさん、面倒くさがりですわよね……」

「それはもう、僕はぐうたらで面倒くさがりでなんの役にも立たない、例えるなら窓のすみっこに溜まった埃みたいな存在ですからね」

「そこまで言ってませんわよ!?」

「とにかく、クズハちゃんがいてくれて助かりました。ありがとうございます」

「……ええ、どういたしまして」


 クズハちゃんはそう言って、狐色の瞳を閉じた。どうやらツッコミを諦めたらしい。

 ややあって目を開けた彼女は、僕のことを上から下までじっくりと眺めて、


「ところでアルジェさん、その格好、似合ってますわよ」

「ふぇ?」


 言われてから、自分の身体を改めて眺めてみる。

 女の子に転生したので、ただでさえ細身だった前世よりも更に華奢な身体つきになってしまっている。

 側にある鏡を見てみれば、銀色の髪の美少女。本来なら吸血鬼は鏡には映らないのだけど、異世界の吸血鬼は僕の知っている伝記のモンスターである吸血鬼とは、微妙に違うらしい。

 普段はローブを羽織っている美少女――つまり僕――は今、白を基調とした、作業衣のようなものを着ている。

 いわゆる、割烹着と呼ばれる格好。前世ではお手伝いさんがちょくちょく着ていたので、メイド服と同じように、僕にとっては見慣れた格好だ。

 服を作るのが趣味のクズハちゃんが、先日制作してくれたばかりの新作。船が揺れるのであちこち引っ掛けてしまわないように、作業中はこれを着ることにしている。


「割烹着、ですよね」


 一応確認してみると、クズハちゃんが深く頷いて、


「ええ。女性が作業をするときに最適な、共和国では一般的なものですわね! ああ、それにしてもお似合いで……私、その格好のアルジェさんに毎日お味噌汁作って欲しいですの……」

「はあ、面倒なのでむしろ誰かに毎日お味噌汁作られたいです」


 お味噌汁どころかおやつも作ってもらえて、毎日三十時間寝かせてくれる相手がいれば、この旅が終わったあとで喜んで養ってもらいにいくのだけど。

 はあ、どこかにいないかな、そんな都合のいい寄生先……もとい、心優しい養ってくれる人。

 とりあえず恥ずかしい格好でもないし、褒められて悪い気はしないので、素直に受け取っておく。


「クズハちゃんも似合ってますよ」

「ふふ、お揃いですわね」


 クズハちゃんの方も、僕と同じく割烹着を着ている。

 二人揃って同じ格好をしての作業。お互いにかなり幼い見た目なので、たぶん傍から見れば小学校の調理実習かなにかのように見えてしまうだろう。

 テキパキと酔っていないふたりの分の食事を用意をしながら、クズハちゃんは言葉を作る。


「こう言ってはなんですけど……リシェルさんが船酔いしてくれたお陰で、食材に余裕が出ましたわね」

「そうですね……心配ではありますが、リシェルさんの食欲が抑えられるのは良いことだと思います。船酔いって、死ぬようなものではないですし」


 ひとりで十人分近く食料を消費していたリシェルさんだけど、さすがに船酔いしてからはおとなしい。

 毎日船室でぐったりとして、普段の行動力を発揮できないでいるようだ。

 本人としては早く故郷に戻りたいこともあって悔しそうだけど、操船に関しては自動で、海路を移動しているかぎり大きな仕事はないので、そこまで気にしなくてもいいのだけど。


「さっき様子を見に行ってきましたけど、やっぱり調子は悪いみたいで……っと。五杯くらいしかおかゆいらないそうです」

「……それ、ほんとに食欲ないんですの?」

「ええと……まあ、普段と比べれば?」

「その通り過ぎてなにも言えませんわ……」


 大きな寸胴鍋で作られるおかゆを見ながら、クズハちゃんが溜め息をついた。

 なんだかんだでこれだけ食べて吐いたりもしないのだから、大食い恐るべしだった。

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