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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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作戦会議の一行

「……つまり、やはりアルジェさんはシリルさんではない、ということですわね」

「そういうことになりますね。なので、さっさとここを出て旅を続けたいと思います」


 一通りの説明を終え、クズハちゃんが確認するように作った言葉に、返答をする。

 今、僕たちがいるのははじめに押し込められた客間のような部屋。テーブルには僕を囲むような形で、みんなが座っている。

 僕が中心人物みたいでちょっと落ち着かない布陣だけど、今回の件に関してで言えば、たしかに僕が中心なので我慢しよう。


「それについては賛成ですが、どうやって出ていきますか?」


 クズハちゃんへの返答を済ませたあと、一呼吸を挟んで疑問符を作ったのはゼノくんだった。


「なるべく穏便にと考えています。イグジスタのことを納得させて出ていきたいので」

「付き合いがある商人の身としてはありがたいですが、そう簡単に行きますかね……?」

「黙って出ていくならともかく、まあ、無理よね。力づくで押し通るしかないでしょう」


 フェルノートさんはもう戦闘があることを前提に考えているらしく、装備のチェックをしているようだ。長剣を抜いて、ゆったりとした様子で眺めている。


「力づくって、無理やり出ていくという事ですの……?」

「そうじゃないわ。アルジェとシリルは別人だと言いに行くってことは、大事な人は『やはり帰ってこなかった』と言うことよ」

「あ……」

「私にはあの精霊が、多少無理やりにでも目の前にいるのは大切な人だと思おうとしているように見える。だから、もしもそれを真っ向から全力で否定したら……今度は無理やりの矛先がこちらに来ても、おかしくはないわ」

「ゴーレムを操る力もあるようなので、相手取るのは骨が折れそうですね」

「ゼノ。それともうひとつ問題があるわ。……『足』を抑えられたら困るわよ?」

「……念のために(あし)を確保する側と、彼女のところへと向かう側の二手、ということですね。それなら俺は馬の方へと周ります」

「ネグセオーとはここからでも話ができるので、僕から話しておきますね」


 王国からの付き合いがあるネグセオーは、旅の道連れという意味でなら一番長く連れ添っている。

 彼は馬のわりに知能が高く、僕の言葉も理解してくれるし、血の契約を結んでいるのでテレパシーのように距離を挟んだ会話もできる。

 軽く意図を飛ばせば了解の意思が返ってきたので、とりあえずはこれでいいだろう。なにかあれば、彼自身の判断で動くはずだ。


「私はアルジェの守りにつくから、一緒に行くわよ」

「意思の疎通ができるのがアルジェさんだけなので、リシェルさんもそちらの方がいいかもしれませんね」

「そうなると、クズハちゃんはゼノくんに同行ですね」

「あ、あの! ちょっと待ってくださいですの!」


 進んでいた話に、待ったがかかった。

 精一杯に手を挙げて自分の存在をアピールしたクズハちゃんは、全員の視線が集まるのを待ってから手を下ろして、


「私、イグジスタさんの方に行きたいんですの」

「……どうしてですか?」

「もちろん、話したいことがあるからですわ」


 クズハちゃんの視線は強く、なにかを決めたのだと分かる顔をしている。

 母親を失ったと知ったときの彼女と、同じ顔。

 クズハちゃんがなにを思っているのかは分からないけれど、こうなった彼女を止めるのはちょっと難しい。


 放っておいても無理やりついて来そうだけど、そうなるとゼノくんがひとりになってしまうので、良くはない。

 少し考えたあと、僕は隣に座っている人に話しかけた。


「フェルノートさん。ネグセオーの方を、お願いできますか?」

「大丈夫なの?」

「ええ。クズハちゃんには分身もありますから、ゴーレムが数で押してきてもなんとかなるかと思います」

「……馬を確保したら、すぐに加勢に行くわ」

「ええ。お願いします、フェルノートさん」


 これで一通り話は決まった。

 あとはリシェルさんの了解を得るくらいだけど――


「もぐ?」


 ――相変わらず、リシェルさんは食べていた。

 テーブルに広げられたお茶菓子を、ほとんどひとりで片付けてしまっている。というか残りもすごい勢いで、リシェルさんのお腹に収まっていく。

 食べ方こそ上品だけど、その速度と食べる量がとんでもない。

 何度も見た光景とはいえ、何度見ても圧倒される。どこにそれだけ入っているんだろう。

 ともあれ、ちょうど良く目が合ったので、話を切り出そう。


「ええと……食べながらでいいので聞いてほしいんですが、構いませんか?」


 口にクッキーを頬張った状態の相手が、首を縦に振る。

 褐色の長耳が一緒に縦揺れするのは、動きに追随しているというよりは単に美味しいからだろう。


「ちょっと大金庫の主と話がしたいので上に登ります。なので、ついてきて欲しいんです」


 リシェルさんは僕の言葉に、頷きをひとつ返した。

 彼女は自分の目の前にある紅茶を飲み干して、一息をついてから、こちらを見る。紫色の瞳が作るのは、微笑み。


「精霊様は、寂しそうでしたね」

「え?」

「きっと、待っている方がいるのでしょう。そしてそれは、アルジェ様ではない。そうですね?」

「……よく分かりましたね」

「アルジェ様の言葉を聞き、周りを見ていて、そう思っただけです」


 微笑みのままで、リシェルさんは立ち上がる。

 お茶菓子のなくなったテーブルを見渡して、満足げに一息。

 全員の視線が自分に集まったことを確認するように見渡して、リシェルさんは凛とした声を放つ。


「これも恩を返すことのひとつとなりましょう。なにかあれば、わたくしの弓でお守りいたします」

「……なんて言ってるのかしら」

「腹八分目、ではありませんの?」


 物凄く貴族っぽい感じだったのに、言葉が通じないせいで台無しだった。


「えーと……とりあえず、リシェルさんが僕と一緒に行動することについて、納得してもらえたようです」

「あ、そうだったの……って、お茶菓子もうなくなってる!?」


 みんなが話しているうちに、リシェルさんはひとりで食べ続けていた。そのせいでフェルノートさんが取る前になくなってしまったらしい。

 大皿に広げていた以上、こういうのは早い者勝ちだ。僕はちゃっかり食べていたので、問題はない。


「それじゃあ、僕とクズハちゃんとリシェルさんでイグジスタのところへ。ゼノくんとフェルノートさんは、馬と馬車の確保をお願いします」

「決行は?」

「そうですね、とりあえず……」


 言葉を続けようとしたところで、ドアが開いた。

 部屋へと入ってきたのは、少し見慣れてきた光沢のあるボディ。ゴーレムたちだ。


「……明日にしましょうか」


 運ばれてきた料理と、それをキラキラした瞳で見つめるリシェルさんを見て、続ける言葉が決まってしまった。

 どちらにせよ、今日はここで眠ると言ってあるのだ。一泊して、それから動いてもいいだろう。

 安全なところで眠るのは久しぶりなので、みんなにとってもいいはずだ。

 僕はいつでもどこでも気にせずに眠れるけど、フェルノートさんやゼノくんは毎晩の見張りを頑張っていたようだし。


 みんなも反対する気はないようで、ゴーレムが料理を並べていくのを、ただ眺めていた。


「……というか、リシェルさんはまだ食べる気なんですか」

「アルジェ様? どうかなさいましたか?」

「いえ、今ちょっとブラックホールのことを考えていました」

「ぶら……?」

「ご飯が美味しそうだなってことです」


 説明するのも面倒なので、適当にお茶を濁すことにした。

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