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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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SHOUDOU

「……うぅ」


 ゼノくんと別れてから、暫くの時間が経った後。大通りから外れた路地裏で、僕はうずくまっていた。

 ご飯はきちんと食べている。ゼラビアとかいう名前のお魚の刺身は、歯応えが良くて旨味が濃厚で絶品だった。そうして食事を摂ったのに、空腹感が消えてくれない。

 出されたお水だって、ちゃんと飲んだ。なのに、ひどく喉が渇く。


 ……身体が求めてるのは、血液ですか。


 僕が吸血鬼として生まれ直してから、大体一週間が経過している。その間、人間の血液を一滴も口にしていないことが、この飢餓感の原因だろう。

 吸血鬼の弱点である日の光や水は耐性能力で克服できても、こればかりはどうにもならないみたい。


「どうしたもんですか……」


 解決方法はシンプル。血を飲めば良いだけ。

 そんなことは解っている。解っては、いるんです。


 ……変質者ですよねぇ。


 その辺の人に「申し訳ないですけど、ちょっと血を吸わせて貰えませんか?」なんて迫ったら、それはもう完全にアウトだ。

 絶対逃げられる。僕が言われた側なら通報する。


「吸血鬼になったのは、失敗だったかなぁ……」


 ゼノくんと旅をしている間にも、兆候はあった。吸血衝動とも言うべき欲求が、度々顔を出していたのだ。

 そういう時は、水を飲んだりご飯を食べたりすると収まっていた。だけど今は、ちっとも収まるような気配がない。


 ……誤魔化しがきかなくなってきたってことですか。


 食事や給水で吸血衝動が抑えられていたのは、別の欲求を満たすことで一時的に吸血欲から意識を外していたってことだろう。

 その誤魔化しに限界が来た結果が、僕の現在の状態だ。


「く、うっ……!」


 ……冷静に分析してみたところで、状況が好転するわけもないですか。


 飢餓感だけではなく、頭痛や視界のぼやけといった症状も出てきた。寒気も感じる。

 高熱を伴う風邪にも似た状態だけど、それとは明らかに違う感覚が、ひとつあった。


「牙が……うずく……!」


 吸血鬼として生まれ変わった僕のチャームポイントである、通常よりも明らかに尖った八重歯。

 身体全体が寒さを訴えているのに、そこだけがひどく熱く、気持ち悪い。擦り傷を負ったときのような、じくじくとした不快感がある。


 ……しっかり、しなきゃ。


 路地裏に逃げ込めたのは、上出来と言う他ない。

 あのまま人通りの多い場所にいたら、手近な人間を捕まえて噛み付いてしまいかねなかった。それくらい、渇きは急激に来たのだ。

 もう少し耐えられるかと思ったけど、限界が近いらしい。だからって、人を襲うような化け物になるつもりはないけど。


 ……他人に迷惑をかけるものじゃありません。


 僕は確かにものぐさだし、誰かに養われておんぶにだっこでぐうたら生きるという大きな夢を持っているけど、それは相手が僕を受け入れてくれるというのが大前提の話だ。

 望んでいない人に重みを押し付けたり、迷惑をかけたりはしたくない。


「自分の血を吸う、なんて解決法じゃダメですよね……」


 技能の詳細はすべて覚えている。そんなことで解決するようなものじゃないことくらい解る。

 別に噛み付いて吸わなくても良い。ある程度の技能レベルがある恩恵で、大量に吸ったり飲んだりする必要もない。ほんの少し摂取すれば良い。けれど、自分の血ではダメだ。

 他人の血でなくては、決して満たされない。それがこの吸血衝動だ。

 水や太陽といった吸血鬼の弱点をほぼ克服している僕にとって、唯一残っている吸血鬼として明確な弱点がこれだろう。

 もちろん回復魔法でどうにかなったりもしない。これは病気や怪我、汚れなんかではなく、吸血鬼にとって息をするようなものだからだ。息を止めることを、回復とは言わない。


「あ、ダメだ……目の前、暗くなってきた……」


 幸いなのは、衝動によって自制が利かなくなるという感じではないことだ。しっかりと意識があり、そのまま暗くなろうとしている。

 これならば、暴走のようなことは起こらないだろう。そのまま意識を失って、誰の迷惑にもならないはずだ。


「あー……ねむ……」


 そういえば、お昼寝まだだったなぁ……。

 裏路地とはいえ、潮風が心地好いのは変わらない。吹き抜けていく香りは、どこか心地が好いものだ。

 飢餓感から逃れるように丸くなり、僕は眠ることにした。


 ……眠って、忘れてしまおう。


 眠るのは得意だ。特技と言っても良いくらいに。

 意識を眠ることに向けて、ゆっくりと手放していく。そういえば、血への執着が大きくなりすぎると死んでしまうとか、ロリジジイさんが言ってたな……。


 生後一週間で死ぬとか、転生させてもらっておいて申し訳ないな……。そう考える頃には僕の意識は溶け始めていて、その申し訳なさも直ぐにどうでもよくなっていった。

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