〈嫉妬が国のラムセス〉
「あれ…ここは………?」
ゆっくり上半身を上げ、周りを見ると
私は神社の本堂らしきところに居た。
しかも、私の周りには何かの術式が書かれている…。
まるで、なにかの儀式でも行っていたかのように。
…どこだここ。確か、あの結って奴と先生に怒られて。
で、そのあと…思い出せない。
まさか、弥扇の神社?来た覚えないけど…。
いつの間にか連れてこられた?有り得る…。
「…目を覚ましたか」
「え?」
振り向くと、長い黒い髪に紫の瞳の…青年が立っていた。
端正な顔立ちで髪も長いから一瞬女の人かと思った。
「えっと、あなたは……?」
ここが弥扇家の神社なら、
うちの家系の人が事情を知ってるはず…。
服からして神職のようだが…。
家系の人じゃないなら何も知らない可能性が高い。
「ランジャだ」
ランジャ…?名前なの?
それにしてもこの人、無機質な人だなぁ…。
色が全く見えない。少し不気味だが、
この人以外に人の気配もないので、この人に頼るほかない。
「それが、名前ですか?」
「違う。ランジャは称号だ。名はない」
称号…?神職の階級にそんなのあっただろうか?
よく解らないけど、名前がないってどう言うことだろう…。
「名前が無かったら、呼べないでしょう?」
「ランジャと呼べば良いだろう。」
確かにそうなのだが、
人のこと称号で呼ぶのはとても抵抗がある。
自分が“かぐや姫”と呼ばれたとき、
例え、二文字違いでも、
自分じゃないようで嫌だったからだ。
「それは…、じゃあ、あだ名つけましょう!」
「構わないが」
何が言いかな?あだ名だから、
日本名じゃなくていいよね。
なんか、カッコいいのないかな…。
うん。昔読んだ本の登場人物の名前から取ろう!
「ラムセスってどうですか?」
私にとっては意味のある良い名前だったので、
思わず満面の笑みで聞くと、
ランジャは少し目を開いき驚いた顔をした後、
目を細めた。笑った…のだろうか。
どうやら表情筋が死んでるらしい。
「ああ。それで構わない」
いつもなら、声で感情が読み取れるはずなのに、
今日に限って色が全く見えない。
こんなことは生まれて初めてだ。
この人は冷静なだけで、無機質ではない。
「…立てるか」
「あ、はい」
ラムセスに手を差し出され、
その手を掴み立ち上がったとき私は少し驚いた。
自分の目線がいつもより高かったからだ。
そのせいで少しよろめいてしまった。
「大丈夫か…?」
ラムセスが私が倒れないようにと
手を掴みながら私の事を心配そうに見ていた。
「あ、はい…」
どこも悪くはないし平気なのだが、
なんだか変な感じがする。
別に巨人になったわけではないが、
十センチくらい伸びている気がするのだ。
急すぎる成長気だろうか…。
「…早く城に戻るぞ」
「し、しろ?」
しろと言ったら、城しか思い浮かばない。
でも、神社に城なんてあるはずが…。
なんかおかしいぞ?おばあ様は?緋子さんは?
「目を瞑れ。」
ラムセスがそう言った。
すると私の体は、さも当たり前のように目を瞑った。
私は少し驚いたが、初対面人が目の前に居るのに、
不思議と恐怖も感じなかった。
「耳も塞げ。」
ラムセスはそういいながら、
私の腰と足に手に触れ難なく持ち上げた。
驚いて怒ろうと思ったそのとき、突然強い風が吹いてきた。
風は次第に強くなっていき息が出来ないほどになった。
「もういいぞ…。」
風が止んで、少しするとラムセスの声がした。
ゆっくり目を開けると目の前には壁と門が広がっていた。
しかも、その大きさは尋常じゃない。
見上げたらそのまま倒れてしまいそうだ。
耳も塞げと言われた意味がわかった。
キーンってする。耳抜きしとこ。
「っていうか、降ろしてください!?」
動作が自然すぎて気付かなかったが
お姫様抱っこされていたのだ。
私は恥ずかしくて顔を手で覆っていると
ラムセスはすぐに降ろしてくれた。
(というか服も和服に変わってる…。)
制服を着ていたはずが、
いつの間にか朝顔の柄の和服に変わっていた。
儀式用にしては何というか、普通だ。
うん。普通に可愛い。
ってそうじゃなかった。
「すいません。ここどこですか?
おばあ様は?」
気付くのが遅すぎた。
ここ弥扇の神社じゃない。
なにこれ、どういう状況?
「ここは嫉妬が称号を持つ国。
貴方の言うおばあ様はここには居ない。」
え。じゃあ、ここ、日本じゃいってこと?
でも言葉は通じてるし、服装だって…!
若干古いけど。
私が更に質問しようとすると、重たい門が開いた。
ラムセスは私をちらりと見てから中に進んでいった。
ついてこい。ということだろう。
(こんなところで一人になる訳にはいかないし
ラムセスは信頼できそう。)
私は一人で頷いて、
大人しくラムセスについて行った。
「ここに王様がいるんですか?」
「…いや、今は不在だ」
今は。ということはいつもは居るということ。
つまりここは王政。間違いなく日本じゃない。
でも、お城の中に居る人たちはみんな和服を着ている。
タイムスリップ?にしてはちょっと変だ。
嫉妬が称号とか、意味が解らない。
「あの…!どこに向かってるんですか?」
「もうすぐだ。」
そう言うと本当にすぐにラムセスが止まった
その部屋は一際豪華な造りになっていた。
扉のところに紫色の蛇の装飾が付いている。
ラムセスはゆっくりと扉を開けた。
部屋は広く、奥に籠のような、
平安時代の偉い人が入る小さな空間があった。
ものすっごい和式だ。
まぁ、多分王様が居る所なのだろう。
「ラムセス?」
私がずっと黙っているラスセスを見ると
ラムセスは私の方をじっと見て口を開いた。
「…この世界は魔術に頼りきっている
魔術がなければろくに生きていけない」
この世界…薄々は予感してたけどここは異世界らしい。
どっちかというと、タイムスリップした気分だけど。
「魔術には大量の魔力が必要。
その魔力の根源は使い魔と契約した王だ」
根源が居るんだ…。自力では使えないのね。
まぁ、科学も電気とかガスとか使うから、
そういうノリなのかな。あんがい現実的~。
「だが、この国は現在王が居ない…。」
どうやらラムセスが言っていた不在とは
出掛けているのではなく、本当に“居ない”ということのようだ。
「だから貴女に王になって貰いたい」
うんうん。私が王様に…。
……………………………ん?




