〈弥扇家〉
「お嬢様のご友人ですね!
いつもお嬢様がお世話になっております!
お疲れでしょう?冷たいお飲み物を御用意致しますね!」
一呼吸でものすごい分量の言葉を喋った緋子さんを
軽くスルーして自分の部屋に入った。
「広いなぁ…
俺の部屋の四倍はあるだろ…」
宗岡くんの部屋の大きさは知らないけど、
それは大袈裟だと思う。
私の部屋には最低限のものしかないから
余計にそう感じるのかもしれない。
「静かだけど…。なんか逆に落ち着かない…」
芽李ちゃんの言うとおり。
ここは広いのに人が少なすぎるんだ。
「お嬢様、お飲み物御持ちしましたよ」
そう私に一声かけると緋子さんが
オレンジジュースを5つとお菓子を持ってきた。
「うん、ありがとう」
私がお礼を言うと緋子さんはにっこりと微笑んで
それぞれ机に並べた。
「それで!お嬢様お相手はどちらなんですか!?」
「は…………?」
意味が解らず首をかしげた
ものすごーく嫌な予感がする。
釘刺したからね!?変な妄想してないよね!
「やだなぁっ、もう!彼氏が居るなら
緋子に教えてくれたら良いじゃないですか。水臭い!」
どうやら緋子さんは私が釘を刺したのも忘れて、
宗岡くんと源くんの
どちらかを、彼氏と勘違いしているようだ。
「ちっがーーーう!!!
もう、緋子さん出てって!」
叫びながら、緋子さんを無理やり外に押し出した。
「え~。まだ来たばかりですのにぃ
それでは皆さんごゆるりと~」
名残惜しそうにしながら、
にっこり手を降りながら部屋を出て行ってくれた。
「あかこさん…だっけ?
アクティブな人だね………?」
源くんが気を遣うような声で
苦笑いをしながら言ってくれた。
ほんっとに恥ずかしい…。
「ご、ごめんね…
悪い人ではないけど………」
ただ、思い込みが激しいうえに、
すぐ行動に起こしてしまって、
その割におっちょこちょいで的外れ…。
「にしても、家にメイドまで居るなんてね…」
確かに普通の家に召使なんて居る訳ない。
でも、家族と呼べる人が近くにいないから
緋子さんは居て良かったと思ってる。
「親は何の仕事してんだ?」
「お母さんもお父さんも居ないんだ。
うちは神社やってるの」
弥扇家はとっても有名な神社を
2000年も前から代々やっている。
神に仕える血が穢れないように、
四つの分家を利用して強く穢れのない子を作っている。
そのために、私はこの家に引き取れれた。
「居ないって…」
芽李ちゃんが少し遠慮がちに聞いた。
黙る理由もないけど、まだちょっと言い辛い。
「去年に…二人とも。」
別になんてこともない。
人はいつか死ぬもの。ただそれが早かっただけ。
なんてことない。
「そ、そっか…ごめんね!
変なこと聞いちゃって………」
芽李ちゃんが少し顔を伏せて謝った。
私が事実を言っただけだから、謝る事なんて何もない。
「気にしてないよ、全然大丈夫」
「…じゃあ勉強始めようか」
源くんがタイミングを見計らって、声をかけると
みんなそれぞれ勉強に取りかかった。
「っしゃっ!終わったぁ!」
「うん、お疲れ様。」
宗岡くんが最後の問題を終わらせると、ペンを投げて喜んだ。
みんなで宗岡くんの勉強を手伝っていたが今終わった。
「あっ、もうこんな時間…!
私らそろそろ帰るよ!」
芽李ちゃんが眠たそうな凛ちゃんを起こして帰る準備を始めた。
「じゃあ、俺らも帰るか」
「お?おう。」
宗岡くんと源くんも帰る準備を始めた。
「あ、駅まで送るよ」
私は準備が終わり帰ろうとする四人に声をかけた。
もし迷ってしまっては大変だし駅までは送ろう。
「門まででいいよ、暗いからね」
「…わかった」
別に平気なのに…。源くんは心配性だなぁ。
なんかお母さんみたい。
「じゃーねー!」
「かぐやちゃんバイバーイ」
「またなー!」
「失礼しましたー」
緋子さんと一緒に四人を見送った。
私は手を降っている四人に姿が見えなくなるまで手を振った。
「また明日ね」
姿が見えなくなったみんなに向かってそっと呟いた。
「さぁ、お嬢様。お部屋に戻りましょう」
「…うん。」
私はさっきまでとは打って変わって
静かになってしまった部屋に戻った。