〈仲間になりますか? はい、YES〉
私のために用意してくれたという、かなり豪華そうな部屋。家具も壁紙も、何もかもが白と深紅で統一されていて、高級感が漂っている。
凡そあの平凡は建物の地下とは思えない…。
カップ一つさえ高額なんだろうなぁと思いながら、これまた白と深紅のふかふかベッドに体を沈める。
あのカップ一つが、市民の給料のどのくらいなんだろう…とか流石に考えたくもない。
それはそれとして。
「びっくりしました…。」
そもそも船旅の間から自分の魔法にすら驚いたばかりだったのに…。よもや殺意バチバチの火花を見ることになるとは。
「その様なことがあったとは…。本当に無礼千万です!」
とアドリアナがぽこぽこ怒りながら、お茶を淹れてくれてる。宣言した通り、美味しいお茶とお菓子を。
横のテーブルから漂う香りに、私は体を起こす。
「そんなに無礼なこと何ですか?」
少し前のテーブルで、同じくアドリアナのお茶を嗜む臨さんへ聞いてみる。
前に一度、礼儀の先生にそんな風に怯えられたことはあった。
だけどそれは私の礼儀のなさのせいで、かつ嫉妬が国の文化と思っていた。その先生も何のお咎めもなく…、何も教えられなかったし。
「数ある非礼の中でも、最悪のものと言えます。」
ああ、そう…。
私がげんなりしていると、アドリアナがお茶とお菓子を出してくれた。
お菓子はさくら餅。名前は違うけれど、意味は同じで、味も概ね弥扇で食べたものと同じ。
此方では、和菓子なんて相当マイナーで、余程のマニアでなければ食べたこともないとはいえ…。
やっぱりパラレルなのかなと思う。礼も言語も違うけど、少なくとも動植物は似ている気がするから。
パラレルだとしても、千年くらい前に分岐が起きてそうだけど。
「王に礼を尽くさせ…、まして先に名を名乗らせるなど…。ハッキリ言って聞いたこともありません。
そもそもが王が名乗ること事態、遺憾と言えます。」
あらまぁ。そこからしてアウトなの。…ああ、政府の関係者ではないから、かな。嫉妬が国からすれば、他国のごろつきになるわけか…。
うーん、臨さんの意見もちょっと片寄ってる感じするかな。
「どうして私が知らなかったのでしょう。」
かなり急ピッチだったとはいえ、学は恥ずかしくないレベルになるよう教育されてきたはずだ。
そこまで無礼だと言うのなら、あの礼儀の先生も死ななければならない。
「そんな無礼なことをする者が居ないからです。
まして貴方と接するものは一様に、最低限の学がある前提ですから。」
…そういえば、あの部屋には礼儀の先生と私しか居なかったわね。覚えておこう。
「王は礼を尽くされる立場。それ故、礼を知らずとも不都合はない…と。」
なんか、その王様バカそうね。
臨さんに限らず、うちの国のものたちは平和ボケし過ぎているのかも。
「貴方はどう思われますか?」
扉の前で突っ立ってるオメロさんに、私は笑いかけた。
せっかくなら、反対の意見も聞きたい。
あと…正直、威圧感があるのでいい加減、座って欲しい。そしてアドリアナも臨さんも、彼を存在ごと無視するのを止めて欲しい。
「知らん。」
プイってそっぽ向いてそう言ったので、驚いてしまった。オメロさんの行動ではなく、アドリアナが私に抱き着いてきたことに。
今の速さって…七志対応できた?できた?ねぇ?
「かぐや様ぁ……っ!」
涙声にハッと胸元のアドリアナを見ると…、眼が潰れるかと思った。大きくて可愛いお目目いっぱいに涙をためて、上目遣いでこちらを見ている。
アドリアナが!いつもしっかりもののアドリアナが?!なに?!何が望み?!何がほしい…
はたと、アドリアナの要求を察し、私は敢えてハッキリ言う。
「ダメです。」
「…はーい。」
ブスくれた顔で私から離れていったアドリアナの眼には、既に涙などなく。
アドリアナ、私の弱点を的確に突いてくるようになったね…。大体のことを聞いてあげたくなるけど、殺生は許しません。
「オメロさん。残念ながら、貴方がどれだけ愛想を悪く接して居ようと、貴方の任を解くことはありません。
協力することを推奨します。
理由を言う必要はありますか?」
一連の流れから、オメロさんの立場とか状況は概ね理解したと思う。
オメロさんは軽く溜め息を吐いて腕を組み、背中に体を預ける。ちょっと威圧感が削がれた。
「何のメリットが?」
うん、やっぱり。推測は合ってたみたい。
「2つあります。
1つは貴方がカルディナーレさんが思う以上に優秀であること。
もう1つは、貴方がそれを表に出していないこと。」
多分これで解ってくれると思うので、私は微笑む。貴方のその目論みに当たり、今までの行動は思いっきり悪手だったと言うことね。
「彼女の破滅を望むと言うことか…?」
…本日、2回目の殺意を感じました。
王様なので、これから毎秒殺意を向けられると思った方が懸命な感じね。仕方ないので慣れましょう。
「鈍い方ですね…?
表に出していないからこそ、です。その理由の方ですよ。」
私の言い方、そんなに回りくどいかな…?そんなに難しい話じゃないと思うけど。
「貴方は│嫉妬が王を殺しても構わないほど、カルディナーレさんを大切にしています。」
彼女の手足のために、嫉妬と色欲の戦争を起こそうとした。構わないと判断した。そう言う殺意があったから、七志は貴方を殺そうとした。
それほどまで彼女を守ろうとしている。自分の命を平気で切り捨てようとした彼女を。
「であれば本来、その実力を余すことなく彼女のために使うでしょう?」
カルディナーレさんさえ見誤っている貴方自身の実力。恐らく、七志の殺害は成功しなかった。
多分貴方は、カルディナーレさんと同等以上の力がある。
「なのにそうしないのは、恐らく彼女の立場を考えてのこと。もしくは、彼女自身に消されてしまう可能性?」
多分、その両方。
貴方自身、ボスになんてなる気がないんでしょうし、そんなことのために、彼女から離れたくない。
「そういうギリギリのグレーの立場に在りながらも、彼女を大切にしている。
貴方はきっと彼女と深いエピソードがあるのでしょう。深い関係に。」
でしょ?
だから貴方は名を名乗らなかった。本来であれば王も名乗ることはなく。不遜であると腹を立てるはずだった。そうすることで任務から外させ、カルディナーレさんの側から離れず済むよう。
私が礼を尽くすのは、計算外だったのでしょう。
「であれば、内部の話も知っていそうなもの…。
私がそう考えるのは、自然ではありませんか?」
私に必要なのはその知識。オメロさんの刃は、どうせ私には届かない。
すると、オメロさんはフンッと鼻で笑う。
「俺が饒舌に見えるか。」
ああ、無愛想は素なのね。出来ないのでなく、しないだけなのだから、私は良いけど。
なので私はにっこり笑う。貴方の饒舌さは関係ないから。
「貴方は不出来な方ですもの。
つい、うっかり、マフィアにとって不利益なことを言ってしまい、結果的にカルディナーレさんを助けることになるかもしれないでしょう?」
貴方はこの組織を殺すことも、当然厭わないでしょう。私もマフィアのどうこうは関係ありません。
守るべき対象がハッキリしてる貴方の方が扱いやすい。
「ハッ…。さすが“新王”…か。」
新しい王…、ですか。それと今の会話に何の因果関係が?
もしや、オメロさん…私と契約した誰かを知ってる?
「良いだろう。俺個人としても近頃のオヴェストは気に入らなかった。
協力してさっさと済ませる。」




