〈聖羅 アカシャ 終わりの神 妹〉
さて、そんなこんなで、ついに“外交”へ向かう日は明日へ迫った。
ドッキドキではあるけど、ラムセスとの信頼関係も好転しそうだし、それにこの為に語学の勉強も、文化についても勉強済み!
あとは、まあ、手探りでいくしかないでしょう!
「待て待て待て…」
と、宥めながら私の腕を掴んだのはセーラ。
「ん?どうしたの?」
連れていく気、満々だけど。
今回は長旅になるから、アドリアナも、命さんも、臨さんも、大樹も、七志も、言うまでもなくラムセスも一緒だ。
他にも王国軍と言うところから、何人か来るらしいけど…。
結構な大人数だよね~。楽しそう。
「言っておくが、妾は行かんからの。」
行かない…ダト?!
私は驚愕を目に表し、大袈裟にガクッと倒れた。
「うむ。
何としようが行かぬものは行かぬ。残念じゃったな。」
…どう足掻いても揺らぎそうにないな……。
どうやらセーラにも理由があるようなので、とりあえず立ち上がる。
「ひとつ、目標が出来たのでな。」
「目標?」
ハッ…、まさかセーラも世界征服を狙って…?!
間違った、世界統一だった。
天下分け目の~なんとか!なの?!
「我が目標とは、あまりに途方もなく、そして困難を極める…、しかし、妾が願うて止まぬことじゃ…
姉さんにだけは教えてやろう…。
何せ、姉さんのお陰で、この目標が出来たのじゃからな。」
私のお陰で出来た目標…?
…なんだろう。
やっぱり世界統一……?
でも、それにしては、ちょっと大袈裟な気がする…。
世界統一も十分、難しいことだけど…、でもセーラのはなんか…。
「聞いて驚け?
妾の目標は『死ぬ事』じゃ。
おお、勘違いするな。単に死ぬのではない。
皆の幸せを願いながら死ぬのじゃ。
どうじゃ?
これほど難しいことはなかろう…」
と、セーラは何故かやけに満足気な顔で言った。
私はゆっくりと…しかし、しっかりセーラの両腕を掴んだ。
「…何言ってるの?」
いや、私が理解できないのも当たり前だと思うし…、それにこの反応も正しいと思う。
死ぬことが目標?
何だそれ、ちゃんちゃら可笑しい。
どこが難しいの。
何が、どこが目標だっていうの。
何でそんなキラキラした眼でそんなこと言うの?
しかも私のせいで出来た目標?
意味が解らない。
まさか、最初に川で浮かんでたのも自殺だなんて言わないよね?
「姉さん、違うんじゃ。」
違う…?
「違うって…何が?
意味解んないよセーラ、自殺なんて…!!!!」
「姉さんが怒るのもよく解る。
人にとって自殺とは、これからあるかも知れない、得られたかも知れない幸福や思い出を、今や過去に囚われて捨ててしまうことじゃ。
一概に悪いこととは言えぬが、決して良いことでもない。」
そうでしょう?
私だってセーラと同じ考えよ。
解っているなら…解ってるなら、なんで?
「それは人限定…というか、生きているもの限定の話じゃ。
活きているもの。」
「活力に溢れていないものは違うってこと?
その人だって生きていればいくらでも可能性はー」
「そうでもないんじゃ」
セーラは自分の肩を握っている私の手を掴み、自分の胸へ誘導した。
慌てて手を離そうとしたけど、私は目を見開いて呆然とした。
「だから…、そうじゃな、死にたいと言うのも語弊があったな…。
じゃが、これ以外に言い方を知らぬ。」
そう微笑みながら言うセーラの体温はちゃんと暖かくて、セーラは自分の頭で考え行動できて、そして笑って泣いて怒る感情がある。
ただ、セーラからは心臓の音がしなかった。
「心臓が止まっているのではなく、初めから無いんじゃ。
他の臓器もすべて。
不自然じゃから形だけは創っておるが…すべて機能しておらん。
機能させることもできるが、それも妾にとっては無意味なことじゃ…。」
セーラがそう話している間、確かに一度心臓は動いた…けれど、また動かなくなった。
動いたときも、動かなくなったときも、セーラの様子に何ら変化はない。
「なんで…、どうして」
独り言のように呟いた。
言わずには居られなかった。
構造云々じゃなくて、何でセーラがそんな風に…他の誰か…誰がならなくたって良かっただろうし。
何でセーラがそうなってしまったのか。
そうなるように、選ばれてしまったのか…。
「そういう考え方はしたことがなかったのぉ…
妾が選ばれた…か。」
考えを完全に読み取られたような言動に、私はまたしても驚いた。
セーラは悪戯っ子の笑みを浮かべた
「選ばれた、という考え方はしたことがなかったが…。
御主のお陰で思い出したのじゃ…。
人は、妾をアーカーシャと呼ぶ。
妾は世界の記録者。
御主が思う、誰かが思う過去、未来、現在、すべては妾が記録している。
知っている。
キミがセーラだと思っている名、聖羅は私の愛する人が付けてくれた名前。
どうか、次に逢うときもその名で呼んで欲しい。
私の役目、使命、そして、聖羅の望みと願望。
それら全てはキミのお陰で出来た。
願わくば、この願望が世界に、活きとし活けるものすべてに、存在するもの全てに、そしてキミにとっても善いことであるように。」
本当に祈るように、彼女は瞳を閉じた。
「それが御主の妹じゃ。姉さん。」
目を開いてそう笑った聖羅はいつもの悪戯っ子の幼女に戻っていた。
藍蛇が聖羅に対して当たりが強かったのは
彼女がアカシャであることを知っていたからです。
全てを知っていながら、物事を良い方に運ぼうとしない…
自分達を見捨てた神…とラムセスは聖羅の事をちょっと憎んでます。
感情としては、母親に対しての反抗期に近いですかね。




