〈呼ぶ名〉
私がセーラを妹と言ったことで前回より色々あったみたい。
結局、セーラにまで説得されてしまったことで、妹っていうのはナシになった。
まあ公にはっていうだけ。
アドリアナと似たような立場になるのかな…
「それでは私の書庫の整理でもお願いしましょうか」
「…ああ、そうじゃの。解った。」
そういうわけで、セーラは書庫の管理人2号になった…。
でも後々聞いてみれば、私が最初に見てた書庫は全てではなく…その奥とか地下にまだまだ有ったらしい。
凄いね。
本当に一国のお城だったんだね…。
「一ヶ月後から外交へ向かう。」
………………ん?!!
出たよ、ラムセスのいきなり発言…。
でも、今回は全然良い方ね。
一ヶ月も猶予があるんだから!
「其方、大分鈍っておるのぉ…
それとも外交の意味が解りきっておらぬのか…
両方じゃの。」
ふら~っと部屋に立ち寄ったらしいセーラが呆れたような哀れむような顔をしていた。
その姿を見た私は満面の笑みで駆け寄って抱きついた。
…まあ、後ろに回って顎のせるだけだけど。
出来れば持ち上げたいんだけどね、あんまり体の大きさが変わらないんだ…
「其方らのそれは最早、習性なのかのぉ…」
其方“ら”が誰を指してるのかは、よく解んないけど
「さぁ…?
けど一番落ち着くんだよね~」
暖かいし~、位置的にも丁度良いんだよね。
私もセーラもぼちぼち小さいからかなー
あと関係ないけど、私はセーラに対してはタメ口を使うことに決めた。
家族間で敬語なんて嫌だからね。
…セーラは誰に対してもタメ口だけど。
「…貴方は王だ。
そういう行動は慎め」
そう言ったのはラムセスだったけど、あまりの驚きに少し反応が遅れてしまった。
「え…あ……、はい。
…ごめんなさい。」
驚いたのは、今までラムセスに何かを注意されることって無かったからだ。
アドリアナとか大貴とか七志はよく反対するけど。
ああ…、でも、そっか。
ラムセスは私の使い魔なんだっけ…、多分それって正確には私じゃなくて…
“輝夜”の…何て言うか、王様の…なんだよね。
私は神夜だ。
…それは当たり前のことで、多分忘れられないと思う。
少なくとも、まだ覚えてるから。
「…妾は姉さんの妹じゃ。
其方にとやかく言われる筋合いはない。違うか?」
んん?!
まさかセーラが反抗するとは思わなかった。
「関係ない。
誰かに見られでもしたらどうする。」
相変わらずの無表情だけど、なんかちょっと怒ってる気がするよ…!
セーラも何でそんな言えちゃうの?!
他国の七志でさえラムセスと言い争ったりなんかしないのに…!!
「あー、そうか。
ここは部外者が簡単には入れるような場所なんじゃのぉ…?
じゃが見られたところで子供に優しい王、で済むじゃろう。
それとも、他にもっと理由があるのかのぉ?
“ラムセス”よ。」
いつの間にかラムセスに詰め寄っていたセーラは、やけに冷たい声でそう言った。
冷静…というか、突き放したような…
「その名で呼ぶな!!!!」
?!!
初めて聞いたラムセスの怒鳴り声に、思わず体が強張った。
「…やはり、か。」
やはり……?
するとセーラはふぅ…と少し長く息を吐いた。
「まぁ…割り切ってしまえば仕舞いな話なんじゃが。
邪魔したの」
セーラは片手でひらひらと手を振りながら、私を抜いて外へ出てしまった。
「ラ…」
いつも通りにラムセスと呼び掛けそうになった口を閉じた。
ラムセスはさっき、その名で呼ぶなと言ってた。
…もしかしたら、口下手か私が王様のせいで言えなかっただけで、本当はずっと嫌だったのかも…
「あの…、ごめんなさい。
私が思慮に欠けていたせいで…
…名前も、これからはちゃんと呼びますから…」
やっぱり藍蛇って呼ぶのには、言い様のない抵抗があるけど…
それでも、ラ…、ら、藍…蛇……がそう呼ばれた方が良いのなら、
そうしないと…と思う。
あんまり嫌な思いはさせたくない…
というより、そういう思いをさせて嫌われたくない。
「…ならば貴方も私を“藍蛇様”と呼ぶのか」
「え……、っと」
返答に困った。
元々読みにくい表情だったけど、今はもっと読めない。
喜んでないのは解るけど…。
「そう呼ぶと良い。
私は使い魔だ。」
言い捨てて出て行ってしまった…彼を、心のなかでさえどう呼んだから良いのか解らなかった。




