〈彼女は哀れなるもの〉
「戴冠式?」
パーティ?の一週間後。
朝予定を話されるときに、突然言われた。
そういえばふわっと王様になって一年経ったらしいけど(体感では一ヶ月くらい)
王冠とかないし、王様なのに国民とか…むしろお城の外に出たことがない…!
「一週間後に執り行う
今日からはそれ関連の授業や業務となる」
うーん…、それ関連ってなんだろう…。
やってみれば分かることだね。
とか、タカくくってたら。
「めちゃくちゃ疲れた!!!」
戴冠式って単に国民の前で王冠貰うんじゃなくて
お清めとか、演説とか、お偉いさんとか色々やんなきゃいけないらしい!
演説とか、お偉いさんは…、まあ、頑張ればいけるし、周りに人もいるから大丈夫らしいけど
お清めはボッチらしいのだ!!
説明してくれる人とか誰も居らずに、たった一人で山籠り!
なにそれ拷問?!
ってことでお清めの仕方とか、山籠りの方法とか…そんなんばっかり習ってた。
まあ、食事は運ばれてくるらしいけど…
魔法だから、そこでも人と会えないらしいし……………
大丈夫かなぁ…
そんなこんなんで一週間。
「では、陛下いってらっしゃいませ」
ぞろぞろ集まって…無理なんて言えない空気。
「………………はい」
私はため息をついて、山登りを始めた。
まさか、こんなファンタジーな魔法の国で修行みたいなことするなんて…
ああ、足がおも…くなかった。
そのための大貴だったのかな…?
前々から護身術とか魔法とかなんか色々やってたら体力ついた。
魔法にも体力が必要だなんて…!
あんまり便利じゃない!!
あ、
とか言ってたら、なんかちっこい屋敷が…。
草ボーボーだし、なんか古いし…、近くに川とかあって…なんか浮いてるし
浮いてる…?
………………………あれ、人だ?!!?!!?
第一村人発見!
とか言ってる場合じゃないわ!!
なんで川に浮いてんの?!!?
「…息…はあるね」
生まれて初めて人命救助なんてした…。
しかも、魔法役に立ったし…体のなかに入った水とか上手いこと取れた…。
あんまり便利じゃない何て言って悪かった………
さて
「とりあえず寝かせてみたけど…」
屋敷のなかは普通にキレイでホコリひとつなかったので、布団にすぐに寝かせることができた。
…さっそく濡らしてしまったけど…、まあ洗うものだし。
なにより人命大事!
「…誰じゃ」
私は思わず後退りした。そして後退りしすぎて壁に頭をぶつけた。
…痛い。
あんまりにも唐突にパチッと目を覚ましたものだから吃驚してしまった。
なんか、水に強い種族…とか、そんなんなのかな…?
だったら何で水に溺れたのって言うのは置いといて。
「皇凪 輝夜です。」
国民への演説に散々言った名前を口にした。
皇凪は王様とその家族、限定の名字で、輝夜っていうのは私の命字。
魔法でほいっとやったら浮かんできた。
頭と言うか感覚というか~に。
これで親にすらも伝わらないという寸法だ。
赤ちゃんはそれによって元々覚えてしまうものらしい。
少女はムクッと起き上がって私をジッ…………と見つめた。
「………………ふむ。そうか。
妾はセーラ…オトサワ」
本当に長い間見つめられたあとで、セーラは自己紹介をしてくれた。
久し振りに、聞き慣れた名前を聞いた。
もちろん知り合いって訳ではなくて。
これこそ、普通の名前というものだと思う。
「そう、セーラ。
御両親は?家はどこ?」
私はその距離のまま、正座をしてセーラに向き直った。
いきなり近づいても怯えられるだけと思うし。
「……………………いや、何もない。
親も兄弟も子も家も」
私は息を飲んだ。
つまり、この子は孤児…というわけだ。
天涯孤独……ドラマや映画なんかでしか聞いたことない言葉。
1度は棄てられた子も、かなりの確率で誰かしらには引き取られる。
それほど、今の世の中では子供が大切にされていると言うのに…。
それも、私の元の世界の話ってことだよね…。
「…お腹、空いてない?
あ、それより先に着替えよっか。」
着替えは完備されているみたいだし、食事も運ばれてきている。
「妾には必要ない。」
「必要だから!!!」
私は慌てて首を振った。
まさか死ぬ気じゃないだろうか…。
うん。絶対一人じゃ返さない。
って言うかもう、一緒に住もう。うん。
そのうち私の妹にでもしてしまおうか…!
とか考えながら、セーラに着替えてもらってご飯をあげた。
セーラが食べているうちに、私は白装束へ着替えて滝へ向かった。
これがお清めだ。
そうやって何日もの間 滝に打たれ続けるのだ。
その間、人に会ってはいけなかったのだけど…これも天命だよ!!うん!!!!
あと川は冷たいし、滝は痛いし、お清めっていうか拷問かなぁ、とか考えながら耐え忍んでいると
「何故そんなことをしているのじゃ」
ギョッとしてそっちの方を見ると、セーラが岸にいた。
なんか、やけに近くに感じた…
「も…ブクブク」
「あとで聞く。」
目を細めて言ったセーラに私は苦笑いを浮かべてから、お清めに戻った。
「あれはね、身を清めるための儀式なの」
終えてから、私はセーラと共に家に戻った。
ちなみに今は写経的なものをしている。
古い言葉らしくて、全然読めないけど意味は教えてもらった。
なんか元の家で教わったことと似ている気がする。
すると、私の言葉にセーラは納得したように手を打った。
「其方、戴冠式の最中か。」
戴冠式のこと知ってるんだ…。
最近は、黒い髪に藍色の目の人ばかり見てたから、セーラは海外の子なのかな?と思ってた。
「あ、そこ。」
返事をしようとすると、セーラに紙を指差された。
ん…?
ああっ!
危うく違うところを移すところだった。
「…わっ、危なかったぁ
ありがとうセーラ!」
セーラが指摘してくれなければ、全部書き直しになるところだった…!
…消ゴムのなんと尊いことか………
「ふっ……其方、随分変わっておるのぉ」
そう言われるのは意外だ。
前はどちらかと言えば、大人しいで通っていた……はず!
「そう?
結構常識人だと思ってたけど…」
少なくとも私はそう思ってる。
「ふっ…ふふふっ……ふっ…ふふっ…」
こ、これは……爆笑していらっしゃるぞ!
ツボってらっしゃる!
セーラが笑うんなら…うん、万事オッケーだ。
そんなこんなでセーラと過ごすこと6日。
明日でついに山を降りられる!
セーラの事は何とか隠して…隠しきれなかったら神の御使いとでも言うことにした。
でも、原則として一人で居なくちゃいけないことになってるから…極力隠すつもり。
「輝夜。」
スッとセーラに袖を引っ張られた。
「ん?なぁに?」
一人なら絶対 寂死してたから、セーラが居てくれて本当に良かった。
「良くないものが来る
哀れなるものが。」
セーラの言葉に、私は何度か瞬きをした。
冗談……を言うような子じゃない。
ここ6日間で、彼女が冗談や嘘を吐いたことは1度もない。
全ての言動が的を射ている。
「…どういうこと?」
私はセーラを見下ろさないように、かしずいてその両手を取った。
「どうするかは其方次第じゃが。
妾は急いで山を降りることを奨める。
しかし、もし叶うのなら、あれを助けてやって欲しい。」
セーラの視線が、私を通り過ぎた。
その瞳に映るものを見て私は絶句し、サッと振り返った。
そこへ舞い降りるは、純白の姿をその身に写した…天使。
白い髪と肌。驚くほど穏やかに閉じた瞳。そしてあまりに大きな4枚の翼。
その姿は天使そのもの。
誰もが祈りたくなるだろう…。
けれど、今一度確かめて欲しい。
その天使が、どんな表情を浮かべているのか。




